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JR九州、新観光列車『36ぷらす3』を満喫。新感覚の畳敷き客室も

暮らし

JR九州は、「デザインと物語のある列車で九州を楽しむ」ことを目的に、オンリーワンの車両を用意したD&S(デザイン・アンド・ストーリー)列車を展開している。特急から普通列車まで幅広く設定され、ほとんどは市販の時刻表にも掲載されている。

九州旅客鉄道

青柳俊彦社長、来賓、『36ぷらす3』の制服を着用したクルーを一堂に会したフォトセッション(提供:九州旅客鉄道)

 これまでのD&S列車は気動車中心だったが、ついに電車が進出。787系特急形電車6両を1年かけて大改造した『36ぷらす3』が2020年9月に完成した。運行ルートも多彩で、九州全7県に足を踏み入れる。10月16日の鹿児島中央発、宮崎行きから“九州の新しい汽車旅”がスタートする。

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紆余曲折の末、“大作”が完成

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787系同士の顔合わせ

 787系は1992年に登場。当時45歳の水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所)が初めて手掛けた新型車両で、近未来的な空間、多彩な設備などが乗客の好評を博し、鉄道業界に大きな衝撃を与えた。

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囲み取材に応じる水戸岡氏(左側)と青柳社長(右側)

 登場とデビューから四半世紀を越えた2018年、D&S列車の構想が持ち上がった。ところが、最初のデザイン案は経営会議で却下されたという。「ななつ星よりも難しかったし、新幹線よりも難しかったし、どうしていいか最初わからなくてですね」と水戸岡氏は式典の席で述懐した。

 デザインをやり直し、1年にわたる大改造の末、“大作”が完成したのである。787系を手掛けて約30年、このあいだ、鉄道に対する見方については「あまり変化はない」(囲み取材談)という。すべては利用客に喜んでいただけるデザインを心掛けてきたのだ。鉄道車両の常識と概念を次々と打破し続け、多大な影響と功績を残した水戸岡氏である。

エクステリアはブラックとゴールドを組み合わせ

 今回の新しいD&S列車『36ぷらす3』という名の由来は、「九州は世界で36番目に大きい島」の36、「驚き、感動、幸せ」という3つを足すと、「Thank you(39の語呂合わせ)」となること。JR九州は“世界一大きい「感謝」の輪”を描いたのだ。

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3号車の車体に描かれた39の星と、きらびやかなロゴ

 車体の塗装はグレーメタリックから、黒い森をイメージしたメタリック塗装で、光のあたり具合や角度によって、様々な印象を生み出すという。ロゴは金色をベースに、主要なポイントには電鋳を制作した立体的なものを配した。

 787系定期列車との併結運転は想定していないが、車両基地内の移動、異常時の対応などを見越し、電気連結器(制御回路の引き通し線を連結するもの)が引き続き装備されている。

九州の和を強調した共通のインテリアデザイン

 インテリアについて、各車両共通しているのは、下記の通り。

● 側窓部分に障子をはめ込む。

● 福岡県の伝統工芸、大川組子を多用。

● 座席やカーテンには、水戸岡氏により植物を中心とした柄がていねいに描かれている。

● 壁や荷棚などはホンモノの木を加工した素材を使用。

● 床には寄木仕上げ、木にオリジナル柄を印刷。

● 3号車を除く各車両に、キャリーバッグなどに対応した収納ボックスを設置。5・6号車については、ハットラックがあり改造前の面影を残す。

1・6号車は新感覚の畳敷き

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 続いて1号車から順に御案内しよう。1・6号車は“新感覚の畳敷き車両”で、靴を脱いでくつろぐ。6号車は後述するとして、ここでは1号車の畳個室を御案内しよう。

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和と洋を組み合わせ、レトロな雰囲気の個室

 改造前、グリーン車の座席だった部分を4人用個室にリニューアルされ、3室設置。パーテーションの高さを抑えることで、明るく、開放的な空間としている。座席は椅子2脚とソファー1脚を組み合わせた。

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1号車の4人用完全個室(提供:九州旅客鉄道)

 もう1室は既存の“「サロンコンパートメント」という名の4人用完全個室”をリニューアル。ほかの個室と比べ、リッチ&デラックス感を強調したように映る。いずれも3人利用も可能である。1号車の定員は4室合計16人、使用樹種はブラックウォールナット。なお、1号車にトイレはない。隣の2号車のトイレは、3号車付近に設置されており、「1号車はトイレにたどりつくまで少々距離がある」ことを頭に入れたほうがいいだろう。

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鉄道の畳敷き車両は、お座敷がセオリーだった(写真はJR東日本の『リゾートエクスプレスゆう』)

 参考までに、JR九州の畳敷き車両は、1994年6月30日で全廃された団臨用ジョイフルトレイン『Bun Bun』『しらぬい』など以来、26年ぶり。これらの車両は「お座敷車両」と言い、温泉旅館の宴会場(大広間)を鉄道車両に応用したもの。水戸岡氏は畳敷き車両の概念をも変えた。

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