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値上げ時代に問われる「価格以上の価値」 Shake Shackが磨き続ける独自の体験価値

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何気なく立ち寄ったファストフード店にて、想像以上の会計金額に驚いた経験がある人は多いのではないだろうか。現在、かつての「ファストフード=安価」というイメージは揺らぎつつある。昨今の物価高を背景に消費者たちの節約志向は高まっているが、それは単に安いものを求めるというだけではない。むしろ、支出が限られているからこそ、支払う金額に応じて十分な満足度が得られるかを重視する視点は広がっている。

そうした時代において、企業はどのように消費者に「その価値がある」と感じてもらうのか。その一つのヒントとして注目したいのが、ハンバーガーレストラン『Shake Shack』だ。独自の「ファインカジュアル」を業態コンセプトに掲げ、食事だけでなく体験そのものの価値向上を目指す同ブランドの取り組みから、その価値のつくり方を探った。

はじまりはNY、1台のホットドッグカートから

Shake Shackのルーツは2001年、ニューヨークのマディソン スクエア パークに出店した1台のホットドッグカートにある。

当時、同公園では治安改善を目的としたアートプロジェクトが進められていた。その協力者の一人であり、レストラン業界で「おもてなしの神様」と称される、ダニー・マイヤー(Danny Meyer)氏が、来場者に向けて食事を提供したことがブランドの始まりである。

同氏が提供したシカゴスタイルのホットドッグは好評を博し、3年間夏期限定で出店していたカートには連日行列ができたという。その成功を受け、ホットドッグカートは常設店舗へと発展。2004年、マディソン スクエア パーク内に1号店が誕生した。

ニューヨーク Shake Shack マディソン スクエア パーク店

運営・提供においてマイヤー氏が重視したのは、「コミュニティ・ギャザリング・プレイス(Community Gathering Place)」という思想だ。

単に食事を提供するだけでなく、人々が集い、交流し、地域とのつながりを育む場として機能し、新たなコミュニティや価値を創出することを目指した。この思想は、現在も運営の根底に受け継がれており、同社を象徴する「ファインカジュアル(Fine Casual)」という業態コンセプトにも密接に関わっている。

「上質」×「手軽」ファインカジュアルという立ち姿

ファインカジュアルとは、高級レストラン(ファインダイニング)で味わうような体験を手軽に提供する、という意味をもつ、Shake Shack独自のコンセプトだ。その価値体験を体現しているものとして、まず挙げられるのがメニューの品質だ。

シャックバーガー/フライ/レモネード。フライは、中はホクホク、外はサクっとした食感を意識し、波型のクリンクルカットを採用。サイドメニューのクオリティも好評だ

看板商品の『シャックバーガー(ShackBurger®)』をはじめとしたメニューに使用されているパティは、ホルモン剤を使用せずに飼育されたアンガスビーフを100%使用している。肉々しさを感じられるようにと、鉄板の上で押しつぶしてスマッシュスタイルを採用するなど、調理面においてもこだわりが光る。

次いで挙げられるのは、ホスピタリティだ。スタッフによる接客や細やかな配慮はもちろん、地域性を反映した店舗空間を心がけることによって、来店者が心地よく時間を過ごせる環境づくりを重視している。

2015年に日本初店舗として開業した「外苑いちょう並木店」では、開放感と光を取り込むために大きな窓が設けられているほか、100人が座れるテラス席もあり、ビジネスマンや家族連れ、トレーニング後のランナー、犬の散歩途中で立ち寄る人など、多くの人々で賑わう。

日本でShake Shackを展開・運営する『アイビーカンパニー株式会社』 Shake Shack事業部 赤松弘基さんは、ファインカジュアルという業態コンセプトから生じる、これらの価値体験こそがShake Shackの強みだと話す。

『アイビーカンパニー株式会社』 Shake Shack事業部 マーケティング課 課長 赤松弘基さん

「ハンバーガーを中心としたメニュー構成ということもあり、よくファストフード店として誤解されがちですが、我々は“ハンバーガーレストラン”です。ファストフード市場はコストパやタイパといった利便性が重視されますが、私たちが目指しているのは単に空腹を満たすことだけではなく、お客様に心地よい時間を提供できるかということ。目的が前者とはそもそも違います。

一方、グルメバーガーと呼ばれる高価格帯の業態ともまた違います。いくら高品質な食材や充実した内容であっても、日常的な食事として数千円を支払うことはハードルは高いですよね。Shake Shackでは日頃の利用のしやすさを心がけており、それらと比べて価格をカジュアルに設定しています。

