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イラつく後輩や部下への怒りの鎮め方。怒ってばかりの教師がたどり着いたアンガーマネジメントに学ぶ

新年が近付いてきた。若いビジネスパーソンも部下や後輩がまた増える時期がやってくる。自分より立場や年齢が下の人間と上手にやれているだろうか。

「つい、カッとなって後輩に怒ってしまう」「感情的にならないで、もっと落ち着いて部下に対応できるようになりたい」といった声を、若いビジネスパーソンからも繰り返し聞く。

苦手で嫌いな部下、および後輩が職場に居る人の割合は8割を超すとの調査結果もある。自分より下の人間との関係に悩んでいる人は多いのかもしれない。

そこで今回は、大阪の公立小学校教諭にして、絵本〈せんせいって〉(みらいパブリッシング)〈ぼく、わたしのトリセツ〉(アメージング出版)、教育書〈むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営〉(東洋館出版社)などの著者でもある松下隼司(まつしたじゅんじ)さんに、教育現場での試行錯誤を通じてたどり着いたアンガーマネジメント論を教えてもらった。

具体的でシンプル、かつ役立つ方法論が紹介される。ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、松下隼司さんの寄稿)。

怒りの癖を記録・分析する

私は、大阪の公立小学校で教師をしている松下隼司(教師21年目、2児の父)です。「怒りやすい」自分の性格に私自身も、とても悩んでいた時期があります(今も、失敗ばかりですが)。

怒りの感情を適切にコントロールできるようにアンガーマネジメントの勉強を20万円ほどかけて本格的に始めたり、アンガーマネジメントファシリテーターやキッズインストラクターの資格を取得したりもしました。

しかし、いざ教室で、さまざまな特性を持つ30人以上の子どもたちを目の前にすると怒ってばかりの毎日。

怒らないようにすればしたで「先生、怒らないんだ」と子どもが調子に乗り始めます。子どもたちの前に立って、予想外の言葉を言われたり反応されたりすると、結局は怒りにつながってしまう日々の繰り返しでした。

ただ、自分の怒りっぽさに関して、失敗経験と(ほんの少しの)成功体験を記録し続けると転機が訪れました。アンガーログと呼ぶ手法を使い、必要以上に感情的にならずに対応できた時の共通点を分析したのです。

記録し、分析すると言っても難しい話ではありません。イラッとしたり、怒りを感じたりした時にその場で、手帳やスマホに、日時・場所・出来事・思ったこと・怒りの強さレベル(1~10)を書くだけです。

例えば、日本アンガーマネジメント協会の公式ホームページには、次のようなメモ書きの例が紹介されています。

“・日時:1/14 8時頃
・場所:駅
・何があったか:人にぶつかられたが、謝らずに行ってしまった
・思ったこと:謝りなさいよ
・怒りの強さ:3”
(日本アンガーマネジメント協会の公式ホームページより引用)

職場の部下・後輩の言動や態度にいら立ちを隠せない方はまず、アンガーログを通じてご自身の怒りの特性を把握してみてはいかがでしょうか。

記録を取り続け、自分の怒りの癖を詳しく理解すると、解決の道が見えてくる可能性が高いです。

自分の感情にブレーキをかけてくれる物を置く

自分の怒りの癖を分析した結果、ついカッとなってしまう私の場合は、視覚的に意味を持つ物を身近な場所に置き、落ち着いて対応する工夫を開始しました。環境調整と呼ばれる方法です。

環境調整とは、困りごとで悩んでいる時、困ったことが起きにくいように身の回りの環境を調整する行為を意味します

例えば、私の場合、自分の机など身近な場所に、家族の写真を置きました。怒りの感情に支配されそうな時、自分の感情にブレーキをかけてくれる物を目に留まる場所に置いたのです。

