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非エリートのコンプレックス克服法は「誰かのために戦う」一流TV演出家が語る劣等生の勝負学

学び

コンプレックス(劣等感)は誰にでもある。出身地、学歴、自分の仕事や年収、勤務先などに引け目を感じて、各種のコンプレックスに悩まされている若者も少なくないはず。

モハメドアリの絵画を前にしたマッコイ斉藤さん。モハメドアリも信念のために戦った

コンプレックスは厄介だ。引け目を感じる相手の前では萎縮してしまう。この萎縮に負けず、劣等感を乗り越えて結果を残し、満足のいく人生を送るためにはどうすればいいのだろうか。

今回は、有名テレビ番組や人気企画を次々と手掛け、YouTubeやインターネット番組でもヒットコンテンツを連発する、TVディレクターであり演出家のマッコイ斉藤さんに、コンプレックスまみれの非エリートが心にとどめておきたい勝負学を聞いた。

「非エリート」な超一流ディレクター

本題に入る前にちょっとだけ話を整理する。

テレビを見ないと言われて久しい若い世代には〈天才・たけしの元気が出るテレビ!!〉だとか〈とんねるずのみなさんのおかげでした〉だとかの番組名を出してもピンとこないかもしれない。

では、YouTube番組〈貴ちゃんねるず〉はどうだろうか。

登録者数100万人を超えた〈貴ちゃんねるず〉にYouTubeから贈られた金の盾

それらのコンテンツを長年にわたって演出してきた人がマッコイ斉藤さんだ。そのマッコイさんが、2023年(令和5年)7月に〈非エリートの勝負学〉(サンクチュアリ出版)という本を出した。

「非エリート」というタイトルどおり、マッコイ斉藤さんはたたき上げの人だ。

山形県北部の田舎に生まれ、やんちゃな青春時代を過ごした。上京後には、テレビ局ではなく番組の制作会社に入り、失敗や対立を繰り返しながら、ゴールデン番組の総合演出を手掛けるまでに成り上がった。

その過程で、学歴・財力・コネ・家柄・出身地などさまざまな劣等感を味わったと上述の本に書いている。

書籍〈非エリートの勝負学〉より。写真:名越啓介

ならば、コンプレックス(劣等感)という厄介な感情をどのように克服すればいいのか、マッコイ斉藤さんなら価値ある助言を与えてくれるはずだ。

そこで、都内の某所に居るマッコイ斉藤さんをbizSPA!取材班が訪ね、話を聞かせてもらった。

萎縮から成長が生まれる

業界では知らぬ者が居ないくらい有名なTVディレクターがマッコイ斉藤さんだ。テレビ番組制作会社の笑軍を立ち上げ、代表取締役も務めている。

マッコイ斉藤さんに指定された取材現場には数多くのアート作品やグッズが展示されている

はたから見る限り、大成功を収めているわけだが、素朴な疑問として現在でも、本に書かれたような劣等感を抱えているのだろうか。

「もちろんですよ。いまだに劣等感だらけですし萎縮もします。

ただ、本にも書いたとおり、萎縮する経験はすごく大切で、萎縮から成功が生まれる、萎縮する経験から成長が得られると考えています。

一流が一流を育てるという言葉があるとおり、一流の人の前で萎縮する経験こそが、その人を一流にしてくれるのです。

なので今では(コンプレックスや劣等感は)ウェルカムですね」(マッコイ斉藤さん、以下の表記はマッコイ)

萎縮から成功が生まれるという話は補足が必要かもしれない。

“人の成長は「萎縮」から”(〈非エリートの勝負学〉より引用)

とマッコイ斉藤さんは自身の著書に書いている。

緊張や萎縮のしんどさに耐えられた人が次のステージに行ける、萎縮させられている間に技術や能力、センスが磨かれるといった話で、萎縮する環境に繰り返し身を置く大切さが語られている。

例えば、マッコイ斉藤さんは人気テレビ番組〈とんねるずのみなさんのおかげでした〉のディレクターに異例の形で抜てきされた。

初会議に顔を出した時、長年番組に携わってきたディレクターや放送作家、プロデューサーら20人のスタッフの前で、完全アウェイな状況に追い込まれた。

「お前なんか知らねえ」という周囲の態度が続き、一切しゃべらせてもらえない会議になんと半年間も身を置き続けたという。普通の人であれば、その状況に萎縮し、即座に逃げ出したくなるような環境だ。

自分だけじゃなく誰かのために頑張る

しかし、マッコイ斉藤さんは「なんだよこれ? イジメかよ。燃えてくるじゃねえか」と感じたという。普通じゃない。どうして、萎縮して小さくなるのではなく、反骨精神がわき上がってきたのか。

「そもそも、山形に居るころ、やんちゃグループに居たので、自分がいじめられるといった経験を持たなかったのです。なので、輪になって長く居る人たちにこびへつらう気持ちがありませんでした。

また、テレビ業界には、早稲田大学を出ましただとか、慶応大学を出ましただとか、エリートがたくさん居ました。自分は、新庄農業高校卒ですよ。負けられないなと思いました」(マッコイ)

