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米国のZ世代は自国を「弱い」と認識。日本人の知らない意外なアメリカの現在地【週末読みたい本の話】

ビジネス, 学び

話題の新刊から、名前は知っているけれどなかなか手が出ない古典まで、時事性の高い政治・経済ニュースの見方が深まる良書の書評を、大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが担当する。

今週末に読みたい本は……。

三牧聖子〈Z世代のアメリカ〉(NHK出版新書)

「Z世代」と言われる若者たちがいる。Z世代とは、1997年(平成9年)から2012年(平成24年)に生まれた若い人々を指す。

日本にはZ世代が約1800万人存在し、地球上には約24億人存在する。この同世代について、日本の若者はどれだけ知っているだろうか。

気鋭の国際政治学者・三牧聖子氏の著書〈Z世代のアメリカ〉(NHK出版新書)は、アメリカにおけるZ世代のこれまでの動きに注目しながら、同国のZ世代が与える社会への影響力、およびアメリカ社会の未来の展望を語る。

本書によると、アメリカのZ世代は、社会の多様性をデフォルト(初期値)と認識するらしい。実際、アメリカ社会は、ヒスパニック系の増加などを受け、人口比でいずれ白人が半数を下回る見通しだ。人種構成が多様化し、価値観、ライフスタイル、国家観などにも影響はすでに及びつつある。

自分たちの国が諸外国をけん引する「アメリカ例外主義」的な発想も持たない。新しいアイデンティティや世界との関わり方を模索する世代でもある。対外介入に否定的な見方も広がっている。

2000年(平成12年)以降に発生したリーマンショックや所得格差の拡大、繰り返される戦争を見て育った若者たちにとって豊かで強いアメリカは過去の話だ。マッチョで自己中心的な考え方をする傾向が強かったこれまでの世代とは異なり、弱いアメリカこそ現実であると認識する。

かといって、ひ弱になったわけではない。アメリカが抱える問題や不正義を見据える強さも持っていると本書の著者は指摘する。その背景には、アメリカが抱える選挙制度の問題やマイノリティに対する不正義がある。

世界の多くの人は、アメリカこそ民主主義大国と信じているかもしれない。しかし、実像は大きく異なっている。

民主主義の根幹である選挙制度に同国は大きな問題を抱えている。二大政党制の一角を担う共和党は、マイノリティを公然と敵視するような政策もためらわない。貧困層やマイノリティの投票権を困難にするような動機すら持つという。

権威主義が加速し、「スマートなトランプ」「ミニトランプ」とも呼ばれる人物が2024年(令和6年)の大統領選に向けた共和党の候補指名争いに出馬を表明している。

一方、民主党のバイデン政権に向ける若者のまなざしも厳しい。社会の多様性をデフォルト(初期値)と認識し、権威主義が加速する世の中に大きな変化を求めるZ世代にとって、バイデン政権があまりに穏健すぎるからだという。

女性、黒人、南アジア系アメリカ人としては初の副大統領であり、多様性を象徴する存在だった民主党のカマラハリスも、Z世代の支持を集めていないと本書の著者は語る。彼女の政治スタンスも「どっちつかずの中道の政治家」のイメージがあるからである。

司法の保守化についても本書では紹介されている。例えば、2022年(令和4年)6月、人工妊娠中絶の憲法上の権利を認めた1973年(昭和48年)の判決を連邦最高裁が覆した。

結果として、米国の各州が中絶を自由に禁止・制限できるようになった。中絶の権利を力強く擁護するZ世代の認識との乖離(かいり)が浮き彫りになった。

これら本書の指摘は、われわれの知る「アメリカ」のイメージと大きく異なるはずだ。日本からは見えにくいアメリカの意外な姿を若者世代の動きを通じて教えてくれる。

今後、若い世代がアメリカをどのように変えていくのか。2022年(令和4年)の中間選挙ではフロリダ州で、アメリカ史上初めてZ世代の連邦議員が誕生した。

2024年(令和6年)は、大統領選でアメリカに世界の注目が集まる。本書を入り口に、アメリカのZ世代の訴える政策や動向に目を向ければ、日本の若者も多くを学べる年になるはずだ。

キーワード解説

アメリカ例外主義:自国の歴史、政治制度、および宗教制度が他の先進国と質的に異なっていると考える態度。

リーマンショック:2008年(平成20年)9月15日に起きた米投資銀行リーマンブラザーズの経営破綻(はたん)をきっかけに世界的に普及した金融危機、および不況。

権威主義:権力、および威光を通じて自分の主張を真理であると押し通す態度、思考、および行動様式。盲目的に権威に服従する側の態度も含む。

スマートなトランプ:フロリダ州知事のロンデサンティス氏。文化保守的な政策を訴える政治家。本書の著者は、世界で自由や民主主義をどう守るのかといった国際的な視座を欠き、自身の役割をもっぱら、国内の左派との闘争に見出す内向きな保守政治家と表現する。

連邦最高裁:正式には、連邦最高裁判所。司法府の最高峰に位置し、大統領や議会、政府機関などの権力行使が、憲法違反でないかを判断する違憲立法審査権を持つ。首都のワシントンに置かれている。

連邦議員:正式には、連邦議会議員で、上院議員と下院議員に分かれる。Z世代のマックスウェルフロストは、民主党が強いフロリダ州で、最年少の下院議員に当選した。

在京の大手メディアで取材記者歴30年。海外駐在も経験。

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