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大学卒業が徴兵で遅れる韓国人「日本うらやましい」北朝鮮は女性も7年など世界の若者の徴兵制事情

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紛争が世界で繰り返されている。国家安全保障に関する調査では、17~19歳の日本人男女の4人中3人以上が徴兵制度導入に反対しているらしい。

戦争・武力衝突などが生じたとしても「戦闘以外の方法で協力する」と回答した人が最多で「何もしない」と答えた人も20~30%存在するそうだ。20~40代に聞いても恐らく同様の答えだろう。

しかし、世界の戦争や紛争の最前線で血や汗、涙を流して戦っている人たちは基本、若者だ。

K-POPの男性アイドルが芸能界の第一線から兵役で姿を消す光景は日本人にもおなじみだと思うが、実際問題として世界の若者は、どのような気持ちで徴兵制と向き合っているのだろうか。

そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、世界の徴兵制と若者の本音について教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)

北朝鮮の女性には7年の徴兵制がある

今日でも世界では紛争が続いている。ウクライナ戦争ではロシア有利に戦況が傾き、ウクライナへの軍事支援停止に言及するトランプ氏がホワイトハウスに戻るかもしれない。

中東では、イスラエルによるガザ地区への攻撃が続き、台湾をめぐる軍事的緊張も懸念事項だ。世界ではどこかで今後も紛争が続き、紛争が続く世界は終わりそうにない。

では、それらの紛争に駆り出される若い兵士たちの気持ちはどうなのだろうか。それらの若者たちを戦地に送り込む世界各国の徴兵制事情はどうなっているのか。

日本の若者にとって戦争・軍隊といったら、遠い昔の歴史の話、あるいは対岸の火事のように聞こえるだろう。

しかし今日、世界193カ国中、徴兵制を採用している国は60カ国以上ある。例えば、隣国の中国では、約2年の兵役義務が男性にある。

北朝鮮男性は10年近く、女性が7年だ。K-POPアイドルを数多く輩出する韓国では男性の兵役義務が約2年となっている。

他には意外と、東南アジアで徴兵制が多い。ベトナムが2-3年、タイが2年、ラオスが18カ月、シンガポールが2年などとなっている。

ヨーロッパに目を向けると北欧諸国にも意外に多い。スウェーデンが約1年、ノルウェーが1年、デンマークが4-12カ月、フィンランドが半年から1年などとなっている。

ロシアによるウクライナ侵攻により、フィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)にこの2年間で加盟するなど、ロシアへの脅威が北欧諸国の間で高まり、若者の間でも防衛意識が高まっている。

徴兵義務延長でも台湾の若者たちが肯定的な理由

では実際、この入隊について若者たちはどう思っているのか。

筆者には、韓国人や台湾人の親しい友人が多く居る。例えば、韓国人の友人に聞くと複雑な思いがあるという。

無論、徴兵制について若者たちの考えはまちまちだが、筆者の友人たちは、日本人の若者たちと同じように自由や民主主義という価値観の中で、日本と同じような経済水準の中で生活を送る中、突如として兵役生活に入ると大きなギャップを感じたという。

しかし、2年の兵役義務については生まれながらに知っている。いつかは行かなければならないという気持ちが自然にある。目の前に北朝鮮という存在があるので仕方がないとも思っているらしい。

そして、大学在学中の2年間で軍隊に入るため大学卒業が遅れる。日本人の大学生がうらやましいとも友人は語っていた。

また、台湾人の友人は、軍事的に中国を怖いと以前は思っていなかったが、力を付けた中国と軍事的緊張が高まる近年は、台湾市民の間で意識が変わってきていると語る。

実際、18歳以上の男性に4カ月の兵役義務が台湾で課せられていたが、今年1月から台湾政府は1年に延長した。

明らかに、台湾有事を意識した変革だ。しかし、友人に聞くと、台湾の若者たちの間でも肯定的な意見が多く、民間軍事会社が主催する軍事訓練や避難訓練に参加する若者の数が増え、防衛意識が高まっているという。

この友人も、軍隊で訓練を率先して積みたいわけではないが、台湾周辺の軍事的緊張を考えれば台湾人として大切な行動だと主張している。

日本と韓国、台湾は近い国だ。しかし、若者たちの想いや意識には大きな違いがあろう。

日本で徴兵制が導入されるとは現時点で考えられないが、今後の世界情勢の行方によっては徴兵制を採用する国が増えるかもしれない。

[取材・文/和田大樹]

[参考]

18歳意識調査「第53回 –国家安全保障–」報告書 – 日本財団

Military service age and obligation – The World Fact Book

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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