とはいえ、そこで負けてしまう、萎縮に押し潰されてしまう人が一般的なはずだ。どうして、完全アウェーの中で劣等感に屈せずに、圧力を跳ね返せたのか。

「俺の場合は、友達の存在が大きいと思います。幸いにも、イケてる友達と上京後にたくさん出会えました。

その頑張っている友達たちに、ダサいマッコイ斉藤を見せられないという思いが支えになってくれました。

この場合の友達とは、ブランド感覚で持つ『友達』とは全然違います。役者をやっているとか、モデルをやっているとか、職業や顔が格好いいから付き合う『友達』では全くありません。

損得なく付き合える、お互いが貧しくなろうが、何の仕事をしようが関係なく付き合える、お互いの夢と希望に向けて、切った張ったの関係でいられる友達です。その意味で俺は、周りに恵まれました」(マッコイ)

「親孝行しよう」と思わない人は出世できない

この「誰かのために頑張る」という考え方はとても大事らしい。

「いろいろな人に出会ってきましたが、てめえ(自分)のためだけにやっている人は長続きしません。もちろん『自分のために』が悪いわけではありませんよ。

しかし『自分のため』がずっと続くと周りが離れていきます。成功が、長続きしないんですよね。

『親孝行しよう』と思わない人も絶対に出世しません。長く一流にとどまっている人たちを見て思いました。やはり、誰かのために頑張るという気持ちが、萎縮させられるような場面で自分を支えてくれるのだと思います」(マッコイ)

コンプレックスや劣等感を抱き、萎縮して顔も上げられなくなってしまう、そんな場面でも、ファイティングポーズを取れるかどうかは、自分以外の誰かの存在や利他の精神にかかっているという話だ。

取材場所に掲げられた書

山形県の田舎に生まれて良かった

萎縮が、成長にとって大切であるとすれば、萎縮を生み出すコンプレックスや劣等感も成長には不可欠という話になる。

では仮に、マッコイ斉藤さんが東京のど真ん中で筋目の正しい家柄に生まれ、一流大学を卒業し、エリートとしてテレビ局員になっていたとしたら、言い換えると、コンプレックスのない人生を送っていたとしたら、今のような成功はあったのだろうか。

「全然違っていたでしょうね。もちろん、大学くらいは出ておけば良かったなと思いますし、テレビ局員になれた方が楽だったと思います。

自分で営業して仕事を取ってくる必要もないので、その意味では、ノーストレスですよね。〈踊る大捜査線〉の室井慎次(柳葉敏郎)のように、エリートはエリートで苦労はあるのかもしれませんが。

ですが、今となっては本当に、山形県の田舎に生まれて良かったと思います。俺の場合は、全く恵まれない状況からのスタートだったので、ちょっとずつ人生が右肩上がりになっていきました。最初から全てがそろった人生なら、横ばいか下降するだけです。

こんな人生だからこそ、田舎の村に生まれているからこそ〈非エリートの勝負学〉のような本を出版できるわけで。

仮に、エリート街道を自分が歩んできたとすれば、そんな人生を誰も知りたいとは思わないわけじゃないですか。その意味で、山形に生まれて良かったです。本当に」(マッコイ)

上京時には、コンプレックスの1つだったはずの山形生まれに対する劣等感が見事に反転している。

取材場所には神棚も。仏壇も含め、マッコイ斉藤さんは毎日手を合わせ、自分が存在する意味に感謝し、利他の精神に立ち返っているそう。取材時には、神社に参拝する意義についても語ってくれた

今となっては、マッコイ斉藤さんは「山形ナンバーのポルシェを東京で乗りたいです。面白いでしょ」と語る。コンプレックスが逆に、自分の個性となり、武器となっているのだ。

学歴がない、出身地が田舎、見た目が悪い、育ってきた環境が悪いなど、コンプレックスや劣等感は人によってさまざまだ。

しかし、引け目を抱え、萎縮する場面に繰り返し出くわしながらも、誰かのために頑張り続けているうちに、自らのコンプレックスを愛せる瞬間が来るのだと、マッコイ斉藤さんの話を聞いていて感じる。

〈非エリートの勝負学〉(サンクチュアリ出版)は人生に対する心構えから、今すぐ役立つノウハウ的な考え方まで、教えに満ちた良書だ。

コンプレックスや劣等感を扱いあぐねている若者には特に読んでもらいたい。強く、お勧めする。

[書籍情報]
非エリートの勝負学
マッコイ斉藤
2023年07月07日 発売
ISBNコード 978-4-8014-0119-8
四六判 ソフトカバー 256ページ 束17ミリ
定価:1,500円(税込1,650円)

[取材・文/bizSPA!フレッシュ編集長・坂本正敬 写真/渡辺昌彦]

bizSPA!フレッシュ編集部の記者(編集者)が、20代のビジネスマン向けに、気になる世の中の本音や実情を徹底した現場取材で伝えます。

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