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日本GDP世界7位→2位→4位の歴史。トップを争う米中のプライドに巻き込まれる未来

日本のGDP(国内総生産)が世界3位から4位に落ちたとのニュースがあった。

そもそも、西欧先進諸国と比べて約1世紀遅れで近代工業社会への道を進み始めた日本のGDP(国内総生産)は、経済企画庁(現・内閣府)の年次報告書によると、第2次世界大戦後の1950年(昭和25年)の時点で、自由世界において世界7位だったらしい。

1955年(昭和30年)にインドを抜き、1960年(昭和35年)にカナダを抜き5位。その後も、右肩上がりの経済成長と人口増で、西欧先進諸国を抜き、1968年(昭和43年)にはドイツを抜いて世界第2位に躍り出た。

しかし近年、中国に抜かれ、ドイツに追いつかれて4位になった。では、今後は、どうなっていくのか。

そこで今回、国際政治や経済に詳しい専門家の和田大樹さんに、日本のGDP(国内総生産)の今後の見通し、この先待ち受けているアメリカ・中国による世界一の争い、および、その過程で、日本の暮らしに生じるかもしれない未来について教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

米国に次ぐ2位を50年近く日本は維持してきた

これまで日本は、世界のGDP(国内総生産)ランキングで、米中に次ぐ3位のポジションをキープしてきた。それ以前は長らく、GDP(国内総生産)で米国に次ぐ2位を維持してきた。1968年(昭和43年)にドイツを抜いてから50年弱である。

戦後、日本は、焼け野原の再出発となったが、高度経済成長を1960~80年代に続け、世界第2位のポジションまで上昇した。焼け野原だった国が、世界有数の経済大国に上り詰めるなど他には例がないと言っていいだろう。

しかし、21世紀に入ると、その序列に変化が見られるようになった。

21世紀以降、高い経済成長率を中国が続け、ドイツ、英国、フランスなどの欧州先進国を追い越し、2011年(平成23年)あたりにはとうとう日本も追い抜かれた。

第2位の立場を明け渡した後は、中国の高い経済成長率に日本は置いて行かれ、両国の経済力はすでに勝負にならないレベルまで差が開いた。

2023年(令和5年)の時点で中国のGDP(国内総生産)は日本の4倍あまりにも膨れ上がり、今後も差は開いていくと予想できる。

さらに、2023年(令和5年)ドイツにも抜かれ、世界4位に日本が転落すると確実となった。

1位は、米国の26.95兆ドルだ。2位が中国の17.70兆ドル。以下、ドイツの4.43兆ドル、日本の4.23兆ドル、インドの3.73兆ドル、英国の3.33兆ドル、フランスの3.05兆ドル、イタリアの2.19兆ドル、ブラジルの2.13兆ドル、カナダの2.12兆ドルがトップ10となった。

今後も日本は、ランキングを落とすと予想される。

中国製品への締め付け強化を日本も呼び掛けられる可能性

こうなると次は、どこまで隣国の中国が、日本の同盟国の米国に迫れるか、世界一の座を奪えるかどうかが問題になってくる。

中国と米国の経済力は拮抗し続けている。2030年代後半にも中国が米国を追い抜くという試算もある。

もちろん、現在の中国は、不動産バブルの崩壊やGDP(国内総生産)の伸び率の鈍化、若年層の高い失業率など多くの経済的課題に直面している。

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しかし、米中経済力の逆転というシナリオも十分に考えられ、中国への警戒感を米国は強めている。

今日、米中は、安全保障、経済、貿易、人権、先端技術、サイバーなどあらゆる領域で競争と対立を先鋭化させているが、GDP(国内総生産)というプライドをめぐった戦いも、双方の経済力が拮抗するほどにエキサイトしていくかもしれない。

その過程では、時の米国大統領の考えにもよるが、保護貿易化を恐らく米国は強化し、中国製品への締め付けを強めるとも考えられる。最近、トランプ前大統領は大統領に戻れば、中国製品に関税60%を課すとも言っている。

その際、日本にも同調を呼び掛けるケースが考えられる。日本が、米国の要請に全て応じるとは考えにくいが、あいまいな態度を続けていると日本と米国との間で亀裂が生じ、米国の日本に対する不満が高まるかもしれない。

一方、米国の要請に応じる形で日本が行動すれば中国側の不満が確実に強まる。昨年夏の日本産水産物の全面輸入停止のように、日本が中国に深く依存し、代替先の確保が難しい品目を中心に、日本へ揺さぶりをかけてくる可能性がある。

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ドイツや日本はインドにも確実に追い抜かれる

米中以外で注目される国はインドだ。昨年、インドは人口で中国を追い抜き、世界最大の人口を抱える国になった。

インドは、中国や日本などと違い若者の人口が多く、労働市場としての価値に先進国は注目している。

今後、インドのGDP(国内総生産)の飛躍的な上昇は決定的だ。近い将来、ドイツや日本は確実に追い抜かれる。インドが、どこまで米中に接近するかが注目のポイントだ。

近年、日本企業の間では脱中国依存を進め、インドにシフトする動きも見られる。インドが経済大国となるにつれ、そういった動きがいっそう広がる可能性もあろう。米中に食い込む国があるとすれば確実にインドだ。
 
世界的な視点で考えると今後、欧米や日本など先進国の世界全体のGDP(国内総生産)に占める割合はますます小さくなる。

上述のインドやASEAN(東南アジア諸国連合)、アフリカ、中南米の国々のシェアがいっそう大きくなるだろう。

今回のトップ10にも、インドとブラジルが入った。インドネシア、ベトナム、メキシコ、南アフリカなど多くの新興国も高い経済成長を続けており、欧米主導の世界経済ではなくなってきている。

新興国のGDP(国内総生産)の影響力がさらに高まり、先進国の存在感は相対的に低くなっていく。その未来を踏まえた上で、若い人たちは自分の生きる道を模索したい。

[文/和田大樹]

[参考]
昭和44年年次経済報告 – 経済企画庁

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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