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台湾総統選挙で裏工作も中国ボロ負け。悔しくても中国が簡単に台湾に手を出せない裏事情

ビジネス, 学び

選挙イヤー2024年(令和6年)の先陣を切り台湾で13日、次の指導者を選ぶ総統選挙が行われた。

現在の蔡英文(さいえいぶん)民進党政権で副総統を務める頼清徳(らいせいとく)さんが勝利したニュースは日本の若者も知っているだろう。

当選した頼(らい)さんは、蔡(さい)さんと同じく、米国など欧米諸国との関係を重視し、中国の圧力には屈しない姿勢を示している。中国側はすでに強く反発している。今後、中台関係はどうなっていくのだろうか。

そこで今回、このニュースをどのように解釈し、今後もウォッチしていけばいいのか、国際政治に詳しい専門家の和田大樹さんに教えてもらった。

和田さんは、Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、日本カウンターインテリジェンス協会理事、ノンマドファクトリー社外顧問、清和大学講師、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員など数々の職務を兼任し、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする。

ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、和田大樹さんの寄稿)。
 

サイバー攻撃や偽情報の流布などの関与も全て失敗

中国にとって今回の台湾総統選挙は大きな失敗になった。中国との関係を重視する国民党に台湾市民の支持が広がるよう、サイバー攻撃や偽情報の流布などさまざまな形で今回の選挙戦に中国は関与してきた。

中国からすると全てが上手く行かず、望まれざる候補者が勝利したと不満を覚えているだろう。

以上を考えれば、少なくとも今後4年間は、これまでのような冷え込んだ中台関係が展開されていくと思われる。

これまでに中国は、独立勢力として台湾民進党を敵視してきた。

民進党の蔡英文(さいえいぶん)政権の8年間で中台関係が急激に冷え込む中、パイナップルやかんきつ類、高級魚であるハタなど台湾産品の輸入を一方的に制限するなど、経済的手段で蔡英文(さいえいぶん)政権を中国は実際に揺さぶってきた。

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また、両国の事実上の境界線である中台中間線を中国軍機が超えたり、台湾の防空識別圏に侵入したりするなど軍事的威嚇も続けており、こういった行動が頼清徳(らいせいとく)政権下でも間違いなく行われる。

経済的課題に直面する習政権に軍事侵攻のリスクは大きい

だが、日本国内でも懸念が広がる台湾有事が、今回の選挙結果によって大きく誘発されるとは限らない。

中国の習政権は台湾統一を強く掲げ、そのためには武力行使を放棄しない姿勢だが、経済成長率の鈍化、不動産バブルの崩壊、外資の中国離れ、若年層の高い失業率、経済格差など多くの課題が今日の中国国内には蓄積され、習政権はそれらに第一に向き合わなければならない。

仮に、軍事侵攻を行動に移せば諸外国の対中イメージは悪化する。対中経済制裁を米国などが強化する恐れがあり、経済的課題に直面する習政権としてはリスクが大きい。

今日の習政権は、経済・貿易上の課題を米国との間でできる限り大きくしたくない本音がある。そのリスクを承知で軍事侵攻に踏み切るとは考えにくい。
 

習政権にとっては国内の安定が最優先

また、台湾への軍事作戦が仮に失敗に終われば、習政権の権威は大きく失墜する。失敗は許されない決断となるため、極めて大きなハードルとなろう。習政権にとって国内の安定が最優先であり、台湾問題が優先課題でそれを超えるとは考えにくい。

しかし、台湾有事の潜在的脅威が残る状況は変わらない。総統に春に就任する頼(らい)氏が今後、対中政策を具体的にどう進めていくか、言動や振る舞いでどれほど中国を刺激するか。

もっと言えば、台湾独立という視点で中国に対しどれほど危機感を与えるかがポイントになる。

上述したとおり、軍事的な威嚇は今後も続けられる。偶発的な衝突などによって一気に緊張が高まり、不測の事態が生じる可能性も否定はできない。

不満を抱える中国がどのように揺さぶりをかけ、総統に春に就任する頼(らい)氏がその中国に対してどのようなスタンスで接していくか、日本の若い世代もその関係性と展開に注目しながら、中台関係のニュースをウォッチしていきたい。

冷え込んだ中台関係からは目が離せない状況が今後も続く。

[文/和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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