ドローンが空のインフラになる未来 仕事と暮らしはどう変わる?│ブルーイノベーションが描く次世代社会

無人航空機ことドローンは、2010年代半ば頃から空撮用途を中心に一般にも広く認知されるようになった。その後、技術の進歩とともに活用領域は広がり、インフラ点検や物流、防災、農業など、さまざまな領域で導入が検討されている。こうした動きを支えているのが、1999年に設立した『ブルーイノベーション株式会社』だ。
同社は「道なき空に、道をつくる。」とブランドメッセージを掲げ、次世代に向けて、空のインフラ整備・実現を目指している。ドローンが私たちの頭上を当たり前に飛ぶようになったとしたら、仕事や生活はどのように変わるのだろうか。
ドローン活用を支える独自プラットフォーム『BEP』
ブルーイノベーション株式会社(以下、ブルーイノベーション)は、ドローンやロボット、各種センサーを遠隔で制御・統合管理するプラットフォームを活用し、社会課題の解決に向けたシステム開発を手掛ける企業だ。防災・環境コンサルティングとしてスタートし、後に災害調査や海岸監視を目的に無人航空機へ着目。ドローンが一般に普及する以前から産業利用に取り組み、日本のドローン活用をけん引してきた存在である。

同社を語る上で欠かせないのが、『Blue Earth Platform®(BEP)』だ。センサーモジュールとソフトフェア(アプリ・クラウド)で構成された独自開発のデバイス・データ統合プラットフォームであり、ドローンやロボットと接続・連携することにより、任意の作業を遠隔かつ自動で遂行する。起動をはじめとした動作だけでなく、取得データの保存・連携・監視、運行管理をシステム一つで担い、さらには他システムとのAPI連携も行える。
BEPのシステムを用いてユーザーの課題や適用業務に合わせたソリューション群を、同社は「BEPパッケージ」と銘打ち、あらゆる領域で活躍の幅を広げている。
社会課題の解決を支えるBEPソリューション
そのまず一つが、プラント設備や下水道などの公共インフラの点検を目的としたソリューションだ。従来の点検作業では、危険作業による労働災害のリスクと隣り合わせにあった。また、多人数による目視検査で生じる結果のばらつきや、少子高齢化による労働力不足など、さまざまな課題がある。
こうした課題の解決に向け、ブルーイノベーションでは屋内用点検ドローン「ELIOS 3」(Flyability社製)を活用したインフラ点検ソリューションを提供している。

屋内点検用ドローン「ELIOS 3」は、片手で持ち運びできるほどの重量でありつつ、外殻の保護により壁や落下物に接触しても飛行精度に影響が起きにくいため、下水道管などの狭所での活用もできる。(下)デモフライトにより記録された飛行ルートおよび3Dマッピング
「ELIOS 3」の特性を活かし、高所・狭所はもちろん、有毒ガスや放射線に汚染された環境でも安全に点検を行える。屋内ではGNSS(衛星測位システム)の電波が届かないため、一般的なドローンによる安定飛行は容易ではないが、「ELIOS 3」は搭載されたLiDARや各種センサーを活用することで、GNSSが利用できない環境でも安定した飛行が可能だ。
また、取得した飛行データを活用して過去と同様の経路を再現しながら自動点検が行える。これにより、設備の経年変化や異常の有無を効率的に比較・確認できる点が魅力的だ。
引用:ブルーイノベーション株式会社 YouTubeチャンネル
こうした仕組みによって、作業の安全性向上だけでなく、工数が削減されることで、点検頻度の向上も図れる。例えば、これまで年2回だった定期点検を毎月実施できるようになれば、異常の兆候をより早く把握できるため、設備停止や重大事故のリスク低減にもつながる。
さらに、コスト面においても、恩恵は大きく、送電線点検ソリューション「BEPライン」を活用した送電線点検の一例では、1径間あたり、従来は作業員3名体制で約3時間を要していた点検作業が、導入後は、作業員2名体制で約1.5時間へと削減され、その分の人経費などが抑えられた。
次いで注目されているのは、防災領域での活用だ。津波避難支援を起点とした運用で展開されていた「BEPポート│防災システム」を、地震・津波・洪水・土砂災害・林野火災など、複数災害へ対応可能な“広域災害対応インフラ”への発展を推進している。

「BEPポート│防災システム」は、Jアラート(全国瞬時警報システム)と連携しており、受信から1分以内にドローンが自動で離陸。その後、「避難広報」「被災状況の確認」「要救助者の捜索」といった、複数の災害対応を自動かつ連続で実行。各ミッション終了後にはポートへと戻り、次なる起動に向けて充電も行う。人手による再出動も必要ない。「BEPポート│防災システム」が注目されている点は、この人手不要の全自動機能だ。

