bizSPA!

激動のAI時代こそ、手に職を重視。就職にも進学にも強い工科高校がいま注目される理由

ニュース

就職・進学の両方に強い高校として、工科高校が注目されているのをご存知だろうか? 工科高校とは、人の手でしか生み出せないものを形にできる技術系人材を育成する専門高校のことで、ものづくりに特化した従来の工業高校とは異なり、ITやDXなどの先端技術をはじめとした多彩な学科で構成されている。東京都の場合、AIには代替されにくい技能や技術を持つ人材が求められていることを背景に、2023年4月から都立工業高校の校名を工科高校に改め、一部の工科高校で新しい学科を新設した。現在都内には22の都立工科高がある。まずは、工科高校の就職・進学状況を明らかにしたい。

データから見た工科高校生の就職・進学状況

工科高校、工業高校卒業生の求人は年々増える傾向にある。全国工業高等学校長協会の資料によれば、2024年の求人倍率は31.9倍。同年の高卒求人倍率が4.1倍なので、企業がいかに工科高校や工業高校の生徒を必要としているのかが伺い知れる。また、東京都立工業高等学校長会がまとめた2025年度の都立工科高校16校のデータによれば、求人倍率は61倍で、就職者1014人のうち99%の1004人が正規雇用だ。

就職に強い一因には資格取得がある。資格は一定レベルの技能と知識を有していることの証明になるので、資格の保有が就職で有利に働くからだ。

東京都の場合、資格取得を目指す生徒を支援する目的から、工業系の資格取得にかかった費用が最大半額(上限5万※資格により異なる)補助される「工科高校資格取得アシスト制度」を整備。対象の生徒が対象の工業系資格の取得を目指す場合、受験料や試験対策講座の受講料やテキスト・問題集の代金などが補助対象となる。

対象となる資格は電気工事士(第一種、第二種)、3級自動車整備士、建築大工技能検定(2級、3級)、二級建築士、測量士補、ITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者、ドローン操縦士(インストラクター、1級〜3級)、バイオ技術者認定試験(上級、中級、初級)、福祉住環境コーディネーター(1級〜3級)など全部で150超。かかる費用を補助することで、生徒の資格取得意欲を刺激している。

進学については、親世代が工業高に抱いているイメージとは異なるところだろう。卒業後の進路はほとんどが就職と思っている親世代が多いと思われるが、東京都教育委員会が実施した調査をまとめた令和7年度の「公立学校統計調査報告書【進路状況調査編】」では、工科高校の進学率(大学・短期大学・専門学校など)は48%と就職率と同率であることが報告されている。東京都立工業高等学校長会がまとめた2025年度の都立工科高校16校のデータでは、指定校推薦の枠が5247。四年制大学への進学希望者350人のうち88%に当たる307人が現役で進学している。

東京都立工科高校の就職・進学実績を示したパネル。2026年8月2日に開催された「都立工科校ドリーム・フェスタ」で展示されたものを撮影

工科高校の中には、大学と連携し大学教授による特別授業を実施したり大学のゼミ講座に参加したりする学校もあれば、文部科学省が指定する「スーパーサイエンスハイスクール」に選ばれ先進的な理数系教育による創造性豊かな科学技術人材の育成に取り組んでいる学校もある。大学が身近に感じられ、生徒一人ひとりが興味や関心のある分野の研究を目指そうとする環境ができているといえる。

小中学生が多数来場した「都立工科校ドリーム・フェスタ2026」

データから浮き彫りになった工科高校が人気の理由は、専門的かつ高度な教育が受けられること、仕事に生かせる実践的な資格が取得できること、大学や専門学校への進学へのサポートが期待できること、といったあたりだろう。関心の高さは、「都立工科校ドリーム・フェスタ2026」(主催、東京都教育委員会)に表れていた。

