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外資の中国撤退で直接投資が初マイナスも「直接投資」ってそもそも何?

ビジネス, 学び

中国に対して、どのようなイメージを持つだろうか。経済成長が著しく、日本を追い越し、アメリカを追い抜く勢いすら見せる国といった印象だろうか。実際、中国の都市部に訪れると、発展の象徴とも言える高層ビルの数に圧倒させられる。

しかし、その中国にもいろいろ問題がある。外国企業が離れるなど、外資の対外直接投資が初めてマイナスに転じたというニュースもあった。

(対外)「直接」投資とは、中国を含めた国外で企業を買収したり、生産設備に投資したりする事業活動のための投資を意味する。

もちろん(対外)「間接」投資という言葉もある。中国を含む国外の株式や債券などの金融資産に投資する行為を意味する。

今回は、直接投資の話。清和大学講師、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、オオコシセキュリティコンサルタンツ顧問などを兼務し、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、中国への直接投資が初めてマイナスになった話を解説してもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。

中国に投資した額<中国からの撤退や規模縮小で回収した額

台湾問題、先端半導体など、米中の間で対立が先鋭化する中、欧米や日本など外国企業の中国離れが加速している模様だ。

中国の国家外資管理局は11月3日、今年7月〜9月の国際収支で、外国企業の直接投資が約1兆7600億円マイナスになったと発表した。マイナスの発表は、統計が公表された1998年(平成10年)以降で初めてである。

マイナスとは、外資企業が、設備投資や企業買収で新たに中国に投資した額よりも、中国からの撤退や規模縮小で外国企業が回収した額が上回った状況を意味する。

「世界の工場」として多くの外国企業が長年中国に投資してきた。21世紀以降は、高い経済成長率を維持してきたが今回、初のマイナスとなった。その背景には何があるのだろうか。
 

中国への直接投資は鋭い落ち込み

1つは、中国国内の事情がある。新型コロナの世界的流行により、感染拡大を抑える「ゼロコロナ」が中国国内では徹底され、日常生活での制限を市民は余儀なくされた。

企業も、経済活動が十分にできなくなった。それらが影響し、中国の経済成長率は近年、鈍化傾向にある。市民の間では経済格差が広がり、16歳から24歳の若年層の失業率は20%を超え、その失業率の発表を中国政府は停止する事態となった。

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若者の失業率がそれだけ深刻であると想定される。習政権は、市民の社会的、および経済的不満の矛先が自らに向けられる事態を強く警戒している。

2022年(令和4年)秋の共産党大会の直前にも、反政権的な市民の動きが北京や上海では見られた。

北京市内では「封鎖は要らない、自由が欲しい」「領袖(りょうしゅう)は要らない、投票が欲しい」などと赤い文字で書かれた反習近平の横断幕が掲げられる動画が一時拡散した。

領袖(りょうしゅう)とは、人を率いる集団の長を意味する。

上海では、女性2人が「習近平、不要」などと書かれた横断幕を持って行進する場面が報じられた。

近年の中国国内のこうした事情も影響してか、外国企業による中国への直接投資は昨年4~6月期以降鋭い落ち込みが見られるようになった。

中国政府の監視の目が強まっている

中国政府の監視の目も強まっている。中国では7月、スパイ行為の定義が大幅に拡大され、反スパイ法の改正法が施行されて、当局の権限が強化された。

従来の反スパイ法の下でも、十分な説明なしに日本人が拘束・逮捕されるケースが断続的に続いていたが、改正法が施行後の今年も、アステラス製薬の50代の男性社員が拘束された。

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日本企業の間では、わが社の社員がいつ拘束されるか分からないと不安の声が広がっている。在中邦人は、不安の中での生活を余儀なくされている。

また、北京や上海に多い外国企業のオフィスには監視の目も強まっている。中国当局は4月、米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーの上海事務所を家宅捜索し、コンピューターや写真などを押収したという。

幸いにも従業員は拘束されなかったというが、対立する国家の企業への監視を中国当局は厳しくしている。

今日の中国は「世界の工場」だった中国ではない

中国との貿易摩擦も関係している。アメリカのバイデン政権は昨年秋、先端半導体が中国によって軍事転用される恐れから、中国に対する半導体輸出規制を強化した。

しかし、米国単独では有効な規制が困難である。そこで米国は、先端半導体に欠かせない製造装置で先端を走る日本とオランダに対して同規制に加わるよう今年1月に要請した。

日本は、7月下旬から、先端半導体関連23品目で対中輸出規制を開始した。中国は、対抗措置として、希少金属(レアメタル)のガリウム、およびゲルマニウムの輸出規制を8月から厳格化し、日本産水産物の輸入をその後に全面的に停止した。

最近、中国は、日本に対して経済的、および貿易的不満を募らせている。日本に対して経済的威圧を仕掛けてくる可能性が今後も十分にある。

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外国企業にとって今日の中国は「世界の工場」だった中国ではなくなっている。

中国経済の勢いには陰りが見え、外国権益への監視の目が中国国内では強化されている。外国企業の対中投資欲はマイナス傾向が今後も続く可能性が高い。

若いビジネスパーソンも、隣国の状況を頭に入れておいて損はない。

[文:和田大樹]

専門分野は、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事するかたわら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に、国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などのテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室、防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。
詳しい研究プロフィールは以下、https://researchmap.jp/daiju0415

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