すでに「BEPポート│防災システム」は千葉県一宮町に導入され、「津波避難広報ドローンシステム」として実稼働している。(下)2025年7月30日に発生したカムチャッカ半島沖地震に伴う津波注意報・津波警報下において、稼働した際のドローン搭載カメラからの状況把握
災害時にはいち早い被害状況の把握こそが重要事項で、そのスピードによって救助活動を含めたその後の対応が左右される。しかし、道路の寸断や浸水、土砂崩れなどによって現地への立ち入りが困難になるケースは少なくない。その「情報の空白」を埋める役割を、「BEPポート│防災システム」が担う。上空から被災状況を確認することで、救助計画の立案や避難指示の判断を支援。人が危険な場所へ立ち入る前に状況の把握が行えるため、二次災害のリスク軽減にもつながる。

また、救助活動だけでなく、その後の復旧作業においても活用が期待されている。がれきが重なった狭い場所や、配管・設備の内部など、人が入りにくい場所の状況を把握できるため、復旧に向けた調査や作業計画の効率化にも寄与する。埼玉県八潮市の道路陥没事故では、先に紹介した「ELIOS 3」による下水管内調査を実施し、人が立ち入れない環境での状況把握に貢献した。
そのほか、BEPのシステムは物流をはじめ、データ分析、さらにはドローンを軸とした教育にまで範囲を広めている。また農業分野においては、台湾のドローンメーカー『Aeroprobing Inc.』と協業し、日本で培った防災・点検分野の社会実装ノウハウをアジアへ展開する取り組みとして、2026年内に台湾市場での展開、翌年にはインドネシアをはじめとするASEAN市場での展開を予定している。
「技術の進化で人々の豊かな生活の実現に貢献したい」ブルーイノベーションが描く未来

ブルーイノベーション 熊田貴之 代表取締役社長
ブルーイノベーションの取り組みの根底には、テクノロジーによって社会課題を解決し、人がより安全かつ豊かに暮らせる社会を実現したいという考えがある。熊田貴之 代表取締役社長に、現在のドローン産業市場、そして当たり前に活躍する未来について尋ねてみた。
──ブルーイノベーションは、長年にわたりドローンの産業利用に取り組んできました。現在のドローン産業は、どのようなフェーズにあるのでしょうか?
約10年前、飛んだだけでも「すごい!」と感動されていた時代から現在にかけて、ドローン業界は急速に成長を遂げ、実際に社会へ導入するフェーズへと移行しつつあります。ただ、まだ若い業界であるがゆえに、ドローンで何ができるのか、どれほどの費用対効果があるのか、はたまた安全性など、導入における有用性についてはまだギャップがあると感じています。
私たちとしては、技術や製品を開発するだけでなく、導入事例や実証結果を積み重ねながら、各分野が抱える社会課題に対してドローンが有効な解決手段になり得ることを伝えていく、いわば啓蒙活動をしていく必要があると考えています。ドローンが特別な技術ではなく、当たり前に頭上を飛ぶ「空のインフラ」として受け入れられることで、その価値が初めて社会の中で発揮されると思っています。
――空のインフラが実現した未来は、私たちの生活や仕事はどのように変わると考えていますか?
私たちは「技術の進化で人々の豊かな生活の実現に貢献したい」というスタンスであり、ドローンの普及が目的ではありません。空を社会インフラとして活用し、人々の安全と生産性向上に貢献したいのです。
人類の歴史を振り返ると、技術の進化によって人はより遠くまで行けるようになり、離れた場所でもコミュニケーションが取れるようになりました。ドローンやロボットも、その延長線上にある技術だと考えています。現在は防災やインフラ点検、物流など特定の分野で活用されていますが、活用の幅はさらに広がり、日常でも欠かせない存在になっていくでしょう。
人手で行っていた仕事がドローンによって効率化されれば、その作業に費やしていた時間や労力を、より創造的な価値を生み出す活動に使えるようになります。その結果、人は新たな挑戦やイノベーションにより多くの時間を割けるようになるのではないでしょうか。

もちろん、人にしかできない判断や手触りが求められる領域は今後も変わらず残り続けるでしょう。私たちが目指しているのは人を置き換えることではなく、人とテクノロジーそれぞれの強みを活かしながら共存する社会です。テクノロジーが担える部分はテクノロジーに任せ、その分、人は新たな価値を生み出すことや、人にしかできない仕事に力を注げるようになっていくと考えています。
文:土田洋祐
写真:土田洋祐、ブルーイノベーション株式会社