「都立工科校ドリーム・フェスタ」は、都立工科高校が一堂に会してものづくりの魅力や工科高校生の未来が体感できるイベント。2023年から開催されており、26年は8月2日に、東京・新宿の住友ビル三角広場と住友ホールで開催された。三角広場では作品展示コーナーと各校が運営する体験実演コーナーで、住友ホールでは先端技術の実演コーナーや来場者からの相談を受けたりする各校の相談ブースなどが設けられた。

当日会場に足を運ぶと、開場と同時に来場者が会場にあふれたほど。来場者は学校関係者、ものづくりに興味がありそうな小学生とその保護者、高校受験の志望校を検討していると思われる中学生とその保護者あたりだと思われる。来場した小学生や中学生は男子ばかりではなく、女子も多かった。

体験・実演コーナーでのエンジンの組立・組立。六郷工科高校と墨田工科高校が合同で実施した

北豊島工科高校が実施したドローン操縦体験

体験実演コーナーはキーホルダーやストラップの製作のほか、エンジンの分解・組立、ドローンの操縦体験、ロボットアームを使ったクレーンゲームなどを実施。どこも行列ができるほど盛況であった。どの学校も、子どもたちへの説明やレクチャーは生徒が中心に行っていた。

学校相談ブースを訪れ教職員の話を熱心に聞く来場者

工科高校に対する関心が高いのは、相談ブースの様子からも見て取れた。各校のブースはどこも、進学先として工科高校を検討していると思われる子どもと保護者が訪れており、教職員の説明を熱心に聞いたりするなどしていた。

工科高校生のリアル なぜ今の学科を志望したのか?

各校のイベント運営スタッフを見ていると、意外と女子生徒が多かった。かつての工業高校に対し「圧倒的に男子生徒が多い」というイメージを抱いている保護者世代が見ると、「時代が変わった」と思うほどだろう。

そこで気になるのが、工科高校を志望した理由だ。今どきの高校生が工科高校を志望する理由が、三角広場内のステージで実施された「私たちの工科ライフ」と題されたトークイベントで語られた。

トークイベント「私たちの工科ライフ」に登壇した8人の工科高生

トークイベントでは男子4人、女子4人の生徒が登壇。「工科高校に入って驚いたこと・大変だったこと」「いちばん楽しかった授業・行事」などといったテーマに沿って登壇した生徒が本音を話していった。

「現在の学科を選んだ理由」というテーマでは、ものづくりが「好き」、もしくは「興味がある」がある生徒が多く見られた。それは、次のような発言からわかる。

「小さい頃から大工が好きで、大工がいるとそこから動かず、ずっと見ていました」(橘・産業科)

「食べること、食べ物をつくるのが好きです」(中野工科・食品サイエンス科)「ゲームが大好きで、絶対ゲームに関わる仕事に就きたいこことからプログラミング学べるところを選びました」(八王子桑志・産業科)

「幼い頃からものづくりが好きで、小学生のときから将来は建築業に進みたいと思っていました」(墨田工科・建築科)

「ものづくりが好きで、自分で想像したものを自分の手で形にできるようになりたいと思いました」(工芸・マシンクラフト科)

高校生だと将来の夢や目標が定まっていなくても珍しくないが、工科高校の生徒の中には、すでに将来やりたいことやなりたいものが明確な生徒がいる。子どもにものづくりに関する夢や目標があるなら、早くから専門的なことが学べる工科高校に進学するという選択肢を検討してもいいだろう。


取材・文・写真:大澤裕司
編集:土田洋祐

月刊誌の編集者を経て2005年からフリーランスライターとして活動開始。
以来、企業取材に(ほぼ)特化し、雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、ブックライティングも手掛ける。主な取材テーマはものづくり関すること全般と中小企業の経営。
著書に『高すぎ! 安すぎ!? モノの値段事典』(ポプラ社)、『バカ売れ法則大全』(共著、SBクリエイティブ)などがある。

人気タグ

おすすめ記事