なぜパスワードは破られるのか?天才脱獄犯が示唆する「ハッカーの心理」
脱獄の動機を見抜いた所長は
これだけサイバーセキュリティが進歩した時代にあっても、ユーザーIDとパスワードを記したメモ帳を奪われてしまえばアカウントは簡単に乗っ取られてしまう。
それでは我々は、セキュリティの脆弱性をあきらめて、受け入れるしかないのだろうか。そう悲観するばかりでもない。『破獄』の後半はひとつの解説策を提示しているように思えるのだ。
実は、物語が終盤に差し掛かった段階で佐久間は脱獄をあきらめる。府中刑務所長となった鈴江に対し「もう疲れましたよ」と言って、以後は模範囚となるのだ。佐久間の変化の原因はこの鈴江にある。
鈴江は、佐久間の脱獄の動機が看守への反発にあると見抜き、他の囚人と同じく佐久間を親切に扱った。それどころか佐久間に対して仮釈放の可能性まで作る。佐久間は無期懲役となっているが、もし模範囚となれば仮釈放され堂々と外に出られるという道が用意されるのである。
脱獄犯とハッカーの共通点
そして、このわずかな希望こそが、佐久間にとってどんな堅牢な監獄よりも有効な鎖となった。
脱獄犯にしてもハッカーにしても、多くの場合は何らかのインセンティブがあるからこそシステムを破ろうとする。もちろんハッキング自体が楽しいという場合もあるが、そうした者は割合としては少数だろうし、そうした楽しみはシステムを守る側(いわゆるホワイトハッカー)でも得られるはずだ。
だから、システムを破るインセンティブをなくし、むしろシステムを守るインセンティブに転換させることで、ハッキングをおさえられる可能性がある。
実は、現在注目を集めている「ブロックチェーン」もまた、根本にある要素のひとつはこうしたインセンティブ設計にある。