【独自取材】信頼は服に表れる。白洋舍×銀座英國屋、老舗2社が語る「装いを整える」ことの矜持

リモートワークの普及やビジネスウェアのカジュアル化などにより、仕事着は多様化している。ただ、大切な商談や外部への事業発表など、ここぞという場面でスウェット姿のビジネスマンはまずいないだろう。仕事着への考え方が変わっても、“装いを整える”ことの意味が失われたわけではない。むしろ、その機会が限られる今だからこそ、装いにはその人の考え方や姿勢がより表れるともいえる。
そんな装いについて、衣類のケアという立場から120年にわたって支え続けてきたのが、クリーニング大手『白洋舍』だ。しかし我々は、普段クリーニングに出した服が、どのような工程や技術によって仕上げられているのかはほとんど知らない。
そこで今回、白洋舍と同じく人々の装いに関わり続けてきた、オーダースーツの老舗『銀座英國屋(以下、英國屋)』とともに白洋舍の工場を訪問。英國屋で仕立てられた一着が、どのように仕上げられていくのかを追った。そして「仕立てる側」と「支える側」として別の立場から服を通じて人と向き合ってきた両社に、仕事における信頼と、いま改めて考える装いを整えることの意味について尋ねた。
「大切な一着」を支える。白洋舍のクリーニング
今回、白洋舍の工場へ編集部とともに訪れたのは、英國屋の織田さん。2016年の入社以降、スタイリスト(接客担当)として現場に立ち、装いに高い信頼性を求める顧客を相手に、お一人おひとりの要望や着用シーンに応じたスーツを提案している。

銀座英國屋 東京銀座店 副店長 織田さん
その日々の業務のなかで、顧客からクリーニングやメンテナンスについて尋ねられた際には、白洋舍の名前を挙げてきたという。ただ、利用・紹介をしているものの、工場でどのような工程を経て仕上げられているのかは知らなかったそうだ。今回の見学に対して「とても楽しみです」と、織田さん。
この日、見学するのはスーツの仕上げの工程だ。クリーニングの数ある工程のなかでも職人の腕が表れやすく、スーツ本来の立体的なシルエットや風合いを損なわずに整える技術が求められる。
担当するのは白洋舍の守屋さん。社内の技術資格制度で1級のさらに上に位置する『マイスター』の資格を持つ、この道20年の大ベテランだ。

守屋さんは、まず洗浄を終えたスーツの上下をそれぞれ専用の仕上げ機にセット。アイロンによる細かな仕上げに入る前に、蒸気を当てて生地全体のシワを伸ばし、形を整えやすい状態にしていく。
「生地やデザインに応じて蒸気の量やあてる時間も細かく調整しています」と守屋さん。一見すると機械任せにも見える工程だが、そこにも長年の経験と技術が生かされている。

蒸気による下準備を終えると、続いてアイロンを使い本格的な仕上げに移る。細かく複雑な部位や、スーツがもつ立体感やシルエットを生み出すため状態を見極めながら手作業で整えていく。

守屋さんが淡々と手を進めていくうちに、平面的だったジャケットがみるみると立体感を取り戻していく。その様子は服がまるで息を吹き返していくようで、織田さんも「すごい、ここまで変わるんですね」と声を漏らす。

入念なアイロンがけを終えて、スーツが仕上がった。「ものすごい立体感。実際に着用しているような仕上がりです。これは気持ちよく着られそうです」と織田さんは笑顔で話す。
「今回は白洋舍のコースのなかでもハイグレードな『ローヤルクリーニング』でお預かりしました。まず念入りに検品をしたあと、シミ抜きを行い、素材に合わせた洗浄をし、仕上げをさせていただきました。ボタンも水牛の角からできた特殊なものだったので、ボタンロックというカバーをつけて破損や傷がないようにしました」(守屋さん)
この対応は決して今回のために特別に行われたものではない。白洋舍では、品物を預かった段階から素材や状態、付属品までを細かく確認し、その一着に合った手入れを施しているという。
また、スタンダードなコースから、より細かな手入れを行うコースまで複数の選択肢を用意。衣類の状態やご要望を丁寧に確認し、最適なコースを提案するなど、お客様一人ひとりに寄り添った対応を行っている。

