ヤマシンフィルタ×ミツフジが資本業務提携。ナノファイバーで挑む“見えない課題”

熱中症が原因の体調不良。データセンターを悩ます電磁波ノイズによる通信障害とサーバーの冷却。
まったく関連性が見当たらないこれらの課題解決を目指し、『ヤマシンフィルタ株式会社』と『ミツフジ株式会社』が資本業務提携を結んだ。
ヤマシンフィルタは建設機械用をはじめとしたフィルタや関連部品の製造・販売、ナノファイバーの開発・製造・販売を手掛ける企業。建機用油圧フィルタでは日本国内のみならず世界でトップシェアを持っており、ろ材を自社開発している点が強みだ。
一方のミツフジは、西陣織の帯づくりから始まり、世界で唯一の導電性銀めっき繊維「AGposs」を開発した企業。「AGposs」を電極に使ったウェアラブルの医療機器の開発のほか、スマートウォッチタイプの熱中症対策製品の開発・製造・販売を手掛けている。導入企業4000社以上、出荷台数410万台超を誇り、海外企業が強いウェアラブル市場において日本企業では最も多くの製品を出荷している。ハードのみならず生体データを解析するAI技術も持っているのも特長である。
両社はなぜ資本業務提携に至ったのか? 2026年7月29日に実施された両社の「戦略的アライアンス発表会」で、資本業務提携の背景、今後の事業展開、目標、などが両社の代表者から明かされた。
最先端技術の社会実装をアライアンスで推進
ヤマシンフィルタがミツフジと資本業務提携を結ぶことにした背景には、ナノファイバー技術の応用範囲を拡大することがあった。フィルターのろ材は技術革新により、太さが髪の毛の120分の1 と極細なナノファイバーを使ったものが登場するようになり、これを使った油圧フィルターが大手建設機械メーカーで採用されるようになってきた。
ヤマシンフィルタ 代表取締役社長執行役員 山崎敦彦さんは、ナノファイバー技術は油圧フィルター以外にも活用の可能性があることを強調する。

ヤマシンフィルタ 代表取締役社長執行役員 山崎敦彦さん
「ナノファイバー製のろ材は綿のようなもので、布団の中綿に使うと温かいです。これでフィルターをつくりゴミを取ること以外にも、熱を遮断する、音をカットする、電波や電磁波を遮断するなど、非常に大きな可能性があることに気がつきました」

ナノファイバーでつくった綿
ナノファイバーが持つポテンシャルの高さに着目したヤマシンフィルタは、2026年5月に信州大学繊維学部と提携しナノファイバーの用途開発に着手。ナノファイバーに新たな機能をプラスすることを試みており、今後数年で何らかの方向性を打ち出すことができるとみている。
ミツフジとのアライアンスで推進するのは成果の社会実装。取締役副社長執行役員 山崎裕明さんは「見えない領域にソリューションを提供する」と明言しその意義を次のように示す。

ヤマシンフィルタ 取締役副社長執行役員 山崎裕明さん
「われわれの社是は『フィルタビジネスを通じて社会に貢献する』ですが、フィルタの提供価値はゴミを取ることだけではありません。熱や振動、あるいは電磁波を取ることでフィルタは社会にさらなる価値と貢献を示すことができると確信しています」
ミツフジ 代表取締役 三寺歩さんは、「最先端技術の社会実装については課題が多いです」と指摘する一方で、次のような期待も寄せる。

ミツフジ 代表取締役 三寺歩さん
「ヤマシンフィルタは最先端の繊維を持っており、これから巨大な社会実装を行うステップに進みます。大きな市場を獲ることを目標に掲げ、社会実装の範囲を広げるときに、ヤマシンフィルタが持つ高い素材の力とミツフジが市場で展開できていることを掛け合わせた取り組みができるだろうと思っています。
多くの法人のお客様は、製品の販売だけで終わらずトータルソリューションの提供を望んでいます。私たちは多くの法人と取引しておりますが、両社で法人取引を拡大しながらお客様の声に従って最先端の技術開発を行っていけるところが、このアライアンスの強みになると考えています」
アライアンスでまず取り組むことにしたのが、深刻と捉えている「酷暑時代の体調管理」と「電磁波干渉の深刻化」の2つであった。
正確な生体情報が計測できる着衣型生体デバイスの実現
酷暑環境下では感覚に頼らない体調管理が重要。このため常時モニタリングの必要性が高まるとされているが、生体情報を計測するデバイスに課題がある。
現在最も一般的な光学式のスマートウォッチでは脈拍から健康状態を把握できるものの、さらに正確な生体情報を測定・収集するには電極式の方が望ましい。だが、電極式は着用のハードルが高い。心電図の計測時に使う電極をイメージしてもらうとわかりやすいが、あの電極を装着したままの日常生活は不自由だからだ。
日常生活に不自由を感じることのない電極式のデバイスが実現すれば、医療レベルの情報をモニタリングすることが可能になるが、これを実現に近づける可能性を秘めているのが、髪の毛より細いヤマシンフィルタのナノファイバー。電極にナノファイバーを用いた着衣型生体デバイスであれば、凹凸のある人間の皮膚に密着するので正確な生体情報が得られる。無数の極細繊維により生地にすき間が生まれるので通気性が担保され、不快感や違和感とも無縁だ。