結局は、みなさんゆっくりおいしいものを手軽に食べたいっていうのは、普遍的に求めていることではあると思います。ただ、先述した業態のどちらか寄ってしまうとそれが難しくなる。その両者の間にあるニーズに応えられるのが、ファインカジュアルという業態コンセプトの強みです」

ファストフードの利便性と、高級レストランで重視される品質やホスピタリティ。両者の長所を取り入れながら、日常的に利用しやすい形で提供すること。一見、理想論のようにも感じるが、Shake Shackはその信念をこれまで貫き続け、競争の激しい外食市場で生き残ってきたのだ。

日常に溶け込む店づくり

Shake Shack 博多店の内装

2026年7月21日(火)、九州初となる「Shake Shack 博多店」がオープンした。これにより、国内の店舗数は19店舗目となった。国内初上陸から十余年、外食チェーンとしては出店ペースは慎重に思えるが、その理由について赤松さんは「ブランドの体験価値を損なわないため」と語った。

「私たちの武器は、ファインカジュアルに基づいた体験価値です。国内第一号店がオープンした2015年当時、現在よりも価格の高いハンバーガーが広く認知されていたわけではありません。大量出店により、品質という根幹が揺らいでしまったら人が寄り付かなくなる。一つひとつの店舗でShake Shackが大事にする体験価値を伝え、広めていくこと。それを意識していたのだと思います」

この指針はブランドとして市民権を得た現在も変わっていない。「立地など、出店に関する基本的なセオリーはもちろん意識しますが、Shake Shackの体験価値を十分に提供できる場所か、という視点も同じくらい大事にしています。ところかまわず、ガツガツと出店していくことはまずしません」と赤松さん。

また、出店の際にはそれぞれの地域に合わせた店舗づくりにも力を入れている。昨年(2025年)開業した広島店では、市内を走る路面電車の車窓から見える景色をテーマにしたデザインを採用。こうしたローカライズも、Shake Shackらしい体験価値の一つだ。

「各店舗でその地域に溶け込むような店舗デザインを意識しています。他方からのお客さんももちろんですが、何よりも地元の方が過ごしやすい空間であることが大事で、気軽に足を運んでいただける場所となることを心がけています。各店でデザインコンセプトが違うので、旅行の際にはぜひ覗いてみてください(笑)」

価格では測れない価値を創出する

ファインカジュアルに基づき、食事の品質だけではない価値体験を追求する。ときにその価値体験は、消費者と企業という垣根を越えていく。

Shake Shackではブランドミッションとして「スタンド・フォー・サムシング・グッド(Stand For Something Good™)」を掲げている。これは、「Shake Shackと関わるすべての人によい価値をもたらす」という考え方だ。

「上質なサービスを提供するためには、お客様と接する従業員の心持ちが重要であり、それは働く環境が良好であってこそです。また、品質・サービスを支える取引先や生産者との信頼関係も欠かせません。このミッションは、ブランドを取り巻くすべての人々にあらゆる価値を循環させる考え方です」

同社では、こうした理念を単なるスローガンに終わらせるのではなく、店舗運営や地域活動を通じて実践してきた。従業員が子どもたちと紙芝居や折り紙で交流するイベントや、フットウェア・アパレルブランド『HOKA』と連携したランニングイベントなど、その取り組みは多岐にわたる。

各店では地元で活動する団体とチャリティパートナーとなり、店舗限定のコンクリート(フローズンカスタード)の売上げ5%を寄付するなど、地域に還元する取り組みを行っている

「こういった催しを行うことはもちろん手間はかかります。ただ、メンバーがいつも以上にゲストとコミュニケーションを取るきっかけになり、私たちの活動を知っていただく機会にもつながる。社会的な関わりをもつことは、商品を提供しているだけでは得られない反響があると感じています」

最後に、今後のShake Shackの展望について赤松さんに尋ねた。

「お客様が何に価値を感じるのかは、本当に多様化していると感じています。だからこそ、私たちは創業以来大切にしてきた、すべてのゲストにホスピタリティを提供するという軸を変えることはありません。フードのクオリティや食材への安心感、空間づくり、コミュニティ活動など、これまで積み重ねてきた価値をさらに磨き続け、Shake Shackならではの体験価値を提供していきたいと考えています」

物価高や節約志向が進むなか、企業に問われるのは価格だけではない。何を価値として社会に提供するのか。その答えは商品やサービスそのものにとどまらず、ホスピタリティや空間、コミュニティとのつながり、社会への貢献など、多様な形で存在する。Shake Shackの歩みは、その一つのあり方を示している。

文・写真:土田洋祐


bizSPA!編集部

美味しい料理や、素敵な音楽に出会ったときに生まれる仕事へのモチベーション。
記事を通してそんな気持ちを呼び起こすことを目指しています。

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