なぜ、丸の内は「働きたい街」に選ばれ続けるのか?出社回帰で求められる“働きたくなる”街づくり

現代にとって、働きたくなる街のあり方とは何か。コロナ禍で浸透したリモートワークを見直し、オフィスでリアルに働く「出社回帰」を表明する企業も注目される昨今、現場で働くオフィスワーカーにとっては「そこで働きたい」と感じられるかどうかは、日常生活できわめて重要な課題だ。
近年では、仕事と日常生活のバランスを保つQOL(クオリティ・オブ・ライフ)や、日常での幸せや生きがいを感じられるウェルビーイングへの関心も高まりつつある。両立をはかるには、オフィスを含めた街全体での仕組みづくりも欠かせない。誰もが知り、毎年の『働きたい街ランキング』で上位常連の日本有数のオフィス街、東京・丸の内で、その実現に取り組んでいるのが総合デベロッパーの『三菱地所株式会社』だ。
2002年8月の東京駅を臨む地上37階・地下4階の高層ビル「丸ビル」の竣工から24年、街を行くオフィスワーカーやその家族、恋人など「そこで働く人たちが大切な人と共に、休日も過ごせる街をめざしてきた」と語るのは、同社 エリアマネジメント事業部 部長の大谷典之さん。2026年夏、周辺の企業や店舗のワークショップなどを楽しめるイベント「MARUNOUCHI SUMMER FEST」(〜8月23日)を新たに開催する同社が手がけてきた丸の内エリアでの取り組み、背景を聞いた。
官民一体となり丸の内エリアでの新たな愛着と価値を
オフィスワーカーが帰ると、街は閑散とする。かつてあった、誰もが思い描くであろうオフィス街・丸の内のイメージはもうない。古くから街に根付いている企業や店舗は変わらずとも、建物がひしめくメインストリートの丸の内仲通りには木々が映え、テナントでのショッピングを楽しむ人、カフェで談笑する人などの笑顔も目立つ。
そこにある建物も道路も「人びとの活躍の舞台」だと話すのは、三菱地所の大谷さんだ。丸の内エリアの周辺地域全体を「面」として捉え、東京都や千代田区、近隣の東京駅を運営するJR東日本、そして、周辺地域の地権者も含む「一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」の一員として、まちづくりをすすめてきたという。

三菱地所 エリアマネジメント事業部 担当部長 大谷 典之さん
「街を行く人びとが生き生きとして、仕事だけではなく何もかも一体となって楽しめる街が理想だと思っています。弊社としては、丸の内エリアで官民一体となって2000年頃より『まちづくりガイドライン』に沿って開発を進めてきました。街全体を活かして、オフィスワーカーの方々を中心に、文化的、健康的、創造的な体験をしていただく。それが、街への愛着、新たな価値にも繋がり、企業にも選んでいただける街になるのではないかと考えています」(大谷さん)
これまでの事例では、夏場の酷暑対策のためにミストシャワーが降り注ぐベンチを設置するなど、丸の内仲通りを四季折々で公園化する「Marunouchi Street Park」を開催。20年間、自身もオフィスワーカーとして丸の内エリアを見てきた大谷さんは「子ども連れの親御さんが笑顔を浮かべていたり、近隣で働いていらっしゃる制服姿の方が楽しそうにしていたりと、働くだけの街ではなくなってきたと実感しています」という。
企業を越え、職場から離れた楽しみをもたらす
近年、企業が働く人びとにオフィスで働くことを求める「出社回帰」への機運も高まりつつある。企業が軒を連ねるエリアのまちづくりを考える大谷さんは「この街で生き生きと働きたい」と感じてもらうのが大切だという。そのためには、唯一無二の楽しみをもたらす取り組みも実施してきた。
その一例として、丸の内エリアでは周辺企業を巻き込む「大手町・丸の内・有楽町 仲通り綱引き大会」を2017年から春先に定期開催している。
「直近の2026年5月には、280名以上の方々に参加していただきました。企業対抗戦で、各企業が8名ほどの選抜されたメンバーでチームを組み、予選から決勝へ上がるために戦います。大会が行われるのは昼休みの12〜13時です。会場の丸の内仲通りでは、メインストリートの中心で汗を流しながら綱を引く方々や応援される方々で盛り上がり、同じ企業でありながら部署の異なる方々の交流が生まれ、普段働いている地域に『こんな企業があったんだ』と知るきっかけにもなるという声もあります」(大谷さん)

