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棚田を耕す女子サッカーチーム。地域とともに歩む 『FC越後妻有』

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川端康成の名著『雪国』の舞台である新潟県越後湯沢から、ローカル線「北越急行ほくほく線」に乗り込んで40分ほど。車窓の外に山肌へ幾重にも刻まれた棚田が見えてくる。ここ、松代地域は(現:十日町市内)、棚田県日本一の新潟においても、有数の棚田地帯として知られる場所だ。6月上旬、その棚田にて数多くの人とともにユニフォームで田植えを行う『FC越後妻有』の選手たちの姿があった。なぜサッカーチームが田植えを? その意外な光景の背景には、過疎化が進む里山に根を張り、地域の未来をつくろうとする、彼女たち独自の活動がある。

棚田文化の保全とセカンドキャリア、二つの課題が生んだサッカークラブ

FC越後妻有は、新潟県十日町市を拠点に活動する女子サッカークラブだ。地域づくりに取り組む「NPO法人越後妻有里山協働機構」を母体とし、同機構が展開する「大地の芸術祭」の延長線上のプロジェクトとして2015年に発足した。選手(学生を除く)たちは同機構の職員として、棚田の農業支援や芸術祭の運営・管理など、地域内のさまざまな業務に従事しながら競技活動を行っている。

設立の背景には、二つの課題の掛け合わせがある。ひとつは、農業を担う次世代の不足だ。松代地域は1980年と比べて人口が減少し、高齢者が過半数を超えるなど、少子高齢化が進む日本の中でもとりわけ深刻な状況にある。そしてそれは、地域の象徴である棚田の存続にも深く関わっているという。

星峠の棚田

松代地域にとっての棚田は単なる生活インフラではない。古くから脈々と受け継がれてきた歴史そのものだ。また、名所『星峠の棚田』や芸術祭の作品が点在する重要な観光資源でもある。

しかし、急峻な斜面に築かれた棚田は大型機械の導入が難しく、維持・管理には多くの人手と労力を要する。人口減少や高齢化を背景に担い手は年々減少しており、美しい景観を守り続けること自体が、地域の大きな課題となっていた。

もうひとつが、スポーツ選手のセカンドキャリア問題だ。越後妻有里山協働機構 事務局長の原蜜さんは、「芸術祭を訪れた日本サッカー協会関係者から話を聞いたことがきっかけ」と振り返る。

NPO法人越後妻有里山協働機構 事務局長 原蜜さん

「当時、Jリーグ男子選手の平均引退年齢は24歳前後とされ、小中高大と競技一筋で歩んできた選手たちが、十分な社会経験を積まないまま現役生活を終え、その後の就職やキャリア形成に困難を抱えるケースも少なくないという話でした。人口減少による担い手不足と、スポーツ選手のセカンドキャリア構築。うまく組み合わせることで、二つの課題を解決できるのではないかと考えたんです」

当時、折しも同機構が運営する「まつだい棚田バンク」で管理する棚田も増えていた。まつだい棚田バンクは、担い手不足などによって耕作が難しくなった棚田を引き受け、地域外のオーナー(里親)が保全活動を支援し、NPO職員や地域住民が耕作・管理を担うことで、300年以上受け継がれてきた棚田の景観や文化を未来へつなぐ仕組みである。管理面積の拡大に伴い、新たな人材の確保が求められていたことも、クラブ設立の決断を後押しした。

つながりが地域と人を磨いていく

FC越後妻有の選手たちは、平日はNPO職員として地域で働いたのち、約2時間のトレーニングに励む。サッカーに取り組む時間も業務として扱われているという。そして週末は公式戦に臨み、2026年現在は北信越女子サッカーリーグ優勝となでしこリーグ参入を目標に掲げる。地域で働きながら競技レベルの向上を目指す日々を、選手たちはどのように受け止めているのだろうか。副キャプテンの大平友紀子さんは、「この両立こそがクラブの魅力」と話す。

「女子サッカーが注目される機会は増えてきていますが、それでも男子やほかのメジャースポーツと比べると規模は小さく、仕事をしながら競技を続ける人がほとんどです。ここではNPOの職員として農業支援や芸術祭運営など幅広い仕事を経験でき、社会人としての経験やいわば“手に職”を身につけられます。競技引退後も職員として働ける体制がひらかれていて、とても手厚いと感じています。

また、地域の方々とのつながりを得られることも魅力です。メンバーは他県で介護職をしていたり、TV局のADをしていたりなど、それぞれ違う経歴を持っています。農作業なんていままでやったこともないメンツがほとんどですが、みんな『サッカーを続けたい』という思いでここに集まってきました。慣れない環境での仕事が思うようにいかないときや、悩むこともありますが、仕事も競技も一生懸命取り組むことで、地域の方が声を掛けてくださったり、困ったときには助けてくださったりします。

県内出身で高校卒業後すぐに加入した大平さん。「最初はいても2~3年かなって考えていたのですが、居心地がよくて気が付けばもう4年も経っちゃいました(笑)」と笑顔で話す

そうした日々の関わりがあるからこそ、サッカーのルールを知らない方でも『あの子たちが頑張っているから応援に行こう』と試合やイベントに足を運んでくださるんです。こうした地域の方々とのつながりは、一般的な仕事との両立ではなかなか得られないこのクラブならではの価値だと思います。農作業や雪下ろしはトレーニングにもなりますしね(笑)」。

