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ファーストクラスってどんな人が乗るの? 会社役員さえ搭乗できない往復300万円の極上フライト

ビジネス、プライベートにかかわらず、ビジネスクラスの搭乗経験がある人の割合は全体の2割程度だという調査がある。20~60代を対象にした調査なので、若い年齢の人の搭乗経験はもっと低くなるはずだ。

では、そのビジネスクラスの先にある最上位のファーストクラスとなると、どのような人が乗っているのか。はたまた、どのような世界が待っているのか。

そこで今回は、航空ジャーナリストの北島幸司さんにファーストクラスの世界を教えてもらった。

ちょうど、JAL(日本航空)国際線の代表機となるエアバス社A350-1000が2024年(令和6年)1月に就航開始したらしい。

その機材のファーストクラスを実例に、ファーストクラスの世界を学ぼう(以下、北島幸司さんの寄稿)

20年ぶりに交代した国際線フラッグシップを実例に

長距離国際線にJALが就航させる更新機材A350-1000。A350の機首部分には、JALのロゴに描かれる。7メートル延長された胴体を持ち、流麗なタンチョウヅルに近いスマートさを持ち合わせる。

実用記事と考えれば、読者にお伝えすべきは手の届くエコノミークラスなのかもしれない。

それでも、いつか乗りたいファーストクラスの知識も、大人のたしなみとして大事だと思う。ひと時、空の上で用意される夢の時間を想像してみてもいいのではないだろうか。

筆者の仕事仲間である特派記者が同日、JFK(ニューヨーク)発羽田(東京)行きの初便となる005便のファーストクラスに搭乗した。

西行きのために(偏西風の影響があるため)、羽田発よりも1.5時間飛行時間の長いフライトで14時間35分も掛かる。

今回は、仕事仲間の帰国後に聞き取った内容を基に、私自身の経験も加味して、国際線の最上位サービスを紹介したい。

実業家・会社役員でもファーストクラスを買うわけではない

この羽田・ニューヨーク路線のフライトを、JAL(日本航空)の公式ホームページで検索すると執筆時点で、往路150万円代・復路140万円代のチケット情報が出てきた。

燃油サーチャージを足すと300万円を超える値段になる。マイルをためて、片道7万マイル(ローシーズン)と燃油サーチャージで搭乗する方法が近道かもしれないが、物価の高いニューヨークへ行けば現地滞在の宿泊費なども高額になる。一体、誰がこの旅費をまかなえるのか。

実際に、このフライトに搭乗した特派員記者に聞いた。記者である彼には別の顔があり、日本で玩具の輸入販売を行っていて、台湾に製造工場を持つ。

月に2度台湾へ行ったり、米国の取引先などへ出張したりするケースが多いらしい。彼のような実業家が、ファーストクラスの航空券を普段買っているのか。

率直に聞いてみると意外な答えが返ってきた。

「ファーストクラスの航空券を買うことはないですね。出張した際に、台湾や外地で1年間有効の日本経由のビジネスクラス航空券を買うようにしています。

これで、ニューヨークなど米国東海岸へ行く際、ファーストクラスにマイルでアップグレードします。片道4.5万マイルをANA・JAL共に消費しますが実際に買うよりもいいと思っています」

要するに、彼のような起業家・実業家の顔を持つ人間でもファーストクラスの航空券を普段、おいそれと買っているわけではないのだ。

他にも民間会社の調査データがある。株式会社産労総合研究所が一般企業に対して定期的に実施している「国内・海外出張旅費に関する調査」の2019年版だ。

海外出張時の航空機の利用クラス基準について出張旅費規程等でどう定められているかを一般企業3,000社を対象に調べると以下のようになった。

役員
ビジネスクラス・・・35.1%
エコノミークラス・・・26.9%
ファーストクラス・・・1.8%

部長クラス
ビジネスクラス・・・6.4%
エコノミークラス・・・65.5%

課長クラス
ビジネスクラス・・・2.3%
エコノミークラス・・・70.2%

一般社員
ビジネスクラス・・・1.2%
エコノミークラス・・・71.9%

企業の役員でもファーストクラスの利用実態は1.8%だ。ビジネス界で言えば、企業の役員クラスよりも上の存在、起業家・実業家でも一握りの存在が搭乗する最上位のサービスがファーストクラスなのだ。

