4名のシェフが和栗の魅力を一皿に。存続危機にある栗を食べて未来へつなげる「2050年に残したい栗のひと皿」レセプション開催

10月22日、和栗の魅力発信や振興を行う『一般社団法人和栗協議会』は、東京・原宿にて「2050年に残したい栗のひと皿」メディアレセプションを開催した。会場では、和栗協議会の活動を実務面で支える『有限会社春華堂』をはじめ、和栗の生産者、企画のオーガナイザーを務めたフレンチシェフ・松本一平さんを含めた4名の料理人も登壇。和栗に携わる各者の想いのほか、固定されがちな栗料理のイメージと一線を画す料理が振舞われた。
和栗の存続に向けて目指す「つながる食の場」

日本において和栗は、米よりも古くから食べられてきた「万年の食物」であり、縄文時代の遺跡からも出土するなど文化・歴史と深く結びついた食材だ。しかし現在、生産者の高齢化や後継者不足などから、生産基盤の維持が危ぶまれており、過去20年間の栽培農家数は40~60%減少している。これは、単に和栗が食べられなくなるというだけでない。栗林の管理が行き届かなくなることにより、里山の維持をはじめとした自然と社会の均衡に影響を及ぼす問題になり得るのだ。
その危機に対して、和栗を地域資源として捉え直し、生産者や自治体、企業などの連携によって産地の再生を目指しているのが、今回のイベントを主催した一般社団法人和栗協議会(以下、和栗協議会)だ。
同協議会は、2022年に静岡県西部の遠州地域で発足した「遠州和栗プロジェクト」を前身とし、2025年に一般社団法人化。「うなぎパイ」で知られる静岡県浜松市の菓子メーカー『有限会社春華堂』が設立を主導し事務局として運営を支えている。
同社は以前から地元産の栗を菓子づくりに使用していたが、産地の高齢化や後継者不足を背景に供給面での課題を抱えていた。そうした状況を受け、菓子メーカーという立場を越え、和栗の生産基盤そのものを支える取り組みに乗り出したという。現在、和栗協議会には約80の企業・団体が参画し、和栗の生産振興や地域資源の活用、里山の再生など、取り組みは多岐にわたっている。

引用:PR TIMES/そのひとくちに、森が宿る。和栗を起点とした食の循環プラットフォーム 食べて語る産地応援「BIKKURI LUNCH 2026」始動(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000136.000025522.html)
そして今回のレセプションは、和栗を食べることを通じて生産者を応援し、農業や森林環境への関心を広げるプロジェクト「BIKKURI LUNCH 2026」に向けたキックオフイベントだ(英国の「The Big Lunch」から着想を受けた同プロジェクトでは、11月16日12:00に全国各地の栗産地や企業・団体などをオンラインでつなぎ、同じ時間に和栗を食べる予定)。食材としての和栗の魅力を発信するとともに、その生産を支える人々や地域の課題に目を向ける機会の創出を目指している。
プロジェクトの目的について、春華堂 専務取締役 兼和栗協議会 事務局長 間宮純也さんは、まず多くの人に和栗を食べてもらい、そのおいしさや魅力を知ってもらうきっかけをつくることが重要だと説明する。

春華堂 専務取締役 兼和栗協議会 事務局長 間宮純也さん
「まずは栗を少しでも身近に感じてもらい、楽しく、おいしく食べてもらうことが大事だと思っています。ただ、栗を残していくためには、生産者の方々が作り続けられることが必要ですし、そのためには、簡単に言えば儲かる仕組みを作らなければなりません。
日本の四季が育む和栗には、世界的に見ても希少な価値があると思っています。料理人の皆さんの力も借りながら、その魅力を国内外に発信し、産業としての価値を高めていきたい。もう一つ大切なのが、森を守り、多様性のある森林を取り戻していくことです。和栗だけを守ろうというのではなく、和栗を通じて一次産業や自然環境にも関心を持ってもらう。おいしいものを食べて楽しみながら、そうしたことを少しずつ伝えていければと思っています」
ビッ“栗”感動! 4名の料理人が引き出した和栗の可能性
栗料理と聞くと、栗ご飯や甘露煮、デザートで言えばモンブランといったものを思い浮かべる人も多いだろう。今回のレセプションで振る舞われたのは、そうした一般的な栗料理のイメージにとらわれない、趣向を凝らした料理たちだ。

日本モンブラン協会会長 大坪直哉さん
当日は、和栗協議会の会員であり、日本モンブラン協会会長を務める大坪直哉さんの司会進行のもと、フレンチ、日本料理、中国料理、イタリアンと異なるジャンルで活躍する4名の料理人が、それぞれの技術や経験を生かした一皿を披露。和栗の甘みや香り、食感といった特性を引き出しながら、その新たな可能性を提示した。

「ホロホロ鳥白レバーのパテと熟成栗の栗きんとん仕立て パンペルドゥ添え」
日本橋のフレンチレストラン『La Paix(ラペ)』の松本一平 シェフは、砂糖を一切使わず、和栗本来の甘みを生かした栗きんとんに、鶏レバーのパテといぶりがっこを組み合わせた「ホロホロ鳥白レバーのパテと熟成栗の栗きんとん仕立て パンペルドゥ添え」を考案。フレンチトーストやメープルのエスプーマなどを添え、甘みと塩味、濃厚なコクが味わえる一皿だ。

