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イラン報復で米国ジレンマ。ロシア・中東問題の深入りをひたすら米国が避ける本当の理由

コラム, 学び

中東のイランが、イスラエルに対して、ミサイルや無人機を使った攻撃を仕掛けたと報じられた。

イランもイスラエルも、日本の若い人たちにとってはすごく縁遠い国だ。イスラエルに対してイランが攻撃を仕掛けたところで特に、日々の暮らしは変わらない気がする。

しかし、アメリカには悩みの種がまた増える。アメリカに悩みの種が増えれば、アメリカにとって最大の懸念事項である対中国の問題が疎かになり、中国と台湾の関係にもまた、影響が及ぶ可能性があるという。

中国と台湾の関係に変更が生じればいよいよ、日本にとっても対岸の火事ではなくなる。イスラエルが今後、イランに対してどのような行動に出るかで米中問題、ひいては日本にも影響を与えかねないらしい。

そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、イランの報復攻撃とイスラエルの対応で、どのような影響が生まれるのか教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

イスラエル・イランに米国は自制を呼び掛ける

長年犬猿の仲であるイランとイスラエルの軍事的緊張が高まる中、イランがついに、イスラエルへの報復に出た。

イスラエル軍は4月14日、ミサイルやドローンなど200発あまりがイスラエル領土に向けてイランから発射されたと発表した。

その多くは、イスラエル領外で撃墜されたものの、イスラエル領内にミサイル数発が落下し、子ども1人が負傷、南部にあるイスラエル軍基地にわずかな被害が生じた。

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イラン側も声明を出し、一連の攻撃は、イスラエル軍の基地を狙ったとした。

今月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館が攻撃を受け、イラン革命防衛隊の司令官、軍事顧問などが犠牲になった。その報復であるとの主張だ。今後のボールはイスラエル側にある。

これに対し、イスラエルのネタニヤフ政権がどのような行動に出るかで、この緊張の行方は大きく左右されるだろう。

一方、今回のイラン側からの報復について、米国のバイデン政権はイランを強く非難し、イスラエルとの連帯を改めて強調した。

しかし同時、イスラエルのネタニヤフ政権に対してはあらためて自制するよう強く呼び掛けている。

また、今回の攻撃の前には、イランに対しても自制を強く呼び掛けていた。なぜ、米国は双方に自制を強く呼び掛けるのか。

もちろん国連、および他の国々も同様に自制を呼び掛けているが米国には、米国特有の悩みとジレンマがある。

ウクライナと中東、台湾と3正面で同時に対処できる能力が米国にない

今日の米国は、以前のような超大国ではない。

冷戦後の世界において米国は、世界の総軍事力の半分以上を単独で持つ超大国だった。

しかし現在、米国の軍事的・経済的パワーの相対的低下は著しい。その事実は、米国自身も認識している。その内向き化傾向は避けられない。

要は、今の米国は、どの問題にどこまでコストを掛けるかを悩んでいるのだ。

中でも、米国が最も悩んでいる問題が、自らに挑戦する存在となった中国との向き合い方だ。

その問題に対処するために、ウクライナや中東にはできるだけ深入りしたくない。

ウクライナに軍事支援こそ行うが米軍は派兵しない。派兵すれば、ロシア軍と正面から戦争になる。そうなれば「アリ地獄」から抜け出せなくなる。

中東でも、これまでのイスラエルの行動に米国は、不満と怒りを募らせている。

「パレスチナやイランとの間であまり事を大きくするな」

という本音が米国にある。今回の件で、双方に自制を呼び掛けた背景にはその本音もあるのだ。

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今日の米国に、ウクライナと中東、台湾と3正面で同時に対処できる能力はない。

ウクライナと中東で時間を割かれ、対中国が疎かになる状況を米国は最も懸念している。

仮に、イスラエルとイランの対立がさらに先鋭化すれば、長年イスラエルと連携してきた米国は、この問題に吸い込まれる結果になる。

その状況は、ロシアや中国を利する状況になりかねない。

イランとイスラエルの対立は、ウクライナとロシアの戦争、中国と台湾の問題、ひいては日本の安全保障と決して無関係ではない。

[文・和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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