AIで「有名人そっくりの声」を公開したら違法? 声の無断利用と替え歌の法的リスクを弁護士が解説

生成AIの進化により、有名アーティストや声優、芸能人そっくりの歌声や音声を手軽に再現できるようになった。SNSや動画配信サービスでは、AIで生成した歌声や替え歌も数多く公開されているが、「どこまでなら適法なのか」と疑問を抱く人も少なくないだろう。AIで再現した「声」は法律で保護されるのか。既存の歌詞をアレンジした場合は著作権侵害になるのか。肖像権やパブリシティ権、著作権の観点から、AI時代の法的リスクを弁護士に聞いた。
目次
AIで特定アーティストの声を再現して公開した場合に抵触する法律
日本では、現時点では声そのものを保護する法律はなく、先例となる確立した判例はない状況です。
既存の音源の声を編集して公開した場合は著作権や著作隣接権の侵害となりますが、AIが一から生成したアーティストそっくりの声は、既存の音源そのものの複製ではなく、本人の声とは違うものという扱いであり、原則として著作権等の侵害とはならないと考えられています。
もっとも、現行法で抵触する可能性があると考えられているものの中に、「肖像権」と「パブリシティ権」があります。
いずれも判例で認められたものですが、肖像権は人格権に由来するもので、個人の人格の象徴である人の氏名、肖像等をみだりに利用されない権利とされています。
声が肖像権に含まれるかを示した判例はありませんが、2026年8月に公表された『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―』では、声が人物識別情報であり、個人の人格の象徴となるものであることを踏まえ、肖像権として保護されうるとの解釈の方向性を示しました。なお、これは、現行法の解釈に関する取りまとめであり、法律そのものや、個別事案につき裁判所の判断を拘束するものではありません。
このように、肖像等をプライバシーの側面から見るのが肖像権ですが、商業的価値の側面に着目し、有名人の肖像等から生じる顧客誘引力を独占して利用することができる権利として認められているのがパブリシティ権です。いまのところ、声がパブリシティ権の対象になるかを示した判例はありませんが、有名人の声が持つ集客力を無断で利用する行為については、パブリシティ権の観点から問題になる可能性があります。
前述の解釈指針でも、「特定のキャラクターを演じる声優の声自体に商品の販売等を促進する効力がある場合」には、声が持つ顧客誘引力を利用する目的で利用すると、パブリシティ権侵害になりうると示されています。
このように、AIが生成したそっくりの声の利用については、著作権ではなく、肖像権やパブリシティ権といった不法行為の観点で法的責任を問われるリスクを孕んでいます。
「声」の法的保護の範囲(パブリシティ権・肖像権との関係)
先に述べたとおり、声については、確立した判例はないものの、前述の解釈方針で、保護される範囲についての考え方が示されました。
声の肖像権に関する保護範囲は、これまでの顔写真などに関する肖像権の考え方と同様の判断基準とされています。すなわち、保護されるべき権利利益の性質を踏まえて、権利侵害された本人の社会的地位・活動内容、声の利用の目的・態様・必要性等の考慮要素を総合的に考慮し、侵害が社会生活上我慢の限度(受忍限度)を超えるか否かにより侵害の有無を判断すると整理されています。
次に、パブリシティ権は、有名人の肖像等が持っている顧客誘引力の経済的価値に着目した権利です。つまり、芸能人やスポーツ選手などの著名人の肖像等が、ある層への販売等を促進する顧客誘引力を持つときに、勝手に肖像等を使い、その経済的利益や価値に「タダ乗り」する行為は、パブリシティ権侵害となりえます。
芸能人や声優などの声を無断利用した動画がネット上にあふれていますが、本来正式に依頼をして出演してもらうべきものであり、声の無断利用により対価を得る機会を喪失させることになります。
アーティストなど「あの有名人の声だ」とわかるような、特徴的で、顧客を惹きつける力を持つ声の場合は、無断で、AIで生成した声を販売したり広告に使用するなどすると、パブリシティ権侵害の問題となる可能性があります。
既存の歌詞をAIでアレンジした場合、翻案権侵害にあたる条件
アメリカにはフェアユースという仕組みがあり、批評や報道などのほか、パロディも、一定の条件下では、著作権者の許可なく著作物を利用できる場合があるとされています。一方、日本には同様の包括的な制度はないため、既存の歌詞のアレンジが許されるかどうかは、著作権法に照らし、権利侵害となるか個別に判断されることになります。
既存の歌の歌詞は、作詞者が著作権を有していますが、著作権者には、その意に反する改変をされない権利(同一性保持権)がありますので、歌詞のアレンジは、権利侵害となってしまうおそれがあり、注意が必要です。
さらに、著作権の中には、自分の著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化などを行って、二次的著作物を作ることを独占する権利(翻案権)があります。例えばドラマ化、アニメ化、映画化、楽曲の編曲ほか、替え歌、パロディ、オマージュのような改変行為は、翻案権の問題になることがあります。
そして、最高裁の判例によれば、「翻案」に該当する条件として、表現の本質的な特徴につき同一性を持っているだけではなく、翻案後の著作物から、元の著作物の本質的な特徴を直接感得できることが必要だとされています。
したがって、既存の歌詞のアレンジにあたっては、元の歌詞の本質的特徴が残っていると評価されて翻案権侵害とされたり、同一性保持権侵害となるリスクを考えると、予め著作権者や著作者の許諾を得ておくことがベストです。許諾については、誰の許諾が必要か、どこまで使用してよいかを事前に確認することが大切です。
替え歌で有名な嘉門達夫さんは、作詞家、作曲家、替え歌に出てくる人など関係者の許諾を得るなどしているそうで、大変参考になります。
許諾を得るのが難しいとしても、アレンジに法的問題がないか弁護士のアドバイスを受けるほか、元の歌詞とは別の著作物となるように、原型を残さないオリジナル歌詞にしてしまうことも検討しましょう。
私的使用とネット公開・収益化の境界線
さらに、著作権法では、著作権者の許諾がなくても著作物が利用できる例外規定があります。アレンジ(翻案)に関しては、「私的使用」の範囲であれば、権利者の承諾がなくてもアレンジ(翻案)が許されています。
この私的使用とは、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲」とされています。この、家庭内に準じるような限られた範囲というのはかなり狭く、少人数で、メンバー間に強い個人的な結びつきが必要だと考えられています。これに該当するかどうかの判断は具体的な事情によりますが、親しい友人グループなどが考えられます。
また、著作権侵害の有無は、営利目的か非営利目的かどうかだけで決まるわけではありません。しかし、ネット上で公開する場合は、通常私的使用の範囲には入りません。また、収益化のため公開するということであれば、個人利用目的でもなく、限られた範囲への公開でもないために、私的使用とはならないと考えられます。

アディーレ法律事務所 正木裕美 弁護士(愛知県弁護士会所属)
一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富。コメンテーターとして、難しい法律もわかりやすく、的確に解説することに定評がある。
アディーレ法律事務所HP: https://www.official.adire.jp/
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