着衣型生体デバイスに生きるナノファイバーの特長
ヤマシンフィルタにとってウェアラブルデバイスは未知の領域。自社だけでは着衣型生体デバイスの実現は難しいが、ウェアラブルデバイスで先行するミツフジの経験やノウハウを生かすことができれば実現に近づくと考えられた。ミツフジはウェアラブルデバイスにおいて電極、デバイス、アプリケーションを開発し、一括で提供している。
「ミツフジは強力なパートナーだと確信しております。協業で最適な製品を生み出し、社会実装に向けて最短距離を走っていきたいです」(山崎副社長)
ミツフジはすでに医療機器のウェアラブルデバイスを持っているが、三寺さんは現状の課題として「さらに正確なデータ取得」を挙げる。
「ウェアラブルはこれから、AIが正確な情報を分析できないと展開できない市場になります。どれだけ正確な情報をAIに与えることができるかが求められますので、ヤマシンフィルタが持つ世界トップの技術力を着衣型生体デバイスでも使っていきたいです」(三寺社長)
正確な生体情報の計測が可能になる着衣型生体デバイスが手軽かつ簡単に使えるようになると、体調管理だけではなく未病の対策、効果的なスポーツの取り組み方、睡眠の質向上など、生活のあらゆる面での活用が見込まれるという。
データセンターを悩ますサーバーの電磁波ノイズと冷却を同時に解決
電子機器から発生する電磁波ノイズは、機械の誤作動や通信エラーを引き起こす原因になる。今後も電子機器の進歩と量的拡大の歩みは止まらないと考えられることから、電磁波干渉はますます深刻の度合いを深めると考えられている。
「電子機器の進化にはセンサーの高性能化やメモリーの大容量化が欠かせず、今後も増え続けていくことに伴い電磁波ノイズの量も増えていくことから、シビアな電磁波ケアが求められるようになります」(山崎副社長)

データセンター市場の市場規模と今後の見通し
電磁波ケアの対応が求められる分野の1つが、AIの普及で市場が急拡大しているデータセンター。従来はサーバーを金属で覆うことで電磁波ノイズを外に漏らさないようにしてきたが、金属で覆われた中はサーバーから発生される熱がこもってしまい、排熱のために多くの電力を消費していた。データセンターはサーバーの電磁波ノイズを遮断できても、排熱という別の問題に対処しなければならならないのが現実である。

電磁波干渉と排熱に課題を抱えるデータセンター
電磁波ノイズをカットしつつ排熱に課題を生じさせない対策としてヤマシンフィルタが提案したいのが、ナノファイバーでつくる電磁波シールドフィルタ。ナノファイバー製のフィルタは微細な繊維が入り組んでおり通気性に優れているため、繊維に電磁波シールド性能をプラスすれば排熱と電磁波のカットが効率的にできるようになるというわけである。
実現のために超えなければならないハードルは、ナノファイバー繊維に電磁波をカットするための特殊な加工を施すこと、場合によっては提供時に認証の取得が求められ実績や専門性が求められること――の2点である。これらのハードルをいち早くクリアするためにも、電磁波シールド性能を有する「AGposs」を持つミツフジはアライアンスパートナーとして申し分ない存在であった。
三寺さんは電磁波シールドフィルターに関して、「データセンターや通信インフラ以外にも、高圧電線のメンテナンスなどをする産業用ドローンの運行を難しくするジャミング(電波や通信の妨害)から守ったりすることにも使えます」と評する。そして、「こうした世界的に需要の高いところにお互いの技術を用いて果敢に挑戦していきたいです」と意気込む。

ミツフジの主な製品。銀めっき導電性繊維「AGposs」を活用した電磁波シールドモジュールも提案している
電磁波ノイズはデータセンターやドローン以外にも、メモリーやモーターなど電気を通す電子部材を使うものではすべて発生するが、周波数がすべて異なる。このため、電磁波シールド材は使う場所の周波数に応じたものでないと効果を発揮しない。しかしながら、電磁波シールド材にナノファイバーを用いれば、繊維の密度を変えたり繊維の材料を変えたりすることで使う場所の周波数帯に応じた最適なものを提供することが可能になる。
ウェアラブルデバイス、電磁波シールド材ともに成長市場として有望視されているものの、現在は実証と市場ニーズの検証段階であり、商品化に関する具体的なスケジュールは未定。商品化にとっての課題は、素材の進化とこれに伴う膨大な試験、開発した技術を市場ニーズに適合させることだという。
ナノファイバーは大きな可能性を秘めている。今回の両社のアライアンスをきっかけにして、さまざまな課題を解決する新商品の誕生と普及を期待したい。
取材・文:大澤裕司
編集:土田洋祐