未成年にも広がる被害『AI性的ディープフェイク』は法律で裁けるのか│弁護士が解説

生成AIの普及と進歩によって、「性的ディープフェイク」が世界中で問題になっている。スマートフォンに保存された写真一枚を入力するだけで、被害者が知らないまま性的な偽画像が生成され、ネット上に拡散されていってしまう。これまで海外を中心に取り沙汰されていたが、日本でもその波が波及しつつあり、被害者の訴えだけでなく、加害者が摘発されるケースも確認されている。この新たな性暴力の被害を受けたとき、現行の法律でどこまで戦えるのか。アディーレ法律事務所の正木裕美 弁護士に尋ねてみた。
性的ディープフェイクの適用可能な法律と条件について

まず前提として、現在の日本においてディープフェイクに特化した法律はまだ制定されていません。ただし、既存の法律に該当する場合には、処罰の対象となる可能性があります。
対象となりうる罪名としては、名誉毀損罪、わいせつ物頒布等罪、児童ポルノ禁止法違反、著作権法違反などが挙げられます。
例えば、実在する児童の写真などを利用して作成されたわいせつ画像であれば、児童ポルノ禁止法違反に該当する可能性があります。また、既存のアダルト作品にて、出演者とは別の芸能人の顔を合成した性的ディープフェイクを作成・公開した場合には、著作権法違反となる可能性があります。
各罪状についての線引き・条件は以下の通りです。
■ 名誉毀損罪
実在する人物の性的ディープフェイクを生成し、インターネット上など不特定多数が閲覧できる状態で公開した場合、その人物の社会的評価を低下させる行為として名誉毀損罪が成立する可能性があります。一方で、クオリティが低く一般人でも偽物と容易に判断できるものや、合成画像であることが明示されているものについては、社会的評価の低下が認められにくく、名誉毀損罪の成立が否定される可能性もあります。
■ わいせつ物頒布等罪
性的ディープフェイクのうち、「いたずらに性欲を興奮または刺激し、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」と評価されるわいせつな表現を、不特定または多数人に向けて頒布・公開した場合には、わいせつ物頒布等罪が成立する可能性があります。
これは実在する人物かどうかにかかわらず問題となりえますが、被害者本人が性的被害と感じていたとしても、法的に「わいせつ」と評価されなければ処罰が難しいケースもあります。例えば、性器が写っていない下着姿や上半身のみの画像などでは、犯罪成立が認められにくい場合があります。
■ 児童ポルノ禁止法違反
18歳未満の実在する児童の画像などを利用して性的ディープフェイクを作成した場合には、作成・所持・提供などが児童ポルノ禁止法違反となる可能性があります。ただし、実在しない架空の児童キャラクターのみを用いた場合には、現行法上では規制対象外となるケースがあります。
■ 著作権法違反
既存のアダルト動画などに別人の顔を合成して動画を作成・公開した場合には、複製権や翻案権、公衆送信権などを侵害し、著作権法違反となる可能性があります。また、違法アップロードされた動画へのリンクを掲載する行為についても、状況によっては法的責任が問われる可能性があります。
海外では進む法整備、日本が慎重な理由
既存法と照らし合わせ、条件に当てはまれば処罰される可能性はあるものの、先述した通り、ディープフェイクに特化した法律はまだ制定されていないため、現状では「作成行為そのもの」を包括的に処罰することは難しいのが実情です。
一方、海外では性的ディープフェイクに対して法整備は積極的です。例えば、EU(欧州連合)ではAI法(AI Act)の整備が進められており、本人の同意なく性的画像を生成するAIシステムへの規制について議論されている動きがあります。
また韓国では、本人の同意のない性的合成画像・動画の制作や流布に対してはすでに刑事罰が導入されており、性的ディープフェイクについて特に先進的な印象です。近年では、未成年被害やTelegramを通じた拡散問題などを受け、さらに規制強化が見込まれています。
日本でも、本人の同意のない性的ディープフェイクの作成自体を規制したり、現行法では規制できない事例に対応するためには、新たな立法措置が必要になると考えられます。
しかし、先述した通り、現時点で日本にはディープフェイクに特化した法律はありません。被害実態の把握が十分に進んでいないことに加え、映画やパロディ、VTuber、二次創作などとの線引きが難しく、表現の自由への配慮も求められていることから、新たな法整備の必要性が指摘される一方で、まずは既存法やガイドラインで対応できるかを検討する状況が続いています。
被害者がまずやるべきこと(証拠保全・削除請求の手順)

性的ディープフェイクによる被害を最小限に抑えるためには、まず証拠保全を行ったうえで、速やかに削除対応を進めることが重要です。
削除前に証拠を残しておかなければ、後に刑事告訴や損害賠償請求などを行う際に立証が困難になる場合があります。そのため、投稿されたURLや投稿画面、画像・動画の内容が分かるように、スクリーンショットや画面録画、印刷などで保存しておく必要があります。
その後、プラットフォームに対して任意の削除請求を行います。多くのサイトでは削除依頼フォームや通報窓口が設置されており、費用をかけず比較的簡易に申請できる点がメリットです。
ただし、任意削除には応じてもらえない場合もあり、削除によって発信者情報開示請求に必要な情報が失われてしまうケースもあります。
そのため、任意対応で解決が難しい場合や、検索サイト上に表示され続けている場合などには、裁判手続きを利用した削除請求が必要になることもあります。
また、加害者が判明している場合には、加害者本人に対して直接削除を求めることも可能ですが、さらなるトラブルにつながるおそれもあるため慎重な対応が必要です。
それぞれの手続きにはメリット・デメリットがあります。自身で対応することも不可能ではありませんが、性的ディープフェイクの問題は被害が大きく緊急性も高いため、早い段階で弁護士へ相談することが望ましいでしょう。

■担当弁護士プロフィール
アディーレ法律事務所 正木裕美 弁護士
一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富。コメンテーターとして、難しい法律もわかりやすく、的確に解説することに定評がある。
アディーレ法律事務所HP: https://www.official.adire.jp/
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