「小さな手に何度も針を刺したくない…」現場の悲痛な訴えから開発されたアルケアの小児用点滴キット

新生児や乳幼児にとって、点滴は命をつなぐために欠かせない医療行為だ。しかし、子どもは体を動かすことが多く、血管も細いため、点滴漏れやカテーテルの抜去が起こりやすい。再び点滴を確保するためには、幼い患者に再穿刺を行わなければならず、医療者にとっても大きな負担となってきた。
こうした小児医療現場の課題を解決するため、医療用製品メーカーのアルケア株式会社は2026年6月10日(水)、小児専用の点滴固定キット「フィックスキット®・PV 小児」に関するラウンドテーブルを開催した。開発のきっかけとなったのは、現場の小児科医による「子どもたちの手に何度も針を刺したくない」という切実な思いだった。
きっかけは現場の小児科医師の訴え。9年の共同開発の末に誕生した「フィックスキット®・PV 小児」

「フィックスキット®・PV 小児」の共同開発者となったのが、小児科医の塚本桂子先生だ。長年にわたり周産期新生児医療の最前線で尽力してきた塚本先生は、開発当時、国立成育医療研究センター周産期母性診療センター新生児科医長だった。
塚本先生は小児科現場にある慢性的な悩みと、本製品の開発の敬意についてこう振り返る。
「小児の漏れやすい点滴を何とかしたいという思いがありました。学会でいくつかの企業展示を回ったものの、成人のものしかなく、小児向けの製品は市場が小さいなどの理由で、前向きに対応していただけませんでした。その中で唯一、アルケア社さんだけがこの気持ちを真摯に聞いてくださったのです」

2017年の学会での出会いをきっかけに、塚本先生の強い訴えにアルケアが応じる形で、小児専用の点滴固定キットの開発がスタート。そこから医療現場の医師や看護師の意見を何度も反映し、試作品の改良を繰り返すこと9年。妥協のない対話と臨床研究を経て、ついに小児専用カテーテル固定キット「フィックスキット®・PV 小児」が誕生した。
小児専用設計が求められた理由
成人の場合、カテーテルを前腕に固定するが、点滴固定用の資材は一定の規格化されたテープで十分に機能する。しかし、0歳から5歳の未就学児、特に新生児や乳幼児は、前腕の皮下組織が厚く適さないため、手背(手の甲)から点滴の針を刺す必要がある。そうした身体の構造が大人とは根本的に異なる点が多く、単純に大人用のサイズを小さくするだけでは十分ではない。

本製品には小児の小さな手の甲にフィットするコンパクトな設計が施されている。さらに、皮膚への負担を最小限に抑えつつ安定した固定力を両立するクッション付きベーステープや、点滴の刺入部(針を刺している部分)を外側からクリアに視認できる透明なフィルムドレッシング(防水テープ)をキットとして一体化させた。
「これまで、小児の点滴固定は各看護師の経験や手作業の工夫という『個人技』に頼らざるを得ない部分が多々ありました。しかし、この製品が全国の医療施設に普及し、導入が進むことで、点滴固定の方法や観察ポイントが病院やスタッフを越えて統一される医療の標準化が可能になる。それによって、事故を防ぎ、より質の高い看護ができると考えています」
看護現場の心理的負担にも期待
塚本先生は、患者の安全性だけでなく、看護師への負担解消にも本製品の効果を注目している。
「小児科やNICU(新生児集中治療室)で働く看護師にとって、小さな子どもの点滴を管理することは、非常に大きな精神的プレッシャーを伴います。点滴が漏れてしまったら、トラブルを見逃してしまったらどうしよう、という心理的負担がかかっているのです」
実際の現場では、子どもが静かに眠っているからと観察を躊躇した結果、カバーの中で点滴漏れが進行して重篤化してしまうような見落としの要因による事例も報告されているという。本製品によって、いつでも刺入部をひと目で直接観察できる環境が整えば、看護師は子どもを無理に起こすことなく、トラブルを早期に発見できるようになる。
点滴の管理に伴う見落としへの恐怖や再穿刺(刺し直し)の際の心理的負担が軽減されることは、看護業務の効率化はもちろんのこと、NICU小児病棟の看護師の定着にもつながることを期待されている。
「子どもたちの手に何度も針を刺したくない」という現場の切実な声から始まった9年にわたる開発。その思いが形となった「フィックスキット®・PV 小児」は、小児医療の現場が抱える課題の解決に向けた新たな選択肢となりそうだ。
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