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映画『スタンド・バイ・ミー』を深く読み解く“5つのポイント”。劇中の「車」が象徴するのものは

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5:現実とシンクロしたこととは?

 劇中のゴーディは、原作小説を書いたスティーヴン・キングの投影であり、本作はある意味でキングの半自伝的な内容と言ってもいいでしょう

小説

スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編』 (新潮文庫)

 事実として、キングは2歳の時に父が借金を残して家を出てしまい、深夜まで働く母親によって兄と共に