リビングに置く43インチモニターが個室に

では、実際に、ファーストクラスではどのようなサービスを体験できるのか。前評判が高かったエアバス社A350-1000のファーストクラスを実例に紹介したい。

まず、指定の座席に向かうと、その個室の広さに驚かされる。3人が座れる空間は、持て余すほどの広い空間を独占できる。

さらっと書いたが、エコノミークラスはもちろん、ビジネスクラスでも期待できない個室空間(個室スペースの天井部は開放されている)が、ファーストクラスでは与えられる。

シートの上には、機内で使えるアメニティ類が置かれている。エアウィーヴ社の専用マットレスに掛け布とピロー。アメニティキット、スリッパ、ヘッドフォンにメニューだ。

サイドテーブルには、ミネラルウォーターのボトルが置かれている。

日本のデザインオフィスnendo社のリラクシングウェアも客室乗務員が配ってくれる。ファーストクラスではSMLの3種が用意されていた。離陸後シートベルトサインが消えてからゆったり着替えられる。

アメニティキットは、ゼロハリバートンの外装に、ヘラルボニー社がコラボレーションしたデザインを内張りしている。〈MISOKA〉の水で磨ける歯ブラシもある。

シードに腰掛け、ソファモードにリクライニングしてみる。1人が座るスペースで123センチ幅がある。新幹線の標準的なシートピッチは100センチ前後だと考えると、気持ちのいい広さだと分かるはずだ。

ベッドにしたファーストクラスのシート

その後、就寝モードにすると長さ203センチの大きなベッドになる。個室の壁の高さは157センチもあり(個室スペースの天井部分は開放されている)、人の視線は全く気にならない。寝顔を見られなくていいので熟睡できる。

ファーストクラスはモニターも巨大だ。4K対応で43インチある。家庭のリビングに置くサイズを個室に持ち込んでいる。シートバックスピーカーも試してみた。鳴り物入りのシステムで、ヘッドフォンの閉塞(へいそく)感から解放される夢のような製品だ。

ただ、機内にはエンジン音がある。音楽に集中したい場合はヘッドフォンを使うとノイズが消える。デンマークのBANG & OLUFSEN社の高音質なアクティブノイズキャンセリング機能付きは透き通るようないい音だった。

執筆者の北島幸司さんが撮影したYouTube動画
ファーストクラス内部の様子が映像で確認できる
Middle Aged Aviation Otaku そらオヤジ組

3つ星シェフのメニューとHideki Matsuiカレー

機内で飲めるフランスの白ワイン

機内食はどうか。ワインのリストには例えば〈ヴァン・ド・ヴィエンヌ・AOCコンドリュー・ローヌ・パッション2021〉が用意されている。フランス北部コート・デュ・ローヌ地区で評価の高い生産者が共同でつくるワイナリーの銘柄だ。

JALコーポレートシェフ堀内陽彦氏の小皿五菜。時計回りに左下から、牛たんと大根の煮込み、帆立南蛮漬け、数の子とあぶら菜のお浸し、叩き酢ごぼう・海老艶煮・厚焼き玉子・黒豆、鯛の煮付け・豆腐・柚子が並ぶ

和食には、JALコーポレートシェフ堀内陽彦監修による基本の献立に加えて、ミシュラン3つ星を獲得している〈神楽坂 石かわ〉の石川秀樹シェフのメニューと〈虎白〉の小泉瑚佑慈シェフが監修するいいとこどりの和食を羽田発のニューヨーク線限定で楽しめる。

和食のわんや鯛飯など

洋食には、ミシュラン3つ星の北品川〈カンテサンス〉岸田周三シェフのフルコースも、同様の路線限定で用意される。

期間限定でニューヨーク発のみ〈宮崎キャビア1983プレミアム〉もメニューに加わる

アラカルトで面白いメニューもある。就航記念として〈Hideki Matsui ビーフカレー〉がある。説明文には「このカレーは、ヤンキースでもプレイされた松井秀喜さんのお母さまがつくるカレーを再現したものです」と書かれている。

手摘みの高級茶葉のみを使用し、ティーソムリエたちが丁寧につくりあげた日本茶のロイヤルブルーティー〈クィーン・オブ・ブルー〉もあれば、グアテマラの古都アンティグアの郊外にあるサンセバスティアン農園で1世紀以上にわたりファジャ族が守り続けてきたコーヒー〈サンセバスティアン農園セミウォッシュト〉もある。

当然、カトラリーやお皿も、プラスチック製や紙製ではない。

片道7万マイルか150万円を払うと以上のような12時間の極上体験が待っている。この体験を選ぶか否か。若い人が多いbizSPA!読者の場合は、一流と言われる空間に身を置く体験も、長い時間が残された人生の糧になるのではないかと考える。

天井に収納棚のない広々としたファーストクラスの空間

[取材・文/北島幸司]

[参考]
世界最大級の総合旅行サイト・エクスペディア  飛行機のビジネスクラスに関する意識調査を発表 – エクスペディア・ジャパン

国内・海外出張旅費に関する調査 – 産労総合研究所

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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