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他人の陰口は聞くだけでも脳に影響。悪口に加担しない方法を道徳の授業に学ぶ

陰口がひどい同僚や先輩、上司が職場やチームに居たとする。その手の人間とは、どのように付き合うと正解なのか。

仮に、自分に対する悪口・陰口ではなくても、第三者への陰口を耳にするだけで、多大な影響が脳に出るという研究結果もある。陰口に安易に同調してしまえば、いじめやハラスメントに加担した形にもなる。

そこで今回は、いじめや陰口の問題に小学校教師として取り組み、令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞した、教員歴21年目の松下隼司(まつしたじゅんじ)さんが、道徳の授業で教える陰口に遭遇した時の対処法を教えてもらった。

松下さんは〈むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営〉(東洋館出版社)の著者であり、学級や職場における陰口の横行を繰り返し好転させた経験を持つ。ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、松下隼司さんの寄稿)。

侮辱的な言葉に接すると脳が大きく反応する

陰口は、みにくい行為だ。人を傷つけてはいけないという普遍的な道徳に反する。小学校で「こそこそ話」はいじめ指導の対象となる。陰口は、れっきとしたいじめ行為だ。

歌手の美輪明宏さんも、陰口を言う人は、身なりをちゃんとしていても顔付き、雰囲気で分かる、マムシみたいだと表現している。

陰口のもたらす影響は、幾つかの研究でも明らかにされている。オランダのユトレヒト大学とライデン大学の研究チームによれば、社会生活を送る中で日常的に見聞きする攻撃的な言葉は、多大な影響を脳に与えるという。

たとえ、他人に向けられた言葉であっても同じだ。侮辱的な言葉に繰り返し接すると、褒め言葉よりも脳波が迅速に大きく反応を示す。その影響は、長時間継続するとも研究チームは確認した。

社会の一員にとって、侮辱する行為は非常に特異的なため、脳の反応が大きくなると考えられている。上述の研究の被験者は女性に限られていたが、男性の脳の反応も変わらないと予想されている。

にもかかわらず、職場でも学校でもなぜ、陰口はなくならないのか。今は〈LINE〉などのグループ内でも陰口がある時代だ。

「いい大人が、かっこ悪い!」「直接、言えばいいのに」「駄目だ」と思っていても、陰口・こそこそ話の現場を見聞きしていると「自分も言われるかも」と思ってしまう不安がある。

不安に思う感情は、子どもだけでない。年齢も男女も職業も関係ない。不安に負けて陰口に参加すると連帯感・仲間意識が図らずも生まれる。恥ずかしながら私も、経験があるので分かる。

特に、上司や先輩が陰口を言う職場はしんどい。同調圧力もある。注意できる人も少ない。陰口・こそこそ話は、良くないと分かっているのにやってしまう状況が生まれる。

学校や職場から陰口が分かりやすく減った対処法

では、自分の近くで他の人が、陰口・こそこそ話をしていたらどうしたらいいのか。ここでは、教師として「陰口・こそこそ話=いじめ」をテーマにした道徳の授業案を紹介したい。

少なくとも、職員室の同僚の先生方に授業案を配り、実際の授業を見てもらう中で、学校や職場から陰口が分かりやすく減った対処法となる。

教師や保護者の目の行き届かないところで、陰口・こそこそ話を友達がしているとしたらどうしたらいいかを考えてもらいたいと思い、子どもたちに授業をした。社会人であっても応用が利くはずだ。

「注意したら、嫌われるかも…」「自分が標的になるかも…」と不安に思っても、具体的な方法を知っておいた方が同調しないで済む可能性が高まる。

陰口の話題をふられたら、

①「そうなんですか?」と聞き返す。とぼけたふりをする

② 自然に話題を変える。「そういえば…」と、食べ物や映画、服、家族の話題を逆にふる

③ 聞こえないふりをする

④ さりげなくその場を離れる。トイレに行ったり、電話したりするなど用事があるふりをする

どれも、拍子抜けするほどシンプルな対策だ。しかし、このシンプルな方法でも効果が認められている。まず、自分自身が陰口を言わない側に回る。その上で、上述の対策を繰り返す。

自分に対する陰口ではなくても、聞くだけで陰口は脳に多大な影響が生じる。子どもたちに役立った道徳の授業案が大人の皆さんにも役に立てばうれしい。

[文・松下隼司]

[参考]
Frontiers | Do People Get Used to Insulting Language?
Spoken Insults Stir Up More Brain Activity Than Compliments And Linger For Longer, Too : ScienceAlert

松下隼司(まつしたじゅんじ)大阪の公立小学校教諭
絵本〈せんせいって〉〈ぼく、わたしのトリセツ〉
教育書〈むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営〉
Voicy〈しくじり先生の「今日の失敗」〉

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