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87歳現役トレーダーのシンプル投資術。混迷の時代に若者必読のお金と生き方の指南書【週末読みたい本の話】

話題の新刊から、名前は知っているけれどなかなか手が出ない古典まで、時事性の高い政治・経済ニュースの見方が深まる良書の書評を、大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが担当する。

今週末に読みたい本は……。

藤本茂 〈87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え〉(ダイヤモンド社)

本当の成功者は実は、不要な物事に執着せず、あっさりしているのかもしれない。本書の著書シゲルさんもそうである。

シゲルさんとは、神戸市在住の藤本茂さん。68年の投資歴、87歳で資産18億円と聞くとけた外れのスーパーリッチという印象を持つ。

しかし、本書からは、デイトレーダーとしてマーケットにストイックに向き合う姿が読み取れる。あたかも、巨額の移籍金で話題になったメジャーリーガーに重なるような雰囲気もある。

本書は、19歳から続けてきたシゲルさんの株式投資の歩みと投資哲学をまとめた。途中苦しい時期を経ながらも現役投資家として活躍している。

さぞ、すごい取引テクニックを持っていると思いきや、シゲルさんの投資スタイルはいたってシンプルだ。株価が上がった時に売り、コツコツと売却益を稼ぐごく普通の手法である。

どんな生活をしているのか気になるが、神戸市のマンションでごく普通の生活をしているという。豪邸に住んで悠々自適な生活を送っても良さそうだが、その対極にあるようだ。

68年も投資歴があるだけにキャリアは並外れている。シゲルさんがどんな証券会社の人よりも知識や経験があると自負するのは当然で、シゲルさんのキャリアをしのぐ人はそうそういない。その差は歴然としている。

シゲルさんの投資はあくまで株式取引が中心である。しかも、短期売買が中心で信用取引を活用しているという。信用取引は、個人投資家にはハードルが高い。しかし、大きな利益を狙いやすい取引手法で、シゲルさんは利益を実際にあげてきた。

一方で、投資信託は全くやらないという。シゲルさんの信条、投資哲学は一貫している。

本書では、シゲルさんがどんな株を実際に買っているのか、その具体的な銘柄についても紹介される。これまでに一番取引回数が多かった銘柄は部品メーカーの株だという。

成功したといえるシゲルさんがなぜ今も投資を続けているのか、本人は「株が好きだから」とシンプルな理由を口にする。目先の利益にとらわれがちな投資家が多い中、シゲルさんでなければなかなか言えないコメントである。

毎日午前2時に起き、4時に配達される経済新聞を読み、テレビの経済情報をチェックしながら投資戦略を練る。朝食と散歩を経て午前9時からの取引に向かう。取引を終えると詳細な反省の記録をとり、次の取引に生かすという。

シゲルさんが株を選ぶ時に見ている一番のポイントは「増収・増益・増配」である。売り上げが増え、利益も増え、利益が配当に回っているかどうかを見ているという。企業の成長度合いを見極め、ビジネスモデルも理解するというマルチな能力が求められると言える。

本書の持つもう1つの特徴として、株式投資の基礎知識や手法が分かる丁寧な解説が付記されている。市場取引に必要な知識を学ぶために有用なテキストだ。

2024年(令和6年)から新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、資産運用に関する一般の関心も一段と高まっている。あくまで投資は自己責任だが、投資に関心のある若手ビジネスパーソンも本書を参考にして、自分なりの投資スタイルを見つけていくと良いかもしれない。

キーワード解説

デイトレーダー:株式や債券、外国為替証拠金取引(FX)などの日々の取引で稼ぐ個人投資家。1999年(平成11年)10月からの株式委託手数料の完全自由化で取引に発生する手数料率が大きく低下し、インターネット取引も普及したため、増加している。

信用取引:証券会社に担保を預け、売買に必要な現金や株式を証券会社に借りて行う取引。

新NISA:拡充されたNISA(少額投資非課税制度)。2024年(令和6年)1月から「つみたて投資枠」(年間120万円)と「成長投資枠」(年間240万円)の併用が可能となり、利用者の利便性が向上した。

在京の大手メディアで取材記者歴30年。海外駐在も経験。

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