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なぜパスワードは破られるのか?天才脱獄犯が示唆する「ハッカーの心理」

暮らし

システムを破るインセンティブをなくす

ブロックチェーン

 くわしい内容は類書に譲るが、ブロックチェーンにはひとつ大きな弱点がある。それは「51%攻撃」というハッキング手法に弱いことである。簡単に言えば、ブロックチェーンの参加者全体の計算力(コンピュータの質×量)の51%を占める巨大な資源を投下することで、ブロックチェーンの書き換えができるようになるのである。

 しかし、51%攻撃を仕掛ける者は、莫大な資金や資源を投下した上で、結果として資源を投下した先であるブロックチェーン自体を無価値にすることになる。

 そんなことをするくらいなら、ブロックチェーンの仕組みを守って、ブロックチェーンから報酬をもらう(マイニングという)ほうが得だ。こうしたことから、51%攻撃はそうそう起こっていない。

 人間が作った人間のためのシステムには必ず人間という脆弱性がある。だが人間が関係するからこそ、人間の行動原理を理解し、システムを破るインセンティブをなくし、むしろシステムを守るようインセンティブ設計をおこなうことで、より堅固なシステムに作り替えることもできるのである。

 吉村昭『破獄』は、ブロックチェーン時代において、そんなことを我々に再考させてくれるきっかけとなる。

<TEXT/岩尾俊兵>

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県生まれ、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、2021年より現職。第37回組織学会高宮賞著書部門、第22回日本生産管理学会賞理論書部門、第36回組織学会高宮賞論文部門受賞。近刊に『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版) Twitter:@iwaoshumpei

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