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キラキラネームがパワハラのえじきに「奇形さん」と呼ばれたNさんの相談事例

ハラスメントに厳しい時代になった。正しい名前ではなく職場でわざと「あだ名」で呼んだり「あだ名」をいじったりする行為もパワハラに該当する。

その延長で、いわゆる「キラキラネーム」もパワハラを引き起こすきっかけの1つになっていると分かってきた。

そこで今回は、ハラスメント専門家である一般社団法人日本ハラスメント協会の代表理事・村嵜要さんに「キラキラネーム」がきっかけで起きた現実のハラスメントを考察してもらう(以下、村嵜要さんの寄稿)。

いじったり、突っ込んだりしないと逆に失礼と思った

筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会に「キラキラネーム」をきっかけとしたハラスメントの相談が寄せられた。

「キラキラネーム」が流行した時代に出生して、個性的な名前がついた年代の人たちが、時を経て社会人になってきた。

プラスして、職場におけるハラスメント対策が企業に義務化され、ハラスメントが注目されるようになった今の時代背景もあり「キラキラネーム」とハラスメントの関係が浮き彫りになってきたと考えられる。

そもそも「キラキラネーム」とは奇抜な名前の総称で、1990年代半ばから目立ち始め、2000年~2010年代前半に全盛期を迎えたとされる。

「キラキラネーム」を持つNさんから、会社の先輩や上司に、自分の名前をいじられたりバカにされたりして、就業環境が害されているという相談を筆者は受けた。

Nさんの名前は、日常生活ではあまり見掛けない漢字が使われている。漢字の並びもとても珍しい。

その結果「奇形さん(あまり見ない漢字や並び方をしているため)」や「タレントさん(タレントのように名前がキラキラしているため)」というあだ名で呼ばれてしまうという相談だ。

Nさんの訴えによると、名前と関連付けたコミュニケーションが事あるごとに取られるため、侮辱されているように感じ、精神的苦痛で仕事に集中できないそうだ。

そこで、日本ハラスメント協会が、Nさんの勤務先の人事部に相談内容を報告し、人事部を通じて行為者にヒアリングしてもらった。その結果、

「Nさんの名前は主張が激しいので名前をいじったり、突っ込んだりしてあげないと逆に失礼と思った」

などと言いわけがあったと後日報告を受けた。

名刺を出す時、恥ずかしくない?

「キラキラネーム」を友達や先輩から学生時代にきっかけにいじられる場合と、社会人になってからいじられる場合とでは重みが全く違うとNさんは語る。

学生時代は、名前いじりそのものが目的であったため、笑ったり軽くかわしたりもできたそうだ。

ただ、社会人になってからは、名前をきっかけとして能力否定・人格否定・侮辱に結び付けようとする悪質なコミュニケーションが横行しているという。

「そんな名前だから、お飾りで何も仕事ができないんだ」

「完全に名前負けしているよね?」

「名刺を出す時、恥ずかしくない?」

「きみの名前、パソコンで一発で出ないの?」

以上は、職場の先輩や上司からNさんが実際に言われた言葉だ。もはや、キラハラ(キラキラネーム・ハラスメント)と呼べるかもしれない。

名前で社会を混乱させないという観点が導入される

法務省が公表する情報によると、2025年(令和7年)5月ごろに改正戸籍法が施行される予定だ。

今まで、氏名の振り仮名は戸籍に記載されなかった。しかし、法改正後は、氏名の振り仮名も戸籍に記載されるようになる(戸籍振り仮名制度)。

行政のデジタル化基盤整備の促進等が本来の趣旨だが、この法改正の流れによって結果的に「キラキラネーム」の誕生が(その後のハラスメントの発生リスクも)自然に減っていくと考えられる。

法改正によって具体的に、どのような影響があるのか。イメージしやすいように法務省のリーフレットに掲載されているQ&Aの一部を長めに引用する。

“氏名の振り仮名については、「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」との規律が設けられました。例えば、1漢字の持つ意味とは反対の意味による読み方(例:高を ヒクシ)2読み違い、書き違いかどうか判然としない読み方(例:太郎 をジロウ、サブロウ)、3漢字の意味や読み方との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方(例:太郎をジョージ、マイケル)など、社会を混乱させるものは認められないものと考えられます。”(出典:法務省リーフレット https://www.moj.go.jp/content/001413974.pdf)

要するに、特殊な名前(振り仮名)が戸籍に記載しにくくなるのだ。

繰り返すが「キラキラネーム」の規制が目的ではなく行政のデジタル化にメリットがあると法務省は説明するが、社会を混乱させないという観点が導入されるので、ハラスメント防止の観点から言っても、いい流れであると筆者は考える。

ただ、一般的な名前が世の中に増えようとも、相手の名前を呼ぶ時に敬意を払った呼び方をしなければ、ハラスメントが起きる可能性はある。

どのような感覚を持ち相手を呼んでいるか、呼ばれた相手がどのような感情を持つか、本記事をきっかけに一度振り返ってみてほしい。

[文/村嵜要]

1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。
Twitter:@murasaki_kaname

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