三菱地所グループが推進する、丸の内「まちまるごとワークプレイス」構想のイメージ。135年以上にわたるまちづくりによって築かれた「利便性と集積」を踏まえ、働き方の質や効率を高めることをも目標にしている
そこに通うオフィスワーカーが「街に来るモチベーションをいかに生むか」が鍵になると、大谷さん。三菱地所では丸の内エリアだけではなく、大阪・梅田で人と自然の共生をテーマとした新拠点「うめきたの森」を2026年11月に代表企業として開園するなど、各都道府県の主要都市でまちづくりをすすめている。丸の内エリアでの取り組みは、他の地域にも再現性をもたらせるのか。
「丸の内エリアでの実例を、他の地域に応用することは可能だと思います。たとえ、地域が変わってもまちづくりの根幹となる考え方は一緒だと思うんです。例えば、弊社ではデベロッパーとして建物やインフラなどのハード、そのエリアに生きる人びとに価値を感じていただけるソフトを両立する『ハードとソフトを一体化したまちづくり』を目指していますが、それ自体は場所が変わっても普遍的だと思っています。
ただ、何がなじむのかは地域によって様々です。オフィスワーカーや訪れる人びとはいても、住民のほぼいない丸の内エリアと、他の地域では求められるものは異なるはず。街を知り、街に活気をもたらすべく、開発を続けていくのがデベロッパーの役割だと思っています」(大谷さん)
酷暑下のねぎらいで生ビールの引き換えなど、非日常の体験を提供

オフィスワーカーを支える家族や恋人、友人なども一緒に楽しめる街へ。三菱地所はこの夏、丸の内エリアで新たにイベント「MARUNOUCHI SUMMER FEST」を仕掛けた。メインストリートとなる丸の内仲通りと周辺地域では、8月23日まで、有名コーヒーチェーンによるバリスタの職業体験やアパレルショップでのアート作品づくりといった、様々なワークショップ(要申込)などを展開している。

イベント期間中、丸の内エリアのメインストリート「丸の内仲通り」には、花々を編んだ14基のアーチ「花の回廊」が登場。日中は爽やかな涼しさを感じられる一方、夜になればライトアップによって幻想的に彩られる。

Marunouchi Happ. Stand & Gallery オリジナルドリンク
また、周辺の大手町や有楽町で働く人々も含む丸の内エリアのオフィスワーカー向けサービス「MARUNOUCHI WORKERS」の会員を対象に、ダーツでしのぎを削る「丸の内ワーカーズカップ 2026 ~企業対抗ダーツ王決定戦~」も開催。
周辺のカフェでは酷暑下でのねぎらいとして、ブルーの鮮やかさが清涼感をもたらすノンアルコールの「ブルーシトラス ソーダ」または生ビールのいずれかがクーポン提示で引き換えられるなど、街で働く人びとに非日常の体験を提供している。
本イベントの開催について「1年以上の準備期間を費やしました」と大谷さんは振り返る。ワークショップなどを企画するにあたって、丸の内エリアを盛り上げるべく周辺企業へと働きかける苦労もあったそうだ。

丸の内エリア内の飲食・アパレル・サービスなど、50以上の企業にて、ワークショップも実施されている
「元々の『この街で働いていてよかったと思っていただきたい。そして、働く人たちが大切な人たちとの思い出を作っていただきたい』という思いでスタートしたプロジェクトでした。準備期間では、ワークショップに参加していただくテナントを一社一社まわって趣旨を説明しましたが、想定を超える50社以上の方々が協力してくださいました。夏の定番イベントとして根付かせ『また丸の内に来たい』と思っていただける機会になればと願っています」(大谷さん)

衣食住をつかさどる自宅はもちろん、生活の中で多くの時間を過ごす職場も「日常の一部」であるのは間違いない。そして、自身の職場だけではなく、周辺も含めて「愛着を抱けるかどうか」もやはり欠かせない。三菱地所による丸の内エリアでの取り組みは、他の地域にも広がりうるロールモデルだといえそうだ。
三菱地所株式会社
1937年に設立された総合不動産デベロッパー。オフィス、商業施設、住宅、設計監理や不動産仲介、海外事業をはじめ、エリアマネジメント、ホテル、空港、新事業創出やDXなど多岐にわたる事業を展開。近年は、街全体の魅力向上を目指すエリアマネジメントにも一層注力し、多様な人々が集い、働き、交流する街づくりを推進している。
取材・文:カネコシュウヘイ