「鰻の栗蒸し 鼈甲餡かけ」
日本料理『乃木坂しん』の石田伸二 シェフは、うなぎと和栗を組み合わせた「うなぎの栗蒸し 鼈甲餡かけ」を披露。すりおろした蓮根に焼き栗のペーストを合わせ、うなぎとともに蒸し上げたほか、通常は捨てられる栗の鬼皮を出汁に使用するなど、和栗を余すことなく活用。和食での活用において固定的なイメージのある栗の新たな可能性を感じる一品に仕上げた。

「焼き和栗と赤鶏の秋巻き」
南青山・中国料理『慈華 itsuka(イツカ)』の田村亮介 シェフは、鶏肉と栗を煮込む中国の伝統料理に着想を得て、「焼き和栗と赤鶏の秋巻き」を作成。具材に大粒の栗と熟成和栗のペーストを使用し、仕上げには蒸し栗を削って散らすことで、和栗の異なる風味や食感を引き出した。

「栗と鹿とラディッキォのラザーニャ」
イタリアン『Convivio』の辻大輔 シェフによる「栗と鹿とラディッキオのラザーニャ」も、和栗の新たな可能性を感じさせる一品だ。和栗の甘みにエゾシカの旨み、ラディッキオのほろ苦さを掛け合わせ、ベシャメルソースにも熟成和栗のペーストを使用。イタリア・トスカーナ州での修業経験を持ち、現地でも栗に親しんできたシェフならではの発想が、店の名物料理であるラザーニャに落とし込まれている。
こうした独創的な栗料理に、会場からも驚きの声が上がった。来場者の一人は「どの料理もとてもおいしいだけでなく、栗のイメージが変わるものでした。ジャンルを問わずに合う食材なんだなと新しい気付きがあった」と感想を語る。
また、会場には料理の食材となった、和栗の生産者たちも招かれており、静岡県掛川市で生産に携わる早川正實さんも「見た目も味もおいしくてびっ“栗”しています。地元ではシンプルな調理で食べるので、こうも変わるんだな」と、料理人の技術に感心した様子を見せた。
一方、和栗の魅力を引き出す工夫は、生産者の側にもある。今回の料理にも使用された熟成栗を手がける『松尾栗園』の松尾和広さんは、収穫した栗を約40日間、0~マイナス2度の環境で熟成させ、自然な甘みを高める独自の取り組みを紹介した。松尾さんによれば、収穫直後に12度程度だった糖度は熟成によって24~25度程度に上がり、さらに焼くことで36~40度にまで高められるという。

今回料理を振舞った4名のシェフたち。左から、松本一平 シェフ、石田伸二 シェフ、田村亮介 シェフ、辻大輔 シェフ
中国料理『慈華』の田村さんは、これまで栗を品種ごとに意識して使ったことはなかったと明かし、今回の生産者との交流を通じて、その多様性や熟成による味わいの変化に関心を深めたという。
また、イタリアでの修業時代から栗を料理に取り入れてきた辻さんも、国産栗の品種や用途の多様性に興味を示し、今後は生産者からさらに話を聞いて、新たな活用方法を探っていきたいと語った。
日頃から栗を料理に取り入れている料理人にとっても、栗にはまだ知らない特性や可能性がある。今回のイベントは、料理人の技術によって和栗の新たな魅力を提示すると同時に、生産者と料理人が互いの知見を共有し、その価値を見つめ直す場にもなったように見えた。
なお、今回紹介された全4品は各店舗にて提供され、実際に食べることができる。新たな栗の可能性を感じたいという場合は、ぜひ足を運んでみてほしい(店舗住所、提供期間は記事末に記載)。

和栗協議会考案の挨拶「和栗締め」によって大盛況のまま閉会した
和栗を育てる生産者、その魅力を新たな料理として表現する料理人、そして味わう消費者。今回のレセプションは、それぞれの立場から和栗の価値を見つめ直し、食を通じてつながる機会となった。和栗を次世代へと残していくためには、生産者の努力だけでなく、その価値を知り、楽しみ、支える人々の存在が欠かせない。「BIKKURI LUNCH 2026」を通じて生まれる新たなつながりが、和栗の未来を支える一歩となることが期待される。
1.松本一平 シェフ「ホロホロ鳥白レバーのパテと熟成栗の栗きんとん仕立て パンペルドゥ添え」
La Paix(ラぺ):東京都中央区日本橋室町1-9-4 B1F
提供期間:11月1日~11月30日
2.石田伸二 シェフ「鰻の栗蒸し 鼈甲餡かけ」
乃木坂 しん:東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂 1F
提供期間:11月7日~11月30日
3.田村亮介 シェフ「焼き和栗と赤鶏の秋巻き」
慈華 ituska(イツカ):東京都港区南青山2-14-15 AOYAMA FUSION Bldg 2F
提供期間:10月下旬~11月29日
4.辻大輔 シェフ「栗と鹿とラディッキォのラザーニャ」
CONVIVIO(コンヴィヴィオ):東京都渋谷区千駄ヶ谷3-17-12 カミムラビル 1F
提供期間:11月1日~11月30日
取材・文・写真:土田洋祐
画像素材:PIXTA(https://pixta.jp/)