bizSPA!

付加価値を足さずに売上500億超│究極の本質を突く ライフドリンク カンパニーの経営戦略

ニュース

スーパーやコンビニに足を運ぶと、無数の商品がズラリと並んでいる。それらをよく見てみると、目を引くデザインだけでなく、フレーバーや機能性など、それぞれ異なる特徴を打ち出しており、なかには有名人を起用した商品もあり多種多様だ。こうした商品に付与された付加価値は、成熟した市場において消費者の購買意欲を促しつつ、競合と差別化を図るための重要な戦略だ。

『株式会社ライフドリンク カンパニー(以下、LDC)』は、そのような潮流がある中で、“脱付加価値戦略”を掲げるユニークな企業である。LDCが製造するのは、水やお茶、無糖炭酸水といった日常的に消費される飲料。極めてシンプルなラインナップでありながらも業績を伸ばし続け、2026年3月期の連結決算では、売上高526億円と過去最高を更新している。

一見、時代に逆行しているようにも見える同社が、成長を続けられる理由はどこにあるのだろうか。担当者への取材と工場見学を通じて、その理由と脱付加価値戦略に込められた考えを探った。

「本当に必要なものは何か」 LDCがライフドリンクに特化した理由

LDCのルーツは、1950年創業の茶葉卸売業『緑香園』にある。創業以来、同社は小売店向けに茶葉を供給しながら、消費者に求められる商品のあり方を見つめ続けてきた。その後の1972年、LDCの前身である『株式会社あさみや』として法人化。以降は茶葉に限らず、菓子や調味料、氷など、顧客のニーズに合わせ取り扱う部門の幅を広げていく。2000年代には複数の中小の飲料・食品メーカーの買収も行い企業規模も拡大していった。

転機となったのは2015年。投資ファンドとの資本業務提携を機に事業の選択と集中が進められ、経営陣は改めて「自社が本当に価値を提供できるものは何か」を見つめ直した。そこでたどり着いた答えが、水やお茶、無糖炭酸水といった、限りなく本質的なものだった。株式会社ライフドリンク カンパニー 営業本部商品企画開発部 主任 越前真央さんは、この決定の変遷の裏側についてこのように語る。

株式会社ライフドリンク カンパニー 営業本部商品企画開発部 主任 越前真央さん

「それまで、小売が求めていることに対して積極的に応えて幅広く事業を展開していました。ただ、その関わりの中で、時代の移り変わりにつれて、それまで売れていたものが売れなくなっていく瞬間も多く目にしてきました。今売れている商品があっても、5年後、10年後も同じような需要があるとは限りません。そこで、普遍的にニーズがあるものは何なのか? ということを突き詰めていった結果、生活になくてはならない飲料=ライフドリンクに特化していくことになりました」

水やお茶などに対し、消費者にとって重要なのは、水分補給や喉の渇きを潤すといった役割であり、LDCはそうした本質的な価値に着目したのだ。この転換を経て、同社は2017年に社名を現在の「ライフドリンク カンパニー」へと変更。それは単なる名称の変更ではなく、自社が社会に対してどのような価値を提供していくのかを再定義する意思表明でもあり、その後の経営戦略のベースとして機能していくことになる。

ペットボトルも自社で製造。低価格と収益性を両立する仕組み

LDCは現在、50種類以上のPB飲料の受託製造を手掛けており、売上の約6割を占める主力事業だ。一方、2020年からEC限定で展開する自社ブランド「LIFEDRINK」の、強炭酸水OZA SODAなども好調であり、楽天市場では「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を6年連続で受賞するなど、EC市場において存在感を高めている。

LIFEDRINKの商品群を参照すると、公式オンラインショップでは天然水 彩水(あやみず)500ml×24本が1,158円(税込)(=1本あたり約49円、2026年6月時点)と、EC市場でも比較的求めやすい価格帯で販売されており、それが強みの一つだと越前さんは言う。こうした価格競争力を実現している背景には、生産効率を極限まで高める独自の製造体制がある。

加工前のPETプリフォーム。金型にセットされたあとエアの送り込みにより形ができあがる

まずその一つが、内製化だ。取材を行った御殿場工場(2024年4月稼働開始)では、原料である水を地下から取水するところから始まり、お茶の抽出、充填、ラベリング、梱包まで、商品製造における工程を一気通貫で行っている。また、ペットボトルの原料であるレジンを仕入れ、自社工場内でペットボトルの製造もしている。

