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愛知 “密集”音楽フェス、主催者の決定的な怠慢/ラッパー・ダースレイダー

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個々のイベントを責めるのではなく、行政の対応を問うべき

フェス

※イメージです

 さて、「NAMIMONOGATARI」に話を戻すと、感染対策は徹底していると事前アナウンスをしたにもかかわらず、まったくされていなかった。しかも事後の謝罪文でも、「言われた事やったがうまくいきませんでした」という話に終始しています。つまりこれは、自分たちが企画した感染対策下でのイベントがすでに破綻していることを意味するわけです。

 また、主催者が、感染が急拡大する2021年8月にフェスを開催することに対してどのように考えていたのか、という説明はなされていません。主催者がどれだけ向き合えていたのか、僕ははなはだ疑問です

 この炎上によって僕が懸念したのは、他のイベントにもマイナスの波及効果が及ぶ可能性です。しかし、愛知県の大村知事は早々に「自治体との事前の約束が守られず、横紙破り的な状態であるため、同団体への場所の貸し出しは今後しない」という旨のコメントを出しながらも「きちんと感染対策をしているフェスやイベントはその限りではない」という態度をとりました。僕は、大村知事のこの素早い対応を非常に評価すべきだと思います。

 ちなみに大村知事は、「あいちトリエンナーレ 2019」の騒動の際も「行政は文化事業の内容には口を出さない」「補助金は事業の中身を検閲することなく払うもの」という態度でした。今回も大村知事は、ジャンルや音楽性といった内容に立ち入る話はしていません。

 世間ではヒップホップという大きな主語を使って非難する発言が非常に目立ちますが、実際には、あらゆるものはケースバイケースで向き合うべきであり、今回の大村知事がとった態度もしかり。その意味でも評価したいと思います。

開催する裏には、補償制度の不備がある

 世間にはイベントへのマイナス意見も多いですが、このタイミングで開催するのは補償がないからです。文化庁は昨年、「2021年にはコロナ禍がある程度収まっているだろう」という楽観的な展望のもと、イベントなど何かしらのアクションをおこした場合に補償をするというスキーム(ARTS for the future!)を作りました。

 このスキームは、中止よりも開催した場合の補償額のほうが大きく、また全面的な補償等がないため、現状に合った内容とは到底言えないものです。ちなみに、補償金というのは後払いであり、最初に負担するのは主催者なのです。

 そのため、大規模なイベントを開催するという判断も理解できます。その場合は用意されてるスキームに則って行うこととなる。行政の補償体制の遅れがこういったところにも響いているわけです。行政が国会を憲法違反状態でずっと開かず、自分たちがやりたい祭りを優先してきた結果、民間のイベントでこのような事件が起こってしまったことは、行政に大いに責任があると僕は改めて思います。「NAMIMONOGATARI」の件も、主催者に責任を全てかぶせる形でなかったことにするのではなく、行政がコロナ禍に立ち向かう姿勢を改めて問うべきでしょう。

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