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愛知 “密集”音楽フェス、主催者の決定的な怠慢/ラッパー・ダースレイダー

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フェスのあり方がわかる歴史的映像『サマー・オブ・ソウル』

 祝祭の機能について言及してきましたが、では本来の祝祭とはどんなものなのか? が気になった方には、8月27日から公開されているクエストラブ監督の『サマー・オブ・ソウル』という映画をおすすめします。

 この映画は、1969年のアメリカ・ニューヨークのハーレムで開催されたブラックミュージック及びラテン系のミュージシャンが大勢出演した「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」というフェスの映像を50年ぶりに蔵出しし、アミール・“クエストラブ”・トンプソン監督が再編集、さらに当時参加していたアーティストやお客さんのインタビューを交えて作り直した作品です。

 この約50年前の映像を2021年の今、映画として公開するクエストラブ監督のメッセージは非常に明確です。60年代のアメリカではベトナム戦争があり、そしてケネディ大統領やマルコムX、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなど社会的影響力の強い人物が相次いで殺されるなど非常に荒れた状況でした。公民権運動があり、黒人の参政権も認められた直後でしたが、ニューヨークのハーレムの治安も良くなかった。

フェスの機能、そして“音楽の力”とは?

サマー・オブ・ソウル

『サマー・オブ・ソウル』

 そんななか、当時のニューヨーク市長であるジョン・リンゼイ氏という非常にリベラルな人物がOKを出したことにより、このフェスが開催されました。そうそうたる黒人やラテン系アーティストが出演し、毎回5万人もの人々が集まり、のべ30万人が参加したと言われています。

 そこでおこなわれたライブパフォーマンスももちろん素晴らしいのですが、こういった社会的背景や社会課題を共有したコミュニティの人々が、問題に対してどう向き合うのかという議題を音楽の力を使って表現する場として、フェスが提示されているのです

 また、「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」では“Black is Beautiful”や“Black Power”といった言葉が連呼されたのに対し、現在のアメリカにはBlack Lives Matter運動があり、50年を経たアメリカで当時提示されたテーマが、どれだけ解決されているのか? というメッセージも同時に読み取れます。この映画では、テーマ性や社会的・政治的な前提を持ったフェスの機能、そして“音楽の力”というものを非常に象徴的に提示されているのです

<TEXT/ダースレイダー 構成/阿形美子 撮影/山口康仁>

1977年パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、ラップ活動に傾倒し中退。2010年6⽉に脳梗塞で倒れ合併症で左⽬を失明するも、現在は司会や執筆と様々な活動を続けている。

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