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歌舞伎役者から39歳で転職。「銀座 蔦屋書店」書店員が語る“異色のキャリア”

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 東京のGINZA SIXにある書店「銀座 蔦屋書店」で働く佐藤昇一さん(45歳・@Chosan1976)は、元歌舞伎役者という経歴を持った書店員。大学在学中に応募した国立劇場の歌舞伎俳優研修所で歌舞伎を学び、三代目中村又五郎さん(当時は三代目中村歌昇さん)に弟子入りして「中村蝶之介」として歌舞伎の世界で生きてきました。

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「銀座 蔦屋書店」で働く佐藤昇一さん

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 19年という長い間、歌舞伎界で充実した日々を送っていた佐藤さんですが、プライベートでは母を亡くし、「歌舞伎の世界は、親の死に目にも会えない世界」という言葉を実感したといいます。年老いていく父や日々成長する息子のことを考えた時、これからは家族のために生きようと決意。2016年1月をもって歌舞伎役者を廃業します。

「歌舞伎役者以外にほとんど職歴に書けることがなかった」という39歳からの転職活動はどんなものだったのでしょうか。インタビュー記事前編では、佐藤さんが歌舞伎役者を辞め、一般企業で働き、銀座 蔦屋書店で日本文化を担当する「日本文化コンシェルジュ」として採用されるまでの話を聞きました。

歌舞伎役者としての19年間

――歌舞伎の世界ではどんなことをしていたのでしょうか。

佐藤昇一(以下、佐藤):舞台に立つ以外では、自分の師匠の身の回りのお世話から、舞台の演出補助、衣装さんや大道具さん、小道具さんといった様々なスタッフに、師匠の意向を伝えるということをしていました。スタッフのこだわりを守りつつ、師匠も納得できて、いい舞台を作れるように調整する役割ですね。

――師匠とスタッフの間に挟まれるのは大変そうですが、ストレスは感じませんでしたか?

佐藤:師匠とスタッフの板挟みというよりは、師匠の意向が絶対としてある上で、スタッフ同士が納得いかないところを調整するみたいな感じでしたね。

 一般企業でもトップは絶対ではあると思うんですけど、歌舞伎の世界ではそれがかなり強いんです。たとえ白でもトップが黒と言えば黒で、完全に1つの価値観が決まっていました。「師匠が黒と言っているから黒だ」と全員が納得するしかないんです。ストレスはあまり感じませんでしたが、ごくまれにトップ同士の考えが食い違うことがあって、その時はハラハラしていました。

経験から強みを見出す

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手掛けた尾上菊之助の初写真集『五代目 尾上菊之助』(CCCアートラボ刊)。押隈を手にする佐藤さん

――思い出深い経験はどんなことでしたか?

佐藤:僕の師匠が三代目中村歌昇から三代目中村又五郎になり、師匠の息子さんである種太郎さんが四代目中村歌昇として襲名するという一大興行があったんです。その興行で、舞台に関わる全ての人が納得できるよう、全体を見て、うまく調整する役割をさせてもらいました。振り返ってみると、本当に色々な経験をさせてもらったなと思います。

――歌舞伎役者を辞めて、39歳で転職活動をするのはかなり思い切ったことだと感じます。当時はどんな気持ちでしたか?

佐藤:履歴書を書く時、職歴として書けることや、一般的に世の中で評価されるようなことがないことに愕然としました。でも、「現場に強いこと」や「人当たりの良さ」という自分の強みをアピールした履歴書を出していくうちに、接客が必要な販売の仕事でいくつか内定をもらうことができました。

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