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岸田首相はなぜ「聞く力」を強調するか?背景には「脱アベ政治」の意図も

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プロンプターの有無で印象が大きく異なる

官邸会見の様子

コロナ前の官邸会見の様子。それまで多くの記者が参加していたが、コロナ後は密回避の名目で記者の参加を制限

 プロンプターとは、画面に文字を表示できる機械です。鳩山・菅・野田の3首相は原稿を演壇に置き、時折、それを確認しながらスピーチしていました。しかし、演壇に置いた原稿を見ると、どうしても視線を下に落とします。視線を下に落とすと、顔は下向きになります。そうした首相の姿は、テレビ画面を通すと「なんだか自信がないように見える」のです

 多くの国民は会見を直に見ることはできません。テレビ画面に映っている中継やニュースで会見内容を知ります。テレビ画面に映る自信のなさそうな首相の姿は、それだけで支持率の低下につながるのです

 プロンプターに表示される原稿でも、手持ちの原稿でも、どちらも官僚の作文を読み上げていることに変わりはありません。しかし、プロンプターを導入すれば、首相は前を向いたまま原稿を読み上げることが可能です

 手持ちの原稿とプロンプターでは、国民に与える印象は大きく異なるのです。安倍元首相が就任してからプロンプターが本格的に導入されたこともあり、安倍元首相は会見でプロンプターを見て演説するのがデフォルトになりました。

自分の言葉で語りかけるマクロン大統領に対して…

日仏共同会見

2019年に来日したフランスのマクロン大統領との共同会見。安倍元首相にだけ、プロンプターが用意されている

 コロナ以前は、海外から大統領や首相が来日することも珍しくありませんでした。海外から大統領や首相が来日すると、日本の首相と官邸で共同会見を実施するのが慣例になっています。

 プロンプターで会見するのがデフォルトになっていた安倍元首相ですが、さすがに海外の大統領・首相との共同会見でプロンプターを使うことはありませんでした。しかし、2019年に来日したフランスのエマニュエル・マクロン大統領との共同会見では、安倍元首相だけにプロンプターが用意されました

 マクロン大統領は自分の言葉で語りかけるのに対し、安倍元首相はプロンプターを見ながら話すという、奇妙な会見になったのです。諸外国の大統領や首相も、会見でプロンプターを使うことはあります。しかし、すべての会見で使うことはありません。政治家にとって言葉は武器です。言葉の使用を誤れば、政治生命を左右しかねない事態が起きることもあります。

 他人の書いた作文を読み上げているだけでは、自分の武器を放棄したことになります。政治家としての矜持と責任を果たすためにも、政治家は自分の言葉で語ることが大事です。いくら発信力を強化しても官僚の作文を読むだけでは意味がありません

 ちなみに、2020年8月28日に実施された安倍晋三首相の退任会見にプロンプターは用意されていませんでした。辞意ぐらいは自分の言葉で伝えたい、と考えたのかもしれません。

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