bizSPA!

日本好きベトナム人の「ヲタ芸」が完璧。ジャパントレンドフェスで見た日本文化の現在地

コラム

日本の若者文化であるアニメやマンガ、アイドル文化などが、海外で受け入れられているといった情報を盛んに目にする。

実際に、どの程度の熱量で迎え入れられているのだろうか。「日本はすごい」的に考えたい日本人の単なる思い込みにすぎないのではないか。

その実態を探るべく今回、bizSPA!フレッシュ取材班は、ベトナム航空主催のプレスツアーに参加しベトナムを訪れた。

なぜ、ベトナムなのか。その理由は、ベトナム南部の都市ホーチミンで、ベトナム航空がトップスポンサーを務める文化イベント〈ジャパントレンドフェスティバル〉が開催されると聞いたからだ。

日本の音楽、マンガ、アニメ、デジタルコンテンツなどのポップカルチャーが現地の若者にどのように受け入れられているのかを知る絶好の機会なので現地レポートをお届けする。

元AKB48の前田敦子さんも登壇

そもそも〈ジャパントレンドフェスティバル〉という文化イベントがベトナムのホーチミンでなぜ開催されたのか。

ベトナム航空などがトップスポンサーを務める同イベントは日越外交関係樹立50周年記念事業の一環で2023年(令和5年)9月23~24日にホーチミン市青年文化会館で開催された。

今回のプレスツアー主催者にして〈ジャパントレンドフェスティバル〉のトップスポンサーであるベトナム航空の客室乗務員たち。日本とベトナムの関係を深めるため同社は、さまざまな文化イベントをサポートしている

代々木公園(東京)で毎年開催されるベトナムフェスティバルの共同委員長・青柳陽一郎衆議院議員が実行委員長となり、日本のフェスティバルをベトナムの現地で開催した形になる。

ゲストには、森崎ウィンさんや元AKB48の前田敦子さんなど、日本のタレントやコスプレイヤー、アイドルなどが駆け付け、会場に華を添えた。

数百人規模のコスプレサークルが存在

bizSPA!フレッシュ取材班が訪れたイベント初日の開場直後は、人の出入りがまばらだった。

9月のホーチミンは雨期だ。午後になると毎日、スコールが降る。その日は、午前中からどんよりと曇っていて時折雨が降った。「人が集まっている様子が撮れるかな」と心配すらした。

しかし、アイドルなどがステージに立つころには徐々に人も増え、コスプレ姿の若者や〈推しの子〉の法被姿の若者など、それらしい人たちが目立つようになる。人が集まり始めると当然、会場全体の熱気も高まっていく。

そこでまず、会場内外に集まる若者に声を掛け、日本文化に対する熱量を探ってみた。

最初に声を掛けたコスプレイヤーは、ホーチミン在住のフイさんとドゥクさん。同世代の若者と同じく、RPGのゲームなどが普段の趣味だというが、アニメ〈チェンソーマン〉などに興味を持つうち、コスプレデビューを2カ月前に決意。イベント情報を聞きつけて会場に訪れたという。

フイさん(右)とドゥクさん(左)

衣装は、ベトナム国内で調達した。聞けば、ホーチミンには、数百人規模の会員が集まるコスプレサークルが存在し、フイさんとドゥクさんも加入しているそう。

会場内を〈推しの子〉の法被姿で歩くダランさんも話を聞いた人の1人だ。日本のアニメファンかと聞くと「そうです」とうなずく。

最も優れていると感じる日本のアニメトップ3を聞くと、法被姿のままに1位は〈推しの子〉を挙げ、2位に〈機動戦士ガンダム〉、3位に〈呪術廻戦〉を推してくれた。

ダランさん

ダランさんが、日本のアニメファンだとは一目で分かる。では、ダランさんの周りで、マンガやアニメを代表する日本のカルチャーはどの程度人気なのか。

「ベトナムの若者全員にloveされているかといえば違うが、間違いなくlikeはされている」と、よどみなくダランさんは教えてくれた。洞察力が高い人のように感じる。

〈ジャパントレンドフェスティバル〉の会場内には日本企業のブースも出店している。株式会社バンダイのブースでは、ガンダムのフィギュアも販売されていた。ブースのスタッフによるとフィギュアも現地で人気らしい。

会場内のガチャガチャのコーナーにも人が集まっていた。少なくとも「like」されている様子は十分に伝わってくる。

「ヲタ芸」の伝道師

会場を出入りしていろいろな若者に声を掛けているうちに、客席の片隅を陣取る集団が目に留まった。

サイリウム(ケミカルライト)を両手に持ち「ヲタ芸」を練習している男女のグループだ。ポップカルチャーのみならず日本全般が好きな同好の集団なのか。サッカー日本代表選手の吉田麻也選手のユニフォームを着た若者も紛れていた。

