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パワハラで処分の先輩社員に共通点。距離の近さが生む悪ノリの常態化のワナ

「パワハラ防止法」が大企業に施行されて2024年(令和6年)6月で4年が経過する。「パワハラ」のニュースは最近、テレビやネット記事でもよく目にする。そのほとんどが分かりやすく、社長、行政トップなど上の立場にある人のパワハラ行為だ。

では、若手社員は関係ないのだろうか。決して違う。ハラスメント専門家にして、一般社団法人日本ハラスメント協会の代表理事である村嵜要さんによれば、若手リーダーによるハラスメントも起きているという。

そこで、本記事では、若手リーダーが油断して犯しがちなハラスメント「油断ハラスメント」に焦点を当て、その特徴と予防策を村嵜要さんに紹介してもらった(以下、村嵜要さんの寄稿)。

若い自分の方が後輩に好かれているという勘違い

社歴が近かったり、年齢が近かったりする上司・先輩には一般的に、仕事の相談がしやすい、気持ちを理解してもらえそうと感じるのではないか。

しかし、その心理的な近さが時に、パワハラやセクハラを生む。その背景には、以下のようなメカニズムが挙げられる。

1.後輩とのフランクな距離感、会話内容、ノリが浸透すると「自分は受け入れられている」と感じ何でも許されると若手リーダーが勘違いする

2.ハラスメント行為者は一般的に年配の人のイメージがあるため、若手リーダー自身に「自分は関係ない」との思い込みがある

3.根拠はないものの、年配の人よりも自分(若手リーダー)の方がどこか後輩に好かれていると感じる

以上に加えて、コミュニケーションに配慮がなく、ハラスメント防止の意識がない職場環境が重なると、先輩・若手リーダーから後輩・部下に対するハラスメントが生まれる。

悪いノリが常態化すると感覚がまひしてハラスメントに

現に、従業員の平均年齢が20代中心と若く急成長している会社、プロ野球など特殊な業界では、ハラスメント対策が後回しになっている印象がある。

企業の若手社員、プロ野球の若手選手は漠然と、ハラスメントをしないイメージがあるのかもしれない。確かに、日本全体のデータを見ても、20代の人がハラスメント行為者になるケースは、30代以上の年齢層に比べて割合的にも少ない。

ただ、20代が活躍する特殊な業界においては20代の若手リーダーがハラスメント認定されている。学校の教諭、保育士、消防士、警察官、看護師等が若い年齢で懲戒処分されるケースも決して珍しくない。

例えば、香川県の仲多度南部消防本部に所属する20代の消防副士長がパワーハラスメントを行なったとして懲戒処分された事例がある。

2020年(令和2年)9月からの約1年間、1人の後輩に対して侮辱する発言を繰り返し、別の同僚に対しては訓練中に突き飛ばす行為をしたという。

消防本部は、上述の行為を、パワーハラスメントにあたると判断。行為者である消防副士長は停職3カ月の懲戒処分となった。

2023年(令和5年)にはプロ野球業界でも問題が起きた。東北楽天ゴールデンイーグルスの安樂智大投手がパワーハラスメントを同僚に行ったとして自由契約となった。

ご存じのとおり、プロ野球チームに所属する選手の平均年齢は20代と若い。そのような環境下で悪いノリが仲間内で常態化すると、感覚がまひしてハラスメントにつながる。

東北楽天ゴールデンイーグルスの発表によると、パワーハラスメントを安樂投手から受けた選手は約10人、状況を実際に見たり聞いたりした選手は40人以上に上る。

日本野球機構(NPB)は、春のキャンプでハラスメント講習を実施し、複数の相談窓口を各球団に設置して被害を訴えやすい環境を整備するなど、ハラスメント防止に乗り出した。

ハラスメント防止10カ条

若手リーダーのハラスメント行為を野放しにすれば、自信をつかむ前の周囲の若手社員を潰す結果になる。企業側の責任も大きい。

ハラスメント行為を誰にも指摘されず、間違った道を走り続けられる環境や社風のある企業では、ある意味で行為者も被害者となる。トップの意識改革が必要不可欠だ。

トップの意識改革に加えて、油断していた可能性のある20代若手リーダー自身も当然、ハラスメント防止の意識を高めてほしいと思う。

20代若手のハラスメント行為者の方が、ハラスメント行為の改善を期待しやすい。行為者自身がまだまだ発展途上のため、柔軟さを持ち合わせているケースが多いからだ。

自覚がないハラスメント行為を早期に改善できれば、自身の過ちを糧にまだまだ職場で成長できる。

筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会監修のハラスメント防止10カ条を以下に紹介する。後輩や同僚を持つ先輩リーダーは、コミュニケーションする際の参考にしてもらえるとうれしい。

【ハラスメント防止十カ条】
一、外見をほめない、けなさない、努力をほめよ
二、人と比較した発言をしない
三、あだ名をつけない、あだ名で呼ばない
四、個を尊重する意識を持つ
五、プライベートに介入しない、干渉しない
六、励ますつもりでも、体に触れるな
七、押しつけるアドバイスはしない
八、性別にとらわれない
九、職場での関係だから許されると甘えない
十、上司と部下の立場は業務に関係することだけと知れ
(出典:日本ハラスメント協会)

[文/村嵜要]

1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。
Twitter:@murasaki_kaname

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