白洋舍 多摩川工場 仕上げマイスター 守屋さん
「一着ごとの状態をしっかりと見極めることを大切にしています。ただ、作業は職人個人の判断だけに頼るのではなく、白洋舍として定めた基準や手順もあります。一着ごとの見極めと、そうした基準を両立させながら作業することが大切ですね。
そのうえで、お客様が必要なタイミングに間に合わせるのはもちろん、気持ちよく着ていただける状態でお渡しすること。そして、『またお願いしたい』と思っていただけるよう、日々作業をしています」と守屋さんは、一着一着に向き合う姿勢を話した。
服と向き合うことは、人と向き合うこと
白洋舍の工場にて、実際にスーツが仕上がっていく過程を目の当たりにし、見えてきたのは、機械と手作業を使い分けながら、服の状態を細かく見極めていく仕事だった。では、こうした仕事の根底には、どのような考えがあるのだろうか。
今回工場を訪れた英國屋の織田さんと、白洋舍 マーケティング戦略推進部 部長 穐津健太さんに、それぞれの立場から、服と向き合うこと、その先にある「信頼」について聞いた。
──今回、実際に白洋舍の工場でスーツが仕上がっていく工程をご覧になって、率直にどう感じましたか?
織田さん:やはり技術の高さですね。少し専門的になりますが、ゴージラインや第1ボタンにかけてのライン、肩回りの仕上がりなどが柔らかさを残しつつも、熟練のアイロンワークでしっかりシワが伸ばされている。これは一朝一夕でできることではないので、その技術を実際に目の前で見ることができて感動しましたね。

ハンガーに掛かっている状態でも非常にきれいなので、実際に着たときにはさらにきれいに見えるだろうなと思います。改めて白洋舍さんならではの安定した仕上がりを感じました。
──英國屋では以前から、お客様からスーツのお手入れ方法について相談された際に、白洋舍を紹介されてきたそうですね。
織田さん:はい。お客様の大切なお洋服ですので、やはり安心して任せられるところをご案内したいという思いがあります。白洋舍さんはウールだけではなく、カシミヤやシルクといった特殊な素材でも安定したクオリティで仕上げてくださるという信頼がありますので、名前を出させていただいております。
実際に利用されたお客様からは「仕上がりが非常に素晴らしい」や「技術力が高い」といった声も多くあり、テーラーという立場からも、安心してお客様の大切なお洋服を任せられる存在ですね。
──このお話を受けて、率直にどのように感じられましたか?

白洋舍 マーケティング戦略推進部 部長 穐津健太さん
穐津さん:非常にありがたいですね。英國屋さんがお客様に白洋舍をご紹介くださっていたことは今回初めて知りました。私たちの仕事を評価し、信頼していただけたことを大変うれしく思います。
白洋舍では、お客様と直接接するスタッフも、工場で品質を支えるスタッフも、バックオフィスのスタッフも、それぞれの持ち場で「お客様にもっと喜んでいただくにはどうするか」を常に考え、お品物一点一点に向き合って来ました。その積み重ねが、今回のお話につながったのではないかと感じます。
──“信頼”という言葉が出ましたが、白洋舍は「品質・信頼を守りながら便利に」、英國屋は「信頼を得られる装い」といったものを掲げています。両社にとって、信頼というものをどのように考えていらっしゃいますか?
穐津さん:白洋舍にとって、品質と信頼は切り離せないものだと考えています。クリーニングは、お客様の大切なお品物をお預かりする仕事ですから、一度でも期待を裏切れば、それまで積み重ねてきた信頼を損なうことにもなりかねません。
だからこそ、目の前のお品物に対して、その素材や状態に合った最適な方法を選び、きちんとした品質でお返しする。その一回一回の仕事で期待に応え続けることが、「白洋舍なら任せられる」という信頼につながっていくのだと思います。だから、服を大切に扱うということは、その服を着るお客様を大切にすることでもあると思っています。
織田さん:私たちの仕事は、お客様と直接対話しながら、その方に合った一着を仕立てていく仕事です。仕上がりのご要望はもちろん、どのような場面で着るのか、なぜその一着が必要になったのかといった背景や、小さな不安までしっかりと汲み取り、寄り添うことを大切にしています。
また、小さな約束を守ることや、些細な連絡を忘れずに行うことも大事にしていますね。そうしてお客様と向き合いながら完成した一着は、私たちにとっても感慨深いものがあります。
今回、白洋舍さんの仕事を拝見して、服を通じて一人ひとりのお客様にしっかりと向き合い、寄り添うという姿勢は、私たちと共通している部分なのだと改めて感じました。
──ビジネスウェアのカジュアル化が進み、以前ほどスーツを着る機会がない人も増えています。そうした時代で「装いを整える」ことには、どのような意味があると考えていますか?

