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米国でアジア系ヘイト急増。“永遠の外国人”扱いは、なぜ変わらないのか

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 今アメリカで社会的に問題となっている、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)。増えるヘイトクライムの背景とは何なのか。

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 東京大学中退の経歴で、明晰な頭脳を生かしマルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(44)の連載「時事問題に吠える!」では現代に起きている政治や社会の問題に斬り込む。

 今回は、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム問題に関して、ダースレイダーが2回にわたり解説。まずは、その前編をお届けする(以下、ダースレイダーさん談)。

増えるアジア系へのヘイトクライムと背景

 今アメリカでは社会現象とも言える状況になっている「アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム」。特に3月のジョージア州アトランタのマッサージ店で起こった連続の銃撃事件で犠牲になった、8人のうち6人がアジア系の女性でした。

 ニューヨークのマンハッタンでは、教会に向かう途中の65歳のアジア系女性が、通行中の男性に突如暴行を受け、大けがを負った事件がありました。このときの監視カメラの映像から、現場の目の前にあったビルのドアマンが助けることもなく、ドアを閉めてしまったことが明らかになり、周囲の人たちの対応にもかなりショッキングな反応が多くなっています。後日、そのドアマンは解雇されたようです。

 実際に今、現地にいるアジア系のアメリカ人の感覚としては、一人で歩いているのが非常に怖かったり、マスクやサングラスをして自分がアジア系であることをわからなくして歩くなどの対応をしている人も多いようです

 こういった状況には、いくつか背景があります。“移民の国・アメリカ”と言われていますが、アジア系の移民の数がどんどん増えていったのは、1965年に改正移民法が制定されて以降の話です。アジア系の移民はアメリカにおける新しい動きとして認知されていますが、いま数がどんどん増えていて全体で2000万人ほどいます。

 中国系、インド系、フィリピン系が多く、日系アメリカ人の数は約140万人、米人口の0.4%(2015年/ピュー・リサーチ・センター)と実はそれほど多くないです。もともと戦前から日系のアメリカ人はいて、さらにいうと第二次世界大戦中に敵性移民として強制収容所に入れられたという歴史的背景もあります。

欧米人には、アジア系の顔は見分けがつかない

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©️Bgrocker

 2020年に『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』という映画が公開されました。そこで描かれるサンフランシスコの市街は、もともと日系人が住んでいたところで、第二次世界大戦中に日系人が強制収容されたあとに黒人が住むようになり……という街です。この映画は、そんなサンフランシスコの移民の歴史を踏まえて作られたものだったりします。そういった背景でいうと、アジア系のアメリカへの移民数は、実は1965年以降に増えていったと。

 ちょうど今、アカデミー賞作品賞の有力候補とも言われている『ミナリ』という映画が公開されています。この映画は、1980年代のレーガン政権時代のアメリカを舞台にしています。当時の韓国は民主化運動をしている最中で、軍事政権下の韓国から移民してきた一家が、アメリカのアーカンソー州という田舎に農場を拓き、父親、母親、姉と弟、そして母方の祖母とそこに暮らして、なんとか自分たちで土地を耕して農業をしながら暮らそうとする話です。

“ミナリ”は韓国語でセリのこと。セリはどこにでも生え、繁殖する力があり、食べ物としてもおいしく食べられて韓国で人気の野菜なんですが、こういった意味をタイトルに持つ本作では、“セリ的な在り方”がアジア系、韓国系の移民を体現する象徴として描かれています。

 この映画はアメリカ南部のアーカンソーという、都市部ではないところが舞台なんですけど、ここではひよこのオスとメスを選別する仕事に、多くのアジア系の人たちが日給というかたちで従事しているシーンが描かれます。韓国はキリスト教国家でもあるので、軍事政権下ではキリスト教に対する弾圧もあったと言われていますが、地元の教会に行くシーンが出てきます。そこでは、初めてアジア系の人に会うアーカンソーの市民たちの反応が描かれています。

 この反応が非常に素直なもので、日本に住んでいるとわからないと思うんですけど、欧米圏の人からするとアジア系の顔なんかはどこの国から来たなんて見分けはまったくつきません。だから、基本的にはもっとも人口の多い中国人だと思われることが多いです

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