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トランプの若者人気が拡大。6万円の黄金色スニーカーが完売の理由

トランプ元大統領が秋に向けて影響力を増しているとのニュースが盛んに聞こえてくる。トランプの支持者というと、地方在住の白人男性、非大卒のブルーカラーというイメージがあるかもしれない。

しかし現在、トランプ大統領初当選のころと比べて、若者の支持者も拡大傾向にあるらしい。

なにしろ、若者向けに数量限定で発売されたゴールド色のハイトップ・スニーカーが、6万円あまり(399米ドル)する高額な価格なのにもかかわらず、即完売したという。

いろいろな情報に自由に接する中で、柔軟な発想を持ち、ニュートラルな立場を保つ印象の強い若者が、過激な発言で物議を醸しているトランプ元大統領をどうして支持するようになっているのか。

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そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、差別的で過激な発言を繰り返すトランプ大統領がどうして若者にまで支持されるようになったのか解説してもらった(以下、和田大樹の寄稿)。

欧州の間で物議を醸している大統領候補

米国の大統領選が本格的に動き出している。共和党候補選びではトランプ氏がすでに3連勝し、共和党候補はトランプ氏で決まりという状況だ。

一方の民主党は、バイデン大統領一本である。秋の本選は、両者の再戦となる可能性が濃厚だ。

しかし、バイデン大統領はその高齢が大きなネックになっているため、秋の本選ではトランプが勝利するという見方が広がっている。 

トランプ氏は、アメリカファーストを徹底している。移民や難民を追い出す、メキシコとの間に大きな壁をつくる、NATO(北大西洋条約機構)諸国は守らない、国連から脱退するなど、大胆かつ過激な発言を繰り返してきた。

今回の大統領選でも、ウクライナ支援を停止する、ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる、十分な防衛費を負担しないならNATO(北大西洋条約機構)諸国を守らない、中国からの輸入品に60%の関税を課すなどと発言し、欧州の間では物議を醸している。

台湾や日本、ウクライナの優先順位は低い

こういう発言を耳にすると、トランプ警戒論が一般的には先行しそうに思うだろう。しかし、米国民の間では、数字に表れているとおりトランプ人気は絶大だ。

なぜ、それほど多くの人々をトランプ氏は魅了するのか。最大の理由は、今日の米国が昔の米国ではないからだ。

昔の米国は、世界で圧倒的な力と影響力を持っていた。冷戦後は特に、世界の基軸通貨はドルだった。マクドナルドやケンタッキー、ハリウッド、ディズニーなど米国の文化や経済が世界的に普及していった。

今日のグローバリゼーションは正に、米国流のグローバル化だったのだ。冷戦後の世界では米国は、世界の軍事力の半分以上を単独で持っていた。

しかし、今の米国は違う。アフガニスタンやイラクでの対テロ戦争で米国は疲弊し、その間に中国が、大きな力を持って台頭した。

ウクライナにロシアが侵攻し、インドや途上国の経済成長が近年では著しい。米国の力と影響力は相対的に小さくなっていった。

近年では、経済的かつ軍事的に米国に接近している中国への警戒感が強まり、中国とどう競うかが最大の課題となっている。

米国民の間では、世界の警察官だった時代が終わり、外国の紛争に介入するべきでない、まずは国内を何とかするべきだという認識が広がっている。

こういった現在の米国民の思いは、トランプの考えや信念に見事に重なる。選挙戦でも、国内の経済や治安に米国民の関心が強い。

言い換えると、台湾や日本、ウクライナなどの優先順位は低い。米国の経済や雇用、安全をいかに守るかが最重要事項だ。だから、トランプ氏は国民の間で人気を集めるのだ。

バイデンよりトランプが若者に人気という世論調査も

若者たちの中でも同様である。さまざまな情報に触れる中で、柔軟な発想ができる若者の間ですら、バイデンよりトランプが人気という世論調査もある。

「バイデン政権になって物価が上昇して生活必需品が思ったように買えない、だからトランプを支持する」

と、トランプ人気は若者の間で拡大傾向にある。

党員集会に参加してトランプ支持を訴える若者も増えている。4年前の大統領選では、29歳以下の若者票ではバイデン氏が62%獲得し、トランプは35%だったが、今日では状況が逆転した。

現に、若者の支持を集めようとトランプ氏は最近、自身の名前を冠した黄金色のスニーカーを発売した。6万円あまり(399米ドル)する高額なスニーカーが即完売したという。

今後、トランプは若者の社会、経済不満を救う救世主として支持を拡大していく可能性が高い。言い換えると、権威主義が影響力を増す世の中にまた一歩近付く。その未来に、日本の若者も備えなければならない。

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[文・和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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