早速、リーダー格の男性に声を掛けてみる。名前を聞くと「アイユ」と名乗った。

アイユさん

なぜ、アイユさんは異国の地で、見事なまでに「ヲタ芸」をマスターしているのか(少なくとも、bizSPA!フレッシュ取材班からすればマスターしているように見える)。

聞けば、日本に留学した経験があるらしく、在学中に出合った「ヲタ芸」をベトナムに持ち帰り、仲間たちに伝授しているという。

好みのアイドルがステージに立つと、彼ら・彼女らのリズミカルな合いの手で、会場の雰囲気は一変した。

頭から湯気が出るほどの声援を送り続け、最後には集団で、サイリウム(ケミカルライト)を駆使しながら「ヲタ芸」を披露した。ステージ上のアイドルに負けず劣らず、周囲の人たちの視線を一手に引き受けていた。

周りの反応を見ると「ヲタ芸」はさすがに、標準的なベトナム市民の感性から見てもまだ珍しいカルチャーに映るようだ(会場に居合わせた警備員などの視線は冷ややかだった)。しかし着実に、日本式アイドルと、そのファン文化もベトナムには届き始めている。

年配の警備員たちは大笑いして手を振った

ブイさん(右)とブインさん(左)

この日本のカルチャーに対する熱量は会場の外へ出るとどう変化するのか。

〈ジャパントレンドフェスティバル〉の会場内であれば当然、興味関心の高い人たちが集まるイベントなので、日本のアニメやマンガ、アイドル文化に対する来場者の関心度は高くなる。

トップスポンサーのベトナム航空のブース前にてポーズを取る15歳の少女たち

そこで〈ジャパントレンドフェスティバル〉で警備を務めるALSOK(アルソック)の警備員たちや、会場の近所で商売を営む人たちにも声を掛けてみた。

中高年の警備員たちに「日本のアイドル文化を好きか?」と聞けば即座に彼らは、大笑いして手を振った。「興味ない」という意味だ。

しかし、若い世代の警備員たちになると、アイドル文化こそ詳しくないが、アニメ・マンガ・ゲームに対する知識がかなり豊富だった。

会場周辺で声を掛けた地元の若者たち。Tシャツにプリントされた日本語の意味を教えると「マジかー」と頭を抱えていた

会場周辺で働いていたり、たまたま通り掛かったりした若者たちも同様で、日本のアニメ・マンガ・ゲームに対する興味関心は圧倒的だった。

ホーチミンではなく、ベトナム航空のプレスツアーで訪れた他の都市(ハノイ)で出会った大学生たちも同様で、話をしているうちに「スーパーサイヤ人」という単語が当たり前に出てきた。

ハノイで出会った大学生たち

ベトナム語に翻訳された単行本が安く販売されている〈ドラゴンボールZ〉〈ドラえもん〉〈名探偵コナン〉などの知名度は現地でも特に高い。

映像産業振興機構など各種の団体が実施する外国人意識調査でも、日本のアニメ・マンガに対するアジア人の関心の高さは繰り返し証明されている。

コミュニティサイト〈FUN! JAPAN〉が実施したオンライン調査によると、日本好きの外国人の中でもベトナム人は、他の東アジア、東南アジアの国々の人たちと比較して、日本のアニメ・マンガの視聴経験の割合が突出して高いと分かる。

もちろん、目に留まった個別の事例と若者の全体像は必ずしも一致しない。しかし、ベトナムにおける日本カルチャーの浸透ぶりは、かなりのレベルまで来ていると言っても大きな間違いではないはずだ。

同じアジアでも中国の場合、48系アイドルグループのファンの間で、日本には存在しない顕彰(けんしょう)制度が生まれたという。特定のメンバーに対する最多投票者に「単推王」(たんおしおう)の称号が与えられる制度だ。

アイドル文化に関してはベトナムでも好みがまだ分かれるようだが、日本のマンガやアニメと同様に、アイドル文化がさらに浸透していけば、独自のファン文化がベトナム国内で発展を遂げてもおかしくない。

そんな予感を抱かせられるくらい〈ジャパントレンドフェスティバル〉の盛り上がりは印象的だった。

[参考]

※ クールジャパンの再生産のための外国人意識調査(概要) – 特定非営利活動法人 映像産業振興機構
FUN! JAPANオンライン調査
※ 各国における分野ごとの日本に対するイメージ – 首相官邸
ASEAN諸国における対日世論調査 – 外務省
20+ Anime Statistics & Facts: How Many People Watch Anime? (2023) – HEADPHONES ADDICT
Women in spotlight: Japan’s pop culture casualties – The Lunar Times
※ オタク文化の専門研究機関の発足とその効果~世界オタク研究所の活動から~
「オタク」市場に関する調査を実施(2022年) – 矢野経済研究所
※ 東アジアの未来(2) – 同志社大学学術リポジトリ

[取材・文・写真/bizSPA!フレッシュ編集長・坂本正敬]

bizSPA!フレッシュ編集部の記者(編集者)が、20代のビジネスマン向けに、気になる世の中の本音や実情を徹底した現場取材で伝えます。

おすすめ記事