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乗りヒコ・食べヒコ・空美さん。飛行機オタクのカオスな生態を航空ファンイベントで潜入調査

鉄道の駅では、電車を撮影しているファンを見掛ける。「撮り鉄」などの言葉は、一般的な認知度もかなり高いのではないだろうか。

同様に、他の乗り物にもマニアが一定数居るらしい。例えば、航空業界のファン(オタク)を「飛彦」と呼ぶらしい。全くの初耳だ。

さらに、女性の飛行機ファンを「空美さん」とも呼ぶという。彼ら・彼女らは、好みの傾向によって細分化され、それぞれに呼び名を持つ。

それらファンたちは一体、飛行機のどういった点に強い興味と関心を持ち、活動しているのだろうか。

グッズマーケット内にて。エアライナープラモデルコンテスト

そこで今回は、中部国際空港 セントレアで2月に開催された航空ファンミーティングに、自らも「飛彦」を名乗る航空ジャーナリストの北島幸司さんを送り込み、飛行機マニアの生態を調査してもらった。

取材の途中、独特の好みを持つ「新種」のマニアが見つかるなど思わぬ発見もあった。ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、北島幸司さんの寄稿)。

飛行機好きを「飛彦」「空美」と呼ぶ

子どものころに乗り物を好きになり、そのまま大人になる人たちが一定数居る。

その中で、趣味人口が一番多い分野が鉄道の世界だ。いわゆる「鉄オタ」と言われる人々で「〇〇鉄」などと親しみを込めて名付けられている。

鉄道趣味の人々の好みの傾向を分類したブログによると「〇〇鉄」のような細分化した呼び名は36種類あると言う。

乗り物で言えば自動車、船の趣味人口が多く、その次に飛行機が来る。飛行機好きを「飛彦(とびひこ)」「空美(そらみ)」と呼ぶ。

「○○鉄」のように、飛行機好きの人たちもこの「ヒコ」の上に、好みの傾向を表現した言葉を冠し、それぞれの世界ですみ分けを行う。

筆者自身を含めたこの飛行機好きはどのような生態になっているのだろう。

日本で唯一、民間機を中心とした航空ファンが集うイベントが年に一度、中部国際空港 セントレアで行われている。このファンミーティングに参加し、オタクの様子を探ってみた。

飛行機バージョンのオタク分類一覧表

ステージ部分に集まる航空ファンの皆さん

このイベントを取材するにあたり、飛行機バージョンの趣味カテゴリーを勝手に分類し、一部は創造した。

乗りヒコ・・・飛行機に乗って楽しむ

撮りヒコ・・・航空機を撮影する

レジヒコ・・・機体番号を見る

模型ヒコ・・・飛行機モデルを集める

ロゴヒコ・・・ロゴ集め

空港ヒコ・・・空港で過ごす

読みヒコ・・・航空本全般を読む

食べヒコ・・・機内食を愛する

飛びヒコ・・・自分で飛ぶ

管制ヒコ・・・航空管制や無線に興味がある

ミリヒコ・・・軍事航空全般が好きな

メカヒコ・・・航空機の技術が好き

ジョブヒコ・・客室乗務員やパイロットなどエアライン専門職が好き、目指している

マイラー・・・乗ってマイルを貯める

空美さん・・・飛行機の好きな女性

最後の空美さんだけは性別による分類なので本来は、この並びにそぐわないかもしれない。ただ、ぱっと考えるだけでこれだけのバリエーションが思い浮かぶ。

「飛彦」「空美」には紳士淑女的なタイプが多い

グッズマーケットに集まる人たち

例えばこの中で、ロゴヒコや読みヒコは、イベント内のグッズマーケットで容易に確認できた。

そもそも、この「セントレア」の航空ファンミーティングは、2017年(平成29年)から定期開催されている。

イベント内容はステージ、ブース、グッズマーケット、ツアー、フォトコンテスト、および販売になる。

この中で、とりわけオタク度が高い場所はグッズマーケットだ。個人や業者が航空グッズを持ち寄り、趣味を披露するかたわら、複数所持するアイテムなどを、趣味を同じくする人たちにシェアする。

ビジナスクラスやファーストクラスに乗らなければ手に入らないアメニティ、ならびに各航空会社のロゴの入ったマグカップおよびカトラリーなど、さまざまなエアラインの販売促進グッズが並ぶ。

