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出張時に役立つ「航空手荷物」トリビア。乗り遅れ時やロストバゲージでスーツケースはどうなる?

出張などで飛行機に乗る機会が増えると、手荷物を空港で預けて機内に乗込む一連の流れにも慣れてくる。

ただ、到着した空港のターンテーブルから当たり前に出てくる自分の荷物は、どのような扱いを受けて現地の空港まで運び込まれるのだろうか。詳しい人は意外に少ないはずだ。

そこで今回は、航空ジャーナリストである北島幸司さんに、手荷物に関するトリビアを教えてもらった。ロストバゲージの際の対応など、役立つ知識も多いので最後まで読んでもらいたい(以下、北島幸司さんの寄稿)。

飛行機の貨物室の内部

航空機に搭乗して出張や旅に出る場合、手ぶらで飛行機に乗る人はほぼ居ないはずだ。当然、手荷物を持参する。

手荷物には2種類ある。空港カウンターで預け、航空機の床下の貨物室に積み込まれる比較的大型の「預け入れ手荷物」と、保安検査場を通って制限区域から機内に持って入る「機内持込み手荷物」だ。

預け入れ手荷物は、機内客室に持ち込まれないので、機内持込み手荷物よりも持込みの許容範囲は広くなる。

この預け入れ手荷物、どのように飛行機に持ち込まれ、どのようにして搭乗者と一緒に空を移動し、到着した空港で手元に戻ってくるのか、ご存じだろうか。

預け入れ手荷物は一般的に、空港内の上階にあるチェックインカウンターから、ベルトコンベヤーで駐機場の1階に運ばれる。駐車場ではなく駐機場だ。

その後、コンピューターで仕訳けられた行先別のコンテナやバラ積みカートに載せられ、機内に運び込まれる。

飛行機の貨物室は機体によって変わる。コンテナの入るワイドボディ機(客室の通路が2本ある旅客機)の場合、貨物室の高さは一定で、165センチ未満に統一されている。背の高い男性が少し屈むくらいの高さだ。

貨物室の容積も機体によって変わる。例えば〈ボーイング787-8〉の後部貨物室(主翼より後方)は、3メートル×2メートル×1.6メートルのパレット(荷物をまとめて載せる板)が4枚積める広さがある。およそ長さ8メートル×幅3メートルの空間だ。

ナローボディ機(客室の通路が1本の旅客機)の〈エアバスA320〉では高さ113センチのコンテナが後部貨物室に4台入る。この場所に、搭乗者のスーツケースなどが運び込まれる。

ワイドボディ機材では、搭乗者のスーツケースなどが、LD3という規格の小型コンテナに入れられるかバラ積みにされる。バラ積みとは、ベルトコンベヤーで運ばれた手荷物を人手で積んでいく方式を意味する。ナローボディ機ではバラ積みが基本だ。

手荷物番号から人海戦術で捜索する

仮に、預け入れ手荷物のある人が、出発前に搭乗できなくなった場合、その人の荷物はどうなるのか。結論から言えば、乗り遅れた人の荷物だけが貨物室から取り出される。預けた荷物だけが目的地へ行ってしまうケースは運用上あり得ない。

航空会社の規定で必ず、搭乗客と預け入手荷物は紐付いていないと駄目だと決められている。過去に、手荷物に爆発物を仕込んで、自分だけが降機したテロリストが居たという教訓から定められた。

読者の皆さんが、手荷物を預け入れたのにもかかわらず搭乗できなくなった場合、どうすればいいのか。すぐに、航空会社係員に申告してほしい。

搭乗者のチェックイン時から、搭乗データと手荷物データは一元管理されている。申告を受けて、手荷物番号から人海戦術で捜索が始まる。

一般的に、一般貨物(奥)→郵便→手荷物(手前)という順に貨物室に貨物が積み込まれるケースが多い。言い換えると、旅客の携行する手荷物が貨物室の手前側に来て、信書などを含む郵便がその奥にあり、一般貨物が最奥に積み込まれている。

貨物よりも郵便が手前に来ている理由は、安全性と速達性が重要視される郵便を空港に到着後、すぐに下ろせるようにするためだ。

バルクと呼ばれるバラ積みの貨物室が最後部にあるワイドボディ機(貨物ドアは主翼前後と、最後部のバラ積み用の3カ所)では、出発準備を整える中で主翼前後の貨物ドアを閉めても、バルクだけは最後まで開けておいて、最終搭載物を積み込む手法がとられる。

いずれにせよ、旅客者の預け入れ手荷物は、下ろしやすい場所に積み込まれる。乗り遅れた人の預け入れ手荷物も手荷物番号を基に捜索され即座に下ろされるのだ。

上級クラスの乗客の手荷物からターンテーブルへ

予定通り飛行機に乗ったとして、目的地の空港に到着後は、ターンテーブルに自分の手荷物が出てくるまで待つ場合が多い。機内から早く出ても結局は待つのだから、預け入れをしている人はことさら急いで到着口に向かう必要はない。

では、ターンテーブルに流されるまで、どのような手順で貨物室から手荷物は運び出されるのか。

ドーリーという台車にコンテナが積まれ、数台ごとにけん引されて手荷物仕分け所にまず運び込まれる。コンテナの扉を仕分け所で作業員が開け、上級クラスの乗客の手荷物からターンテーブルに流す。

空港によっては、ターンテーブルは巨大だ。待つ位置によって、到着口に出る時間に違いが生まれる。どこに立てば、一刻も早く手荷物を引き取れるのか。

ターンテーブルが動き始める前に、ターンテーブルがどちらに動くか想定し、立ち位置を決めるといい。

手荷物のターンテーブルは、ラバー部分の端が重なっている。重なりがある方向にターンテーブルは動かない。少しでも早く到着口に出たい人は流れる方向を予想し、到着口の位置を頭に入れ、立ち位置を決めたい。

1700万個が毎年ロストバゲージに

到着時の最大の心配事であるロストバゲージは、どういった時に起きやすいのか。多くの場合、積み替え間違いは乗り継ぎ時に発生する。

IATA(国際航空運送協会)の調べによると、毎年40億個空輸される預け入れ手荷物の99.57%が正常に運ばれているそうだ。しかし、見方を変えると、1700万個が行方不明という計算になる。ロストバゲージが起きたらどうすればいいのか。

まず、その場で係員に申し出てほしい。規定の補償額が提示される。その金額を考慮し日用品を購入して急場をしのぎたい。ちなみに補償は、その場で支払われる場合と、後日清算の場合がある。

手荷物追跡は、コンピュータ化されている。ほぼ48時間以内には手荷物が発見され、指定の場所(ホテルなど)に配達される。完全に無くなるケースはまれだ。

ただ、最悪のケースを想定して、手荷物が戻ってくるまでの時間を最低限過ごせるだけの備えは常にしておいた方が無難だ。

LCC(格安航空会社)などを利用する際には、7キロや10キロなどと機内持ち込み手荷物規定が厳密に定められている場合もある。重量が超えてしまえば、追加料金を支払う必要も出てくる。

もし、ロストバゲージを想定して、機内持込み手荷物にいろいろ入れた結果、機内持ち込み手荷物の重量を超過しそうになったら、衣類のポケットに入る物を、バッグから取り出してポケットに詰め込む手がある。

不格好かもしれないが、体重を計測されるわけでもない。ポケットの多いチョッキタイプの衣類を出張や旅行に意図して選ぶ工夫もありだ。出張時の参考にしてほしい。

[文/北島幸司]

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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