なぜプロサッカー指導者がFX本を書いたのか?「勝とうとする人ほど負ける」意外な共通点

サッカーの監督とFXトレーダー、一見すると、まったく接点のない仕事に見える。しかし、17歳でドイツに渡り、選手引退後はプロサッカー指導者として国内外の現場に立ってきた片山博義さんは、「僕にとっては、かなり近い」と話す。
試合に勝つために必要なのは、攻め続けることではない。相手を分析し、失点する可能性を減らし、状況が悪ければ戦い方を変える。ときには「あえて動かない」という判断も必要になる。それはFXでも同じだという。
約20年にわたり相場と向き合い、現在はアスリートやビジネスパーソンに資産形成や人生設計について伝えている片山博義さんは、2026年8月に『人生を変える!負けないFX投資術 5万円から始める前に知っておきたい相場の見方』(さくら舎)を出版した。なぜ、「勝つFX」ではなく「負けないFX」なのか。そこには、プロサッカーの現場で磨いてきた独自の戦術思想があった。
目次
「勝つ方法」から考えると判断を誤る
「サッカーの試合は、もちろん勝つためにやります。でも僕が戦術を組み立てるとき、最初に考えるのは『どうやって勝つか』だけではありません。まず『どうしたら負けないか』を考えるんです」
片山さんは、松江シティFC(現・FC神楽しまね)をはじめ、さまざまなクラブや大学で指導してきた。監督として中国リーグ優勝を経験し、天皇杯ではJクラブを破ってJ1川崎フロンターレと対戦するなど、地方クラブを率いて格上のチームとも戦ってきた。
戦力に差がある相手に、勢いだけで攻めても勝てない。相手の強みはどこにあるのか。自分たちはどこでボールを奪うのか。選手同士の距離はどう保つのか。どこまでならリスクを取れるのか。試合を細かく分解し、負けにつながる要因を一つずつ減らしていく。そしてチャンスが来たときに勝ちにいく。
「ずっと守って引き分ければいい、という意味ではありません。負けない状態をつくったうえで、勝てるところで勝負する。その順番が大事なんです」
ところがFXを始めた当初、片山さん自身が、その原則を守れていなかった。
サッカーでは冷静なのに、FXでは感情に負けた
片山さんがFXを始めたのは約20年前。当初は相場についてほとんど知識がないまま取引を始めた。買えば下がる。売れば上がる。「自分が入った瞬間に、相場が反対へ動いているんじゃないか」と思うほど、思いどおりにならなかったという。
負ければ取り返したくなる。取り返そうとして、さらに判断が荒くなる。ついには、感情を抑えきれずモニターを壊したこともあった。プロのサッカー現場では、相手を分析し、リスクを想定し、冷静に戦術を組み立てていた人間が、FXでは感情に振り回されていた。その矛盾が、片山さんにとって大きなヒントになった。
「うまくいかないことには、必ず理由があると思っています。だったら、負けたこと自体より、『なぜ負けたのか』を解析すればいい」
そこから約3年、相場の基本を学びながら、自分の取引を徹底して振り返った。分析したのはチャートだけではない。なぜそこで買ったのか、待てなかったのか。なぜ自分で決めたルールを破ったのか。そして、なぜ負けた後ほど大きく取り返そうとしたのか。見えてきたのは、FXで大きく負ける原因は、相場だけにあるのではないということだった。
FXで難しいのは「予想」より「自分を管理すること」
FXというと、「これから円高になるのか」「どの通貨が上がるのか」といった相場予測に目が向きやすい。しかし、片山さんが重視するのは、それ以前の問題だ。
「自分がどういうときに判断を間違えるのかを知らないと、どれだけ知識を持っていても同じことを繰り返します」
・損失が出た直後に取り返そうとする。
・利益が続くと、自分は相場を読めると思い始める。
・決めていた損切りを「もう少し待てば戻るかもしれない」と先延ばしする。
・本来なら取引しない場面でも、利益を出したいという理由だけでポジションを持つ。