松下隼司さん提供

教室の子どもたちに対して怒りが爆発しそうになった時でも、教室の机近くに置いた家族の写真を見ると、私の場合は落ち着けます。

「家族に迷惑をかけたらアカン」

と冷静になれるからです。

教師の暴言・暴力などの体罰は、子どもたちや親御さんを傷付けるだけでは済まされません。自分の家族にまで迷惑を掛ける恐れもあります。最悪、職を失う可能性があるのですから。

私のような教師の仕事だけでなく、どんな職種であっても同じだと思います。現代は「パワハラ」が大きな問題となっています。

アンガーマネジメントは怒りの感情を否定しない

ただ、若いビジネスパーソンの場合、家族の写真をデスクに置けない人も少なくないと思います。日本の文化を考えると、独身で若い人の場合、恋人や母親などの写真を飾る気にはなかなかなれないはずです。

また、同じオフィスの中に、家族に不幸があった、離婚した、家族と離れ離れになった方が居れば、家族の写真を机の上に置かない心配りも必要かもしれません。

その場合、仕事の邪魔にならない程度の大きさで、アンガーマネジメントを連想できる、個人的に思い入れの強い何かを置いてみてください。

例えば、私だったら、宇宙飛行士のフィギュアを置くかもしれません。

私の好きな漫画に〈宇宙兄弟〉(講談社)があります。この作品の登場人物は、さまざまな苦難に遭っても最後まで諦めず、チームで協力して、話し合いを続け、苦難を乗り越えていきます。

教師の仕事も似ているなと思う部分が多々あります。イライラして、一時の感情に支配されそうになったら、漫画のワンシーンを思い出してわれに返れるかもしれません。

置き物で言えば実際に、漫画〈クレヨンしんちゃん〉(双葉社)に登場するネネちゃんとネネちゃんのママが持つウサギのぬいぐるみを自分の机の近くに私は置いています。

ご存じでしょうか? 主人公しんのすけの友達であるネネちゃん(桜田ネネ)とそのママはイライラした時、ぬいぐるみに怒りの矛先を向け、ぬいぐるみをたたきます。

このウサギのぬいぐるみ〈しあわせうさぎ〉をネット購入して、自分の机の近くに置きました。

怒りが爆発しそうになった時、このうさぎが視界に入ると、ネネちゃん(およびネネちゃんのママ)の姿と自分が重なり、イライラが楽しさ・笑いに変わっていく瞬間が何度もありました。

「あかん、ここで怒りを爆発させたら『ネネちゃんのママと同じや』って子どもたちに絶対に思われる。笑われる」との考えが頭によぎり、怒りの爆発が収まるのです。しかも楽しく。我慢でなくコントのように。

アンガーマネジメントは、怒りの感情を否定していません。怒りの感情は、生き物に備わった大切な感情の1つです。怒りの感情が、仕事などの大きな原動力になるケースもあります。

しかし、必要以上の怒りによって、立場や力関係を利用し、仕事の後輩や部下の心身を傷付ける行為は大問題です。

ですから、職場の部下・後輩の言動や態度にいら立ちを隠せない方はまず、アンガーログを通じてご自身の怒りの特性を把握してください。

その上で、ついカッとなってしまう方は、とりあえず私と同じく、怒りの感情に支配されないように、デスクなど身近な場所に、アンガーマネジメントに役立つ思い入れの強い何かを置いてみてはいかがでしょうか。

[寄稿者プロフィール]

松下隼司(まつしたじゅんじ)大阪の公立小学校教諭。
絵本〈せんせいって〉(みらいパブリッシング)〈ぼく、わたしのトリセツ〉(アメージング出版)
教育書〈むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営〉(東洋館出版社)
Voicy〈しくじり先生の「今日の失敗」

[参考]
部下や後輩にストレスを感じる理由と対処法ランキング【男女500人アンケート調査】

松下隼司(まつしたじゅんじ)大阪の公立小学校教諭
絵本〈せんせいって〉〈ぼく、わたしのトリセツ〉
教育書〈むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営〉
Voicy〈しくじり先生の「今日の失敗」〉

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