地域に身を置き、その土地の人々と関わる日々は、選手たちにとって価値観や人との向き合い方にも変化をもたらしている。

「スポーツと地域との関係性そのものが、これまでの常識とは異なる」と話すのは、選手の活動を間近で見続けてきた元井淳監督だ。

FC越後妻有 元井淳 監督

「スポーツでは『地域貢献』という言葉が頻繁に使われますが、以前からずっと違和感がありました。興行やイベントの実施は、サポーターなど一部の方への還元はできていると思いますが、それ以外の人や地域が抱える課題にまで目を向けられているかというと疑問です。

一方で、FC越後妻有の選手たちは、地域貢献活動として銘を打って農業や雪下ろしをしているわけではありません。日々の業務の中で地域の方々と関わり、苦楽をともにしています。元来、松代地域は国内でも有数の豪雪地帯で、長い冬を乗り越えるため、住民同士の助け合い文化が根付く場所です。こちらが本気で向き合えば、その分だけ地域の方々も自然と手を差し伸べてくれます。

懐疑的な目で見られていたこともあったそうですが、いまでは棚田の保全はじめ地域のために働く選手たちに対して『毎日元気をもらっている』と、声も多く聞きます。そうした関係性の中で、サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として地域に磨かれていく。そのサイクルに、これまでの経験にはないスポーツやサッカーの枠を超えた魅力がこのクラブにはあると感じています」

ほくほく線「まつだい」駅、JR「越後湯沢」駅に貼られているポスター。選手、監督ともにクラブのコンセプトも大きく書かれている

棚田を守ることも、地域の人と汗を流すことも、すべては日常の延長線上にある。その積み重ねは、クラブが掲げる『おじいちゃんおばあちゃんの笑顔を創り出す』という理念を、特別な活動ではなく日々の暮らしの中で実現している。

広がる、稲を植える手

2003年から始まった「まつだい棚田バンク」では、棚田の保全と都市と地域の交流を目的に、毎年、田植え・草刈り・稲刈りの農業イベントを開催している。参加者は全国から集まり、地域住民や選手たちとともに汗を流す。棚田を守りたいという思いで参加する人をはじめ、芸術祭やFC越後妻有を知ったことをきっかけに足を運ぶ人も多いそうだ。

2026年6月上旬に行われた田植えイベントでは、首都圏から足を運んだ参加者が多く見受けられた。ある参加者は「毎年の楽しみなんです。都会に住んでいると田植えも泥だらけになることなんてまずできない。最近は孫と一緒に参加しています」と話す。イベントとは別に、千葉県から訪れた少年サッカーチームも田植えをする姿も見えた。「この時期になると手伝いに来てくれるんです。泥遊び感覚なのかもしれない」と大平さんは笑う。

昼夜の寒暖差と雪解け水の下で育つコシヒカリはさっぱりとしつつも、一粒一粒しっかりとした食感がある

棚田バンクで収穫された米は「大地の米」として里親(会員)に届けられるほか、一般向けにも販売されている。売上は棚田の維持・保全活動などに充てられる。機構が描く棚田と地域の保全の輪は着実に広がっているが、原さんは「まだまだです」と謙虚に言う。

「芸術祭や棚田をきっかけに来てくださる方が増えました。その一方で、食べる場所が少ない、泊まる場所がないといった課題も見えてきます。そのたびに『それなら自分たちでやってみよう』と、一つずつ取り組みを増やしてきました。でも、そうするとまた新しい課題が見えてくる。その繰り返しですね。まだまだやらなければいけないことは、たくさんあります」

最後に、原さんに今後の展望について尋ねてみた。「ほくほく線から見える景色が本当に好きなんです。何回見ても『きれいだな』と思う。でも、僕は森を見てきれいだと思うわけじゃない。山の手前に丁寧に水が張られた田んぼがあって、『なんでこんなにきれいなんだろう』と思うんです。それは、地域の皆さんが積み重ねてきた営みがあるから。その彼らの営みに、本当に少し横にいさせてもらいたい、そんな感覚ですね」と穏やかな表情で話した。

人が暮らし、働き、守り続けてきた営みがあるからこそ、この土地は美しい。その営みに寄り添う姿勢は、棚田の保全にも、FC越後妻有にも一貫して流れている。地域を変えようとするのではなく、地域とともに歩む。その積み重ねが、越後妻有という土地の新たな魅力を育んでいるのだろう。


現在、FC越後妻有では選手を募集中。競技活動だけでなく、地域で働きながら幅広い経験を積めることも、このクラブならではの魅力だ。練習参加や見学も受け付けているため、興味のある方は、公式ホームページやSNSで活動の様子をチェックしてみてほしい。

公式HP:https://matsudai-nohbutai-fieldmuseum.jp/fc/
問い合わせ:fc-echigotsumari@tsumari-artfield.com
Instagram:https://www.instagram.com/fc.echigotsumari/
X:https://x.com/fcechigotsumari


文・写真:土田洋祐

bizSPA!編集部

美味しい料理や、素敵な音楽に出会ったときに生まれる仕事へのモチベーション。
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