異動すると「脱北できてよかったね」

　Aさんの振る舞いをさらに聞いてみると……。

「自社のカタログを制作することになったとき、私を含めて他部署の社員も参加したことがあって。Aさんは以前にもカタログの制作に携わったことがあるので、『デザインで迷っているからAさんに軽く相談してみようと思います』と、同じ部署の先輩社員に話したところ、『えぇっ、いいの？ そうしたらAさんが決めたデザインにしないと大変なことになるからやめたほうがいいよ』と止められました。

　何が大変なことになるのかはわかりませんでしたが、その先輩社員が本気で心配していたのを見て『あ、本当に怖い人なんだな』と察しました」

　部外者からここまで恐れられていたAさん。コールセンターの人間関係も相当悪かったのではないかと思いきや……。

共通の敵を持ち結束する社員たち

「私が見た限りでは、コールセンターの他の社員は和気あいあいとして仲が良かったです。といっても、ほぼ全員がAさんを嫌っているから結束が固くて仲が良かったというのもあると思います。

　ある時、コールセンターから別部署に異動が決まった社員が何人かいたのですが、歓迎会で他の社員から『脱北できてよかったね！』と言われていました。異動してきた社員も嬉しそうでした」

　その後、一身上の都合で会社を退職した真理香さん。「ある意味、社長より怖い人でした。自分はコールセンター勤務じゃなくて本当に良かったです」と、胸をなでおろしていました。

　Aさんは純粋に業務を円滑に進めるために仕事に取り組んでいたはずです。でもここまで社員から嫌われているなら、ちょっとやり方を改めたほうがいいのかもしれませんね……。

＜取材・文／林加奈　イラスト／カツオ（@TAMATAMA_GOLDEN）＞

―特集［本当にあったブラック職場］―