実在する宿や街を“小説”に。物語から旅が始まる「空想旅文庫」、全国約30組との共創計画を発表

あらゆる情報が簡単に手に入る現代において、旅行先を決めるきっかけといえば、観光情報サイトやSNS、動画などが一般的だ。そんななか、実在する宿や地域を舞台にした「小説」をつくり、その物語を入り口に旅へ出てもらうユニークな取り組みが広がろうとしている。
地域プロジェクトの企画・運営などを手がける『株式会社micro development』は9月1日、ローカルステイサービス「空想旅文庫」で、全国約30組の宿泊施設や自治体、DMO(観光地域づくり法人)、企業、地域事業者などとオリジナル小説を制作する共創プロジェクトを始動すると発表した。
実際の宿や街の「物語」を片手に旅へ

「空想旅文庫」は、実在する宿や街を舞台に、その土地の文化や風景、そこで暮らす人々の日常や記憶などを取材・リサーチし、オリジナル小説として作品化するサービスだ。旅行者は旅に出る前に物語を読み、作中の風景を想像する。そして実際に現地を訪れ、小説のなかで描かれた場所や風景と現実を重ね合わせながら宿泊や街歩きを楽しむ。同社では「こたえ合わせは、旅先で。」を掲げ、一冊の小説から旅が始まる体験を提案している。
本サービスは2025年、静岡県伊東市で実施した「inside the drama -伊東/大室山-」を皮切りに開始。同年9月にはADDress、OURoom、稲取銀水荘などへ導入先を広げ、今年7月に本格展開している。

今回の共創プロジェクトでは、「宿泊施設 × 空想旅文庫」「地域プロジェクト × 空想旅文庫」の2枠でパートナーを募集。全国約30組の宿泊施設・自治体・DMO・企業・地域事業者などと、地域を題材にしたオリジナル小説を制作し、宿泊体験や地域回遊、関係人口づくりなど、それぞれの地域や目的に応じた活用方法を検証する。
一冊の小説が地域にもたらすもの
共創プロジェクトの背景にあるのは、地域ごとに異なる課題や目的に対し、「物語」がどのような変化を生み出せるのかを検証する狙いだ。

同社はこれまで、宿泊体験や街歩きなど、物語を実際の地域体験につなげる取り組みを進めてきた。そのなかで、普段なら通り過ぎてしまう場所を訪れるきっかけや、地域との新たな接点を生み出す可能性が見えてきたという。
一方で、地域によって抱える課題や目指す姿は異なる。そこで今回、より多様な地域や目的を対象に、どのような物語をつくり、どう届けることで人の移動や滞在につなげられるのかを探る。
今回の共創プロジェクトでは、完成した作品を活用した体験づくりから、体験者へのアンケートやインタビューまで実施。そこで得られた声をもとに、物語を地域でどう生かせるかをパートナーとともに検証するまでを、一連の進行フローとしている。
募集する共創パートナーは全国30組程度。通常30万円(税別)からとなる企画・作品制作費を原則無料とし、完成した小説の冊子30冊も提供。応募状況によって選考やオンラインヒアリングを行い、10月末から11月上旬にパートナーを決定。11月以降、順次プロジェクトを始める予定としている。
旅行先の情報をSNSや動画で事前に詳しく知ることができるようになった一方、効率よく名所を巡るだけでは、その土地ならではの体験や人との接点が生まれにくい側面もある。
あえて小説という古くからある表現を入り口に据え、実際の風景や人、暮らしと重ね合わせる「空想旅文庫」は、古くからある“小説”という手法から、新たな旅の体験を生み出す温故知新の試みともいえる。さらに、物語をきっかけに生まれた体験が、一過性の観光にとどまらず、地域回遊や関係人口の創出、地域が抱える課題などの接続となるのか。今回の全国展開は、その可能性を探る実証にもなりそうだ。
参考・引用:PR TIMES/空想旅文庫、全国30組の宿・地域とオリジナル小説をつくる共創プロジェクトを始動(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000120735.html)
文:土田洋祐
画像素材:PIXTA