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日本の鉄道は凄い!東京メトロの研修にフィリピン運輸省が参加したわけ

ビジネス

 日本の鉄道の技術力は、海外でも注目されている。あるテレビ番組では、東京メトロでロケが行なわれ、海外の鉄道事業者が舌を巻くほど。

東京メトロ

フィリピン政府運輸省職員の訪日を歓迎するポスター

 今、東京メトロの長年培った技術力などがフィリピンに羽ばたこうとしている。フィリピン政府運輸省職員11人が研修する様子を日本のメディアが取材した。

フィリピン、交通渋滞で年間2.4兆円の損失

 フィリピンのマニラ首都圏では、人口増加に伴う交通渋滞が深刻化しており、その経済的損失は年間約2.4兆円とも試算されているという。交通渋滞の一因としては、鉄道整備の遅れ、既存路線の老朽化、維持管理の不徹底による運行トラブルの頻発があげられる。

 これを受け、JICA(ジャイカ)(Japan International Cooperation Agency:独立行政法人国際協力機構)は、フィリピンでの大型鉄道網の整備、既存鉄道の改修を手掛け、一部はすでに施行段階に入っているという。このような背景から、鉄道事業の効率的な運営、維持管理に向けて、質の高い人材を持続的に育成する仕組みの早急な構築が求められている。

 そこで、フィリピン政府は鉄道人材育成及び監督機関として、フィリピン鉄道訓練センター「Philippine Railway Institute」(通称、PRI。2021年4月開業予定)を設立し、フィリピンにおけるすべての鉄道事業者向けに知識や技術を身につけるため、研修を行なうことになった。

 JICAと東京メトロは「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化プロジェクト」として、この取り組みを支援しており、2019年7~9月に東京メトロでフィリピン政府運輸省職員向けに研修が行なわれている。

 のちの囲み取材で、フィリピン政府運輸省のアネリ・ロントック次官はこう述べた。

「PRIを設立した目的というのは、“方針を決めるとか”、“人材の育成をどういうふうに進めていくか”というところに主眼があるわけです。その参考として、今回、東京メトロの研修に参加させていただいて、もっともベストなものを私たちは学んでいきたいと思っています」

運転部の目標は「安全・安定輸送の確保」

東京メトロ

中野運転事務室の会議室

 フィリピン政府運輸省職員は午前中、駅の見学を行なったあと、午後から中野運転事務室の会議室で講義を受ける。まず、東京メトロ全体と運転部の組織図を紹介したあと、運転に関する講義に入る。

 運転部の目標は「安全・安定輸送の確保」で、8つの行動目標を掲げているので紹介しよう。

・「重大事故及び重大インシデント発生件数0」を目指します。
・「基本動作・報告の徹底と自ら考える行動」でヒューマンエラー対策を行ないます。
・「教育、訓練の確実な実行」で的確な判断と、高い事故・災害・事件対応力を発掘します。
・「事前確認の徹底」で夜間作業における事故の排除を目指します。
・「定時運行率向上と見守る目の徹底」でお客様の安心度を向上します。
・「お客様の声の把握と的確な情報提供」でお客様の満足を向上します。
・「本音の話し合いと報告・連絡・相談の定着」で風通しのよい職場を作ります。
・「高い規範意識と使命感・責任感ある行動」で社員・同僚を守ります。

 行動目標を目にすると、私が2012年7月に初めて東京メトロを取材したことを思い出す(実は鉄道事業者に直接取材するのは初めてだった)。

「お客様の命や財産をお預かりしながら仕事をしているので、そういう部分では、すごく神経を使いますし、緊張もします」
「あれだけ毎日たくさんのお客様を乗せて、あの大きな電車を自分ひとりが運転しているとなると、“すごいな”と思います」

 取材に応じた東西線運転士の重いコメントが脳裏によみがえる。特にラッシュ時は1つの列車に1000人以上の乗客を運ぶのだから、その緊張感は計り知れない。“基本に忠実”を遵守し、その積み重ねこそ、重大な事故を防ぎ、乗客からの信頼が絶大なものとなるのだ。

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