インターネットでオークションが盛んになっても手に取って確かめられる確実性があり、出展者とコミュニケーションを取れる場は貴重だ。

「セントレア」の航空ファンミーティングの場合、空港内3階の特別待合室にグッズマーケットは用意される。

上の写真を見る限り、部屋の中がオタクであふれかえり、身動きができないような場面を想像するかもしれないが実は、そうではない。どちらかと言えば「飛彦」「空美」には紳士淑女的なタイプが多い。

押し合いへし合いにならない行儀の良さが航空ファンのいいところでもある(別に、他のオタクをどうこう言っているわけではないのでご容赦いただきたい)。

プラスして注目は男女比だ。上の写真では分かりづらいかもしれないが、男女ほぼ同数の人たちが集合している。飛行機オタクの特徴は、女性ファン(空美さん)の多さにも見られる。

エアラインブース(スカイマーク)の「空美さん」たち

彼女たちは、飛行機モチーフのアクセサリーを身に着けたり、ネイルをしたりして楽しんでいる。中には、男性顔負けの大きなレンズをマウントしたカメラで飛行機を撮影する姿を見掛ける。

新種「音ヒコ」「スメルヒコ」を発見

航空ファンが集まる今回のイベントでは「新種」まで見つかった。

若者を中心に話を聞く中で、飯田幸三さん(20代・仮名)は、ヒコの分類に新しい型を示してくれた。

話を聞いた飯田幸三さん(仮名)

飛行機の楽しみ方を彼に聞くと、カテゴリーに即座に分類されない「エンジン音を聞く」「燃料の匂いを楽しむ」という好みの傾向を教えてくれた。

強いて名付けると「音ヒコ」と「スメルヒコ」だろうか。

音に関する興味は、鉄道でも余りメジャーではないのではないか。SL時代にはあったはずだが、電車はどれも似たモーター音がする(鉄道オタクからすれば違うのかもしれないが、無知をご容赦いただきたい)。

電車に比べて飛行機はエンジン音が豊かだ。アイドリング状態に比べて離陸時はまるで違う音がする。着陸時には逆噴射の音も違う。

匂いに関しても、石炭の燃焼する匂いにSLのころは郷愁を感じたかもしれないが、今ではそれもない。一方で、飛行機の燃料となるケロシンの匂いは独特だ。空港で感じるこの匂いはエンジン音と相まって旅情をかき立てる。

同じく、会場で話を聞いた空美さんからも新たな好みの傾向を発見できた。

木村愛さん(20代・仮名)は「航空映画にはまっており、映画館でも楽しみますし、過去の作品は自宅にて大音量で楽しんでいます」と語る。映画ヒコ(映画空美さん)の誕生だ。

確かに、動きのある航空機を追った映像は映画にピッタリだ。映画〈トップガン マーヴェリック〉は大ヒットした。日本には存在しないが映画の本場アメリカでは、エアハリウッドなる会社が、機内客室のセットを貸し出しを事業としている。

同様のイベントの歴史は欧米の方が古い

ステージイベントでクイズを披露するANA(全日本空輸)

「セントレア」の航空ファンミーティングに潜入したついでに、海外の事情にも触れてみる。実は、同様のイベントの歴史は欧米の方が古い。

アメリカでは、1970年代ごろから行われている。その歴史を知っている筆者からすると、さらなる来場者の増加を少しの工夫で、日本のイベントにももたらせられるように感じる。

例えば「セントレア」でのイベントは空港での開催でありながら、飛行機を見ずに終わるケースもあり得る。これではもったいない。

空港開催の強みを生かし、ランプ(駐機場など制限区域)ツアーの開催をお勧めしたい。バスでランプを走り、誘導路や滑走路の脇で降車して、飛行機の離発着の様子をカメラに収められれば、さらに充実したイベントになるだろう。

米ボーイング社の航空機部品輸送を行う大型貨物機ドリームリフターを見られればさらに、空港運営の裏側の理解も深まる。

また「セントレア」での定例イベントも悪くないが、来場する人(航空ファン)にとってみればいろいろな空港を見たくなる。全国空港事業者協会の議題にして開催を持ち回りしても楽しいのではないか。

インバウンドの招へいはこれからも続く。国際交流の場を国際航空文化交流にすればいいのだ。日本は、航空製造では後進国である。だからこそ、サービスなどを含めた運用面では先進国になるべきだ。

航空の文化を諸外国から取り入れるべく動く時ではないかと思っている。日本では、その先駆けをつくった「セントレア」の英断をたたえると共に、これから先、同様のイベントが日本全国に広がる動きを期待する。

[取材・文・撮影/北島幸司]

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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