サッカーに置き換えれば、戦術を無視して選手全員がゴールだけを狙いに行っているような状態だ。だからこそ片山さんは、「何をするか」以上に「何をしないか」を決める。条件が揃わなければ、取引しない。自分の感情が乱れていたり、わからない相場では、無理に勝負しない。FXでは何もしないことも立派な判断になるのだ。
「5万円から」の本当の意味
同書には『5万円から始める前に知っておきたい相場の見方』という副題がついている。そこには片山さんの相場観の真髄とも言える、深い思いがある。そこに込められているのは「5万円あれば簡単に儲けられる」という意味ではない。むしろ逆である。
片山さんが伝えたいのは、大きなお金を動かす前に、自分が相場の中でどのような判断をする人間なのかを知ること。サッカー選手も、いきなり大観衆の前で重要な試合に出場するわけではない。練習し、失敗し、修正しながら、自分の判断を磨いていく。資産運用も同じだ。
いきなり人生を左右する金額を投じるのではなく、小さく始める。失敗しても、その理由を分析できる範囲にとどめる。そして、次の判断につなげる。重要なのは、一度の成功で大きく増やすことではなく、市場から退場しないことだと同書は伝えている。
アスリートを見て感じた「稼げる時期」に準備する重要性
また、片山さんが資産形成について発信する背景には、指導者として多くのアスリートを見てきた経験もある。プロスポーツ選手の競技人生は長くない。現役時代には一般的な会社員より多くの収入を得られる選手もいるが、その状態が生涯続くとは限らない。怪我によって突然、競技人生が終わる可能性もある。
片山さん自身、24歳で怪我による現役引退を経験した。だからこそ、「引退してから次を考える」のではなく、現役で競技に集中できているときから、その先の人生を設計する必要があると考えている。
それはアスリートだけの問題ではない。会社員でも、経営者でも、今の会社、仕事、収入が30年後まで同じ状態で続く保証はない。だからといって、不安になって何でも始めればいいわけでもない。今ある仕事を大切にしながら、次の選択肢も準備しておく。資産形成もその一つである。
投資の本であり、「判断」の本でもある
『人生を変える!負けないFX投資術』というタイトルだけを見れば、FXのテクニックを紹介する投資本に見えるかもしれない。しかし、その根底にあるのは、片山さんがサッカーの世界で長く問い続けてきた、「なぜ、その選択をするのか」という根源的なテーマだ。
相場が動いたから買う。誰かが勧めたから投資をする。負けたから取り返す。周囲が転職しているから、自分も仕事を変える。不安だから、とりあえず何かを始める。私たちは日常のさまざまな場面で、理由を十分に考えないまま選択している。しかし、人生を大きく左右するのは、派手な一度の決断よりも、そうした小さな判断の積み重ねなのかもしれない。
勝てるときには勝負する。条件が悪ければ動かない。失敗したら、その原因を分析する。そして、一度の失敗ですべてを失うような戦い方をしない。
サッカー監督がたどり着いた「負けない設計」は、FXだけの話ではない。変化の激しい時代に、自分の仕事やお金、そして人生そのものをどう守り、どう次につなげていくのか。片山さんの新著は、そのための「判断のトレーニング」という読み方もできそうだ。

片山博義
プロサッカー指導者。1972年東京生まれ。
17歳でドイツに渡りプレー経験を積み、24歳で怪我により現役引退後、指導者の道へ進む。
鹿屋体育大学、FC鹿児島(現・鹿児島ユナイテッドFC)、松江シティFC、FC大阪、東京23FC、吉備国際大学などで指導し、松江シティFCでは監督として中国リーグ優勝に貢献。天皇杯ではJクラブを破り、J1川崎フロンターレと対戦するなど、地方クラブを躍進させた実績を持つ。
指導においては、経験則に頼らない“再現性ある育成”を重視し、判断力と適応力を備えた選手を育成。現在は主にアスリートやビジネスパーソンに向けた資産運用・キャリア設計コミュニティを主宰し、「競技や仕事と並行して次の人生を設計する」重要性を発信している。合同会社hunt&hunt 代表社員。
編集:土田洋祐