bizSPA!フレッシュ

中国の若者って失業率がすごいらしい。日本の処理水放出で水産物の輸入を中国が停止した「裏の理由」

ビジネス, 学び

中国と聞くと、どのようなイメージを持つだろうか。経済的な発展がすさまじい国という感じかもしれないが、イケイケに見えて実は、中国の若者(16~24歳)の失業率は20%を超える。日本の場合は半数以下だ。

経済成長も鈍化傾向にあり、国内にくすぶる問題のガス抜きのために、福島で海洋放出された「処理水」が利用されている可能性を専門家は指摘する。

そこで今回は、bizSPA!フレッシュライターにして清和大学講師、および一般社団法人カウンターインテリジェンス協会理事であり、中国事情に詳しい和田大樹が、話題の「処理水」放出に中国が反対する「裏の理由」を語った。

対抗措置を取った国は中国のみ

東京電力福島第一原発の「処理水」放出が発表された。中国は、対抗措置として日本産水産物の輸入を全面的にストップした。若い人も、大まかであれ、ご存じのニュースのはずだ。

中国への水産物の輸出は年々増加傾向にあり、日本の漁業組合や水産業者の間では動揺が広がっている。風評被害も拡大し、日本行きの航空チケットのキャンセルが大幅に増えるなど、中国人観光客の増加を期待していた観光業者や温泉地などから悲鳴の声も聞かれる。

さらに、中国国内では、日本人学校や領事館などに石や卵が投げ込まれ、反日的な落書きも周辺では発見された。

北京にある日本大使館が、中国に暮らす日本人に注意を呼び掛ける事態にまでなった。中国のネット上では、日本製品の不買運動が呼び掛けられ、反日的なメッセージや動画が次々に投稿されたという。

ではなぜ今回、日本産水産物の輸入を中国は全面的に停止したのか。表向きには、福島第一原発の事故が、チェルノブイリ原発事故に相当する大事故であり、放出される「処理水(汚染水)」が、通常の稼働下で放出される冷却水と根本的に性質が異なると考えるからだ。

さらに、安全だと主張する根拠のデータを、東京電力が公開している時点で信用できず、情報やデータの公開も不十分であるとも中国側は考えている。その上、近隣諸国や国際社会との協議を十分に重ねないまま放出を決定したプロセスにも不満を示している。

しかし、処理水放出にあたり、国際原子力機関を始め、欧米やその他の多くの国々が「問題ない」と認識している。これまで難色を示してきた韓国も、今回の件では大きく反発していない。肝心の日本国内での反対の声は強いが、具体的な対抗措置を取った国は中国のみである。

なぜ、中国だけがこれほど過剰に反応するのか。

中国国内の若年層は失業率が20%を超える

この問題の根っこを探る上でのポイントは、中国国内の経済状況だ。実は、中国国内の若年層(16歳から24歳)の失業率は日本と比較しても極めて高い。

今年6月までの3カ月間は毎月失業率が20%を超え、7月以降の数値の公表を中国当局は取りやめた。この3カ月間も増加傾向にある。7月以降も増加に拍車が掛かっている可能性もある。 
 
21世紀以降、中国の経済成長率は10%を超え続けた。経済力で拮抗(きっこう)してきていると認識した米国も警戒感を強めてきた。

しかし近年、中国の経済成長率は鈍化傾向にあり、約3年にわたったゼロコロナによって、国民の日常生活や企業活動は大きく制限された。

不動産バブルが崩壊し、経済格差や失業など社会問題も深刻化し、若年層を中心に習政権への不満が強まっていく。

昨年秋の共産党大会直前の10月13日、北京市北西部にある四通橋において「公正な選挙を、ロックダウンではなく自由を、うそではなく尊厳を、文革ではなく改革を、PCR検査ではなく食糧を」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられる動画が一時ネット上に拡散した。

共産党大会直前で警備が厳重に敷かれる中、こういった抗議行動が明るみになるケースは極めて異例だ。共産党大会直後にも「不要」などと書かれた横断幕を若い女性2人が持って上海の車道を歩く動画がツイッター(X)上に投稿された。

習政権は、ネット監視など国内での統制を徹底している。しかし、上述のような声や反発はメディアで報道されないだけで、実際には各地で起こっていると想像に難くない。

台湾や先端半導体を巡って米中の緊張も激しくはなっているが、国民の反発を習政権は最も警戒し、神経をとがらせている。

国民の不満をガス抜きする

よって、習政権としては、積もりに積もる国民の不満を定期的にガス抜きする必要がある。

そのガス抜きに利用された出来事が処理水の放出であり、日本産水産物の全面輸入停止だ。中国政府としては「国民の命と安全を汚染水放出から守らないといけない」とアピールし、国民の反政府感情を緩和させ、不満の矛先を日本に向けさせようとしたと考えられる。

経済成長率が鈍化する中、国民の顔色を中国政府は定期的に確認する必要がある。その意味で言えば、今回と同じような出来事は今後も繰り返されるだろう。

今後、類似のニュースを見たら、その背景にはどのような事情があるのか、中国国内に山積みする問題のガス抜きに利用されていないかを考えてみると、今よりも深くニュースを読み取れるかもしれない。

[文/和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

おすすめ記事