工場も農業も“観光資源”に。岡山県が仕掛ける「地域産業」を生かした新たな観光デスティネーション

2026年7月31日、岡山県は東京都内でメディア・旅行関係者向けの観光キャンペーン説明会を開催した。当日は県知事 伊原木隆太氏も登壇し、2027年「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に向けた企画や、特産の果物を活用した観光コンテンツ、日本三大名園「後楽園」でのイベントなど、2026年秋以降に展開する県内各地の取り組みが発表された。
そのなかでも特に厚く取り上げられたのが、岡山でワインづくりに取り組む『ラ グランド コリーヌ ジャポン 岡山ワイナリー』大岡弘武さんと、玉野市に本社を置く『株式会社パワーエックス』が推し進める「瀬戸内産業芸術祭2026」だ。
両者に共通するのは、地元に根付く産業を観光資源として発信するだけでなく、どう次の世代につなげていくのか、というテーマだ。説明会では、地域で培われてきた仕事や技術に新たな価値を与えようとする動きが見えてきた。
なぜ、岡山でワイン造り?
「岡山はぶどう生育の場所として優秀なんです」
そう語るのは、岡山空港近くでワインづくりを手掛ける醸造家・大岡弘武さんだ。東京出身で、ワインを学ぶために渡仏。その後、約20年間にわたりフランスでワインづくりに携わった。日本で再びワインを造ることを決めた際、全国の候補地を検討した末に選んだのが岡山だった。

理由のひとつが、『晴れの国』と呼ばれる気候だ。中国山地と四国山地に挟まれた岡山は雨が比較的少なく、乾燥した環境を好むぶどうと相性がいい。また、収穫の時期に大きな被害を及ぼす台風の影響も比較的少なく、安定した原料確保につながりやすいという。
そんな恵まれた環境でワイン造りに勤しむ大岡さんだが、それと同時に土地に根を張り、岡山のワイン産業を支える取り組みを進めている。
育種家の林慎悟さんとともに進めるワイン用ぶどうの新品種開発では、『りざん』『龍王』など、病気に強く有機栽培にも適した品種が生まれた。今後は地域への普及を図り、新たな岡山ワインの生産に加え、休耕地の活用やぶどう農家の新たな収益源につなげていく構想だ。
また、農家のなり手不足を背景とした農地維持の課題に対しては、枝を上から垂らす「一文字枝垂れ」という栽培方法を導入。できるだけ手間をかけずに広い面積を管理できるシステムを構築しているという。
一方、醸造所では古い米倉庫を活用し、日本酒用や牛乳用の中古タンクを設備として転用。多額の投資を必要としないワイン造りを自ら実践することで、若い造り手が参入する際のハードルを下げ、岡山ワインの裾野を広げようとしている。
「醸造所の近くに小学校があるのですが、年に一度、子どもたちにタンクへ入ってもらい、ぶどう踏みを体験してもらっています。タンクの中は濃いぶどうの香りが充満して、その記憶は大人になっても残る。そのなかから、将来ワイン造りや農業に携わる人が出てきてくれたらうれしいですね」(大岡さん)
ものづくりをかっこよく。瀬戸内産業芸術祭
もうひとつ、岡山の産業を次世代につなぐ取り組みとして紹介されたのが、2026年10月に初開催される「瀬戸内産業芸術祭2026」だ。中心となって企画を進めるのは、蓄電池メーカー『株式会社パワーエックス』代表の伊藤正裕さんらが設立した、日本産業芸術財団。
本芸術祭が提示するのは、“ものづくりをかっこよくする”こと。全7社、県内の参加企業(うち1社は愛媛県の企業)の工場や作業現場にアーティストが入り、その企業の歴史や技術、仕事から着想した作品を制作し、展示。来場者は作品を鑑賞したうえで、実際の生産現場を巡る。
この体験を伊藤さんは「分散型の美術館」と表現し、この発想と狙いについて次のように語る。

株式会社パワーエックス 取締役兼代表執行役社長 CEO 伊藤正裕さん
「かつての日本の一番の強みといえばものづくりでしたが、海外のベンチャーが台頭してきてからその勢いは失われていったように感じています。そこで芸術の力を借りる。芸術と産業を掛け合わせ、いまも誇りをもってものづくりをしている企業さんの仕事と文化を、目にした人の心に届くように紹介し、これからの若い人たちに第一次、第二次産業への憧れを生み出したい。そしてもう一度、ものづくりの強い日本というものにつなげられれば、という思いから立ち上げました」

ナイカイ塩業工場内設置作品「時の輪郭」 出典:PR TIMES/https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000129.000109041.html
参加企業の一つ、創業200年に迫る老舗企業『ナイカイ塩業株式会社』では、塩を用いたインスタレーションを制作する、山本基さんが参画。同社で製造された塩を使い、床に巨大なアート作品を浮かび上がらせる。参加者は鑑賞後、実際の工場見学して回り、製造工程や歴史に触れる体験が予定されているという。
【参加企業】(五十音順)
・オオノ開發株式会社(愛媛県東温市)
・児島ジーンズストリート(倉敷市)
・株式会社トンボ(岡山市)
・ナイカイ塩業株式会社(玉野市)
・株式会社パワーエックス(玉野市)
・藤クリーン株式会社(岡山市)
・三国工業株式会社(玉野市)
「私たちは芸術を現実世界の再解釈と考えています。日常的に見慣れた風景は自然と機能的な視点に偏ってしまいがちですが、同じ景色をアーティストが見て作品に昇華した瞬間、機能的なものが消えて全く違う新しい視点で見えるようになる。当たり前の風景の一部だった地元の企業が途端にかっこよく見えれば、その仕事や働く人々への見方もきっと変わるはず。それが私たちが思い描く“産業芸術”です」(伊藤さん)
伊藤さん曰く、今回初開催となる「瀬戸内産業芸術祭」を契機に、この先、各地域に根付く産業や企業を主役に据えながら、九州や北海道など全国各地へ「産業芸術祭」の仕組みを広げていく構想も描いているという。
その大いなる出発地点となる本芸術祭は、2026年10月3日から31日まで開催。各会場は個別に訪れることができるほか、複数の会場を巡るオフィシャルバスツアー、遠方客向けの新幹線・宿泊がセットになったバスツアー(8月中に販売開始予定)も用意されている。
※詳細については「瀬戸内産業芸術祭」公式ページ:https://www.sai-art.jp/を参照。
取材・文・写真:土田洋祐
画像素材:PIXTA(https://pixta.jp/)