「中身の入っていないペットボトルを運ぶということは、言ってしまえば空気を運んでいるのと同じです。そこに輸送コストをかけるくらいなら自分たちで作った方が効率がいい」と越前さんは話す。こうした効率化の考え方は、同社の飲料工場全体で採用されている容器の規格にも表れている。ペットボトルは500mlと2Lに集約されており、自社ブランド製品とOEMで共通利用しているほか、キャップの規格も統一している。同一の金型を使うことで切り替え作業を最小限に抑え、生産効率の向上につながっているという。

また、工場内を見学する中で、作業員とすれ違う機会が少ないことに気が付いた。約1.78ヘクタール(=サッカーコート約2.5面分)にもなる広大な敷地に多数の製造ラインが並ぶ規模の大きさを考えれば、明らかに人の姿が少ないように思えるが、越前さんに尋ねると、その理由はほぼ全ての工程が自動化しているためだという。

取材時に製造されていたのは麦茶。機械により目まぐるしいスピードで中身が充填されていく

製造ライン全体に商品ごとのプログラムが組まれており、切り替え時も自動で最適な設定へと移行できる。年間で800万ケースを生産できる大規模なラインを少人数で運営する体制は、当然人件費の効率化にもつながっている。

この徹底的な効率化が図られた製造体制を実現できるのも、ライフドリンクにカテゴリを絞っている点が大きいと越前さんは話す。

密栓を終えた商品たち。この後に自動でラベリング、検品、箱詰めの工程を経て各地に出荷される

「多種多様な商品を展開すると、飲料を切り替えるたびに設備の洗浄や調整が必要になり、その間は製造が行えません。カテゴリを絞ることで、そうした切り替え作業によるロスを抑えることができ、生産量を上げられます。LDCでは、工場の生産能力を最大限活用し、生産量を最大化する『MAX生産 MAX販売』を製造の軸として掲げており、高い稼働率を維持しながら大量生産を行うことで、安定供給と価格競争力の両立ができるんです」

消費が二極化する時代でLDCが請け負う価値

ここまで、普遍的なニーズのある商品カテゴリに絞り込み、徹底した効率化によって安定供給と収益性を両立するLDCのビジネススタイルを見てきた。現在では「脱付加価値戦略」とも表現されるこれらの取り組みだが、越前さんによれば、それは後から整理された考え方に近いという。

「脱付加価値戦略というモデルですが、そもそも付加価値を限りなくそぎ落とすべきだ、という考え方から生まれたものではありません。どういった商品が消費者に受け入れられるのかという視点が根底にあり、そのニーズに寄り添うための設計として、徹底的に効率化を進め、コストを低減させる仕組みを積み重ねていった結果です」

この考え方の根源にあるのは、小売店や消費者にとって本当に必要とされる商品を追求することだ。「脱付加価値戦略」という言葉は、付加価値が重要視されている環境では突飛な響きだが、その本質は「当たり前のことを当たり前にやる」という極めてシンプルで、顧客への真摯な姿勢だった。

そして近年、その価値観が時代の変化と重なり始めている。コロナによる生活様式の変化、そして昨今の物価高によって、消費者は商品の本質をすみ分けて考えるようになった。従来のように複数の選択肢から選ぶ楽しさを重視する買い物そのものを楽しむ消費と、生活に必要なものを調達する消費。その二極化の中でLDCは後者に寄り添う。

もっとも、調達を支える存在であるということは、単に価格が安く、安定供給できればよいという話ではない。生活に欠かせない飲料だからこそ、品質や安全性も同じように重要だ。

不良品の判定を受けた商品を検品する様子。容器の破損や、ラベルのズレ、中身の泡立ちなど、わずかな不備を見過ごさずに品質を維持する。

LDCの企業理念である“おいしさの中心、安心の先頭へ”には、「赤ちゃんからご高齢の方まで、すべての人の“いつも”に寄り添うために、“おいしさのスタンダード”と“確かな安全性”を追求し、毎日のあらゆるシーンで選んでいただける味と品質を持った商品を届ける」といった意味が込められているという。その理念に沿って、誰もが安心して手に取れる飲料を広め続け、生活インフラのような存在を目指していくと、越前さんは語った。

社会的な出来事だけでなく、商品が飽和する日本では選択疲れを訴える傾向も見えはじめ、「調達としての消費」は今後さらに存在感を増していく可能性がある。そうした中でLDCが目指すのは、派手な付加価値競争ではなく、生活に欠かせない飲料を安定して届けることだ。

誰かに強く意識されることはなくても、気が付けばそこにある。当たり前の日常を支える存在として、LDCの歩みはこれからも続いていく。


文:土田洋祐
写真:土田洋祐


bizSPA!編集部

美味しい料理や、素敵な音楽に出会ったときに生まれる仕事へのモチベーション。
記事を通してそんな気持ちを呼び起こすことを目指しています。

人気タグ

おすすめ記事