織田さん:装いを整えるということは、単に見た目をきれいにするということではなく、相手への真摯な姿勢や敬意を示すことだと考えています。スーツに限らず、場面に応じた服装を選ぶことは、お相手やその場を大切にしているという意思表示でもある。ビジネスウェアのカジュアル化が進んだ今でも、そうしたことの意味自体は変わらないと思っています。

穐津さん:いまお話があったように、私自身も装いはその人自身を体現するものでもあると思っています。どのような服を着るかはもちろんですが、同様に服をどのように扱っているかも大切だと思っています。
たとえ上質な服であっても、シミがあったり、ほつれがあったりすれば、せっかくの装いが相手に与える印象も変わってしまいます。装いを整えるということは服を選ぶことだけではなく、日頃から手入れをして良い状態を保つことも大切です。
英國屋さんが仕立てを通じて、その方にふさわしい一着をつくる。その一着を良い状態で着続けられるよう、私たち白洋舍はクリーニングを通じて装いを支えていく。そうした役割を担っていきたいと思っています。
──最後に、今後お互いにどのような関係を築いていきたいと考えていますか?
穐津さん:普段、クリーニングに出した服がどのような過程を経て仕上げられているのかは、なかなか見えにくいものです。今回、英國屋さんに実際に工場へお越しいただき、私たちがどのように服と向き合っているのかをより深く知っていただけたことは、非常にありがたい機会でした。
すでにお客様に白洋舍をご紹介していただいておりますが、実際の現場や仕事への向き合い方まで知っていただくことで、より具体的に私たちの仕事をお伝えいただけるのではないかと思います。
これまでのつながりを大切にしながら、ときには相乗効果を生み出せるような関係性を築けていければと思います。
織田さん:英國屋としても、これから先も長くお客様に必要としていただける存在でありたいと考えています。私たちは100年続く企業を目指していますが、そのためには、長い歴史を持つ白洋舍さんから学べることがたくさんあります。

今回、実際の現場を拝見して、一着一着に対して細かいところまで丁寧に向き合われている姿勢が非常に印象的でした。そうした仕事への向き合い方も参考にしながら、私たちもお客様との信頼を一つひとつ積み重ねていきたいと思っています。
白洋舍
1906年創業。国内で初めてドライクリーニングを実用化し、日本におけるクリーニングの普及・市場を牽引してきた老舗企業。現在は一般家庭向けのクリーニングをはじめ、リネンサプライやユニフォームレンタル、ハウスクリーニングなど幅広い事業を展開。創業者・五十嵐健治氏が唱えた「奉仕の精神」と「開拓者精神」を礎に、長年培ってきた技術力と品質を生かしたサービスを提供している。2026年に創業120周年を迎えた。
銀座英國屋
1940年創業のオーダースーツ専門店。創業者・小林新三郎氏が東京・日本橋で洋服店を開いたことから始まり、1952年に銀座へ『銀座英國屋』を出店した。「信頼を得られる装い」を掲げ、熟練のフィッティングと縫製技術を生かしたフルオーダースーツを、メンズ・レディースともに展開。顧客一人ひとりの体型だけでなく、仕事や立場、着用する場面まで踏まえ、その人にふさわしい装いを提案している。
取材・文・写真:土田洋祐