bizSPA!

88歳現役イラストレーターが第一線で活躍し続けられる秘訣とは?田村セツコさんインタビュー

88歳現役イラストレーターが第一線で活躍し続けられる秘訣とは?田村セツコさんインタビュー

1960年代に「りぼん」や「なかよし」などの人気少女雑誌を中心に活躍し、今なお現役のイラストレーターとして走り続ける田村セツコさん。88歳という年齢を感じさせないエネルギッシュな活動の裏には、どのような仕事観や生活習慣があるのでしょうか。今回は、若手ビジネスパーソンに向けて、長く仕事を楽しみ、自分らしく生きるためのヒントを伺いました。

「仕事が好き」という原動力

――田村さんは長年、第一線で活躍し続けていらっしゃいます。その秘訣を教えていただけますか?

田村:一言で言うと、やっぱり「仕事が好き」なんですよね。一番の根っこにあるのは、大好きな絵に携われることが本当にラッキーだという感謝の気持ちです。若い頃に仕事がなくて苦労した時期の寂しさを覚えているので、今でも新しいお仕事の依頼をいただくと、ワクワクしてうれしいんです。以前観たお芝居で、「あなたがこの仕事を愛したなら、今度は仕事があなたを愛してくれる」というセリフがあって、それをずっと覚えています。だから、旅行やおいしい食事より、仕事をするほうが楽しいんです。

――アイデアが浮かばなくて困ることはないのでしょうか?

田村:もちろん、若い頃からそういうことはありました。そんなときは、神保町の古本屋さんで海外のファッション雑誌を眺めたり、映画館で古い名作を観たりしてインプットをしていました。特にフランスの『ELLE』などのレイアウトは、当時の私にはとても新鮮で大胆に見えたものです。気に入ったページはスクラップして、何度も見返していましたね。意識的に「新しいアイデアを出そう」とするのではなく、素敵なものに出会って楽しみながら情報を吸収することが大切だと思います。

銀行員からの転身と突然訪れた「大きなチャンス」

――かつては銀行員として働かれていたそうですが、なぜイラストレーターの道を選んだのですか?

田村:高校卒業後、最初は手堅くお給料がもらえる銀行の秘書室で働いていました。とても楽しい職場でしたが、1年経ったときに「来年も同じ生活が続くのかな」と考え、大変でも波乱万丈な絵の世界に進もうと決心して辞めたんです。

――その後、すぐに順調にいったのでしょうか?

田村:いいえ、童画家の松本かつぢ先生の紹介で、雑誌のページの端っこに描く小さなカットの仕事をもらうことができましたが、最初は全然仕事がありませんでした。でも、私は「隙間があるから10個くらい描きますよ。選んでください」と、頼まれた以上のものを一生懸命届けていました。そのうちに、ある大事件が起きたんです。有名な先生が急病で描けなくなり、明朝10時までに代わりのページを埋めなければならないという依頼が、編集部から私に舞い込みました。

――まさにピンチヒッターですね。

田村:そうです。徹夜で描き上げて届けたその絵が評判になり、他の出版社からも次々と依頼が来るようになりました。目の前の小さなカット一つひとつを工夫して、楽しみながら続けていたからこそ、巡ってきたチャンスをつかめたのだと思います。

「原宿」という街と規則正しい生活が育む感性

――現在は原宿で一人暮らしをされていますが、日々のルーティーンはありますか?

田村:毎朝6時半に起きて、そこから一日がスタートします。まずお湯を沸かして、コーヒーや紅茶を用意する。朝食はフライパン一つで何でも入れたオムレツを作って、自分で「おいしい!」とほめながらいただきます。午前中は「一番ひらめく時間だ」と自分に暗示をかけて、集中してお仕事に向き合います。

――原宿という街での暮らしはいかがですか?

田村一歩外に出れば若者の活気があり、新しいものと古いものが混ざり合っている。その刺激が、私にとっては最高のエネルギー源です。用事がなくても1日1回は外に出て、街の情報を浴びるようにしています。散歩や買い物で歩くことが、足腰の健康維持にもつながっているんですよ。

孤独やストレスと付き合う秘訣は日記

――仕事や人間関係で悩むビジネスパーソンも多いですが、田村さんはどのようにストレスを解消していますか?

田村:私は小学生の頃からずっと日記をつけていて、日記帳を「一番の親友」だと思っています。誰にも言えない悩みや愚痴も、日記に書いておしゃべりすれば心が落ち着きます。それから、掃除をすることもリフレッシュになりますね。散らかったものを片付けているうちに、考え方も整理されて、失くしものと一緒に「忘れていたアイデア」が見つかることもあるんです。

――SNSとの付き合い方についてはどうお考えですか?

田村:私にとってSNSは「生存確認」や宣伝のための道具で、あまり依存しすぎないようにしています。便利なものは利用すればいいけれど、それよりも自分の手で紙に書く日記や、自分との対話を大切にすることをおすすめしたいですね。

@bizspa_official

1960年代「りぼん」「なかよし」などの少女マンガ雑誌でイラストを務めていた田村さんに少女マンガの今と昔を聞いてみた! #漫画 #少女漫画好きと繋がりたい #kawaii

♬ Up-tempo cute song(1564000) – sanusagi

88歳の今、これから挑戦したいこと

――これからの活動について、挑戦したいテーマはありますか。

田村:高齢者の暮らしや認知症といったテーマを、もっと肯定的に描いていきたいと思っています。年を重ねて頭のネジが少し緩むことを、私は「脳内旅行」と呼んでいるんです。過去と現在が混ざり合う、不思議で楽しい自由な旅路。それを「気の毒」と捉えるのではなく、「なんだか楽しそうだな」と思ってもらえるような、ユーモアあふれる世界観を表現したいですね。

それからもう一つ、私は散歩中に落ちているガラクタを拾ってコラージュ作品の素材にしています。世間では「ゴミ」と呼ばれるものでも、拾って大切にすると生き返るんです。一見価値がないと思われているものや、世の中から忘れられそうなものに光を当てて、「ほら、こんなに素敵よ」と紹介する。そんなふうに、どんな状況でも、どんなモノでも、面白がって大切にする生き方を絵や言葉を通じて届けていきたいですね。

――最後に、若い読者へメッセージをお願いします。

田村:好きなことを仕事にするには、時にはつらいことや嫌なこともあります。でも、それも含めて「面白い経験だ」と思える強さと好奇心を持ってほしいですね。シンプルに、自分の「好き」を大切にしながら、毎日を楽しんでください。

著書『田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』(WAVE出版)
田村セツコの私らしく生きるコツ 楽しくないのは自分のセイ』(WAVE出版)

田村セツコさんの言葉には、年齢や境遇を否定せず、すべてをプラスの表現に変えてしまう魔法のような力がありました。変化の激しい現代で働く私たちにとって、彼女の「今この瞬間を楽しむ」というポジティブな姿勢は、毎日をちょっと明るくしてくれるヒントになりそうです。

ライター&編集者&夜遊び探検家。東京生まれ。週刊誌記者、女性誌編集を経て、タイに移住。雑誌やウェブのライター、フリーペーパー編集長、コーディネーターとして活動後、現在は東京を拠点に、旅やカルチャーなどの記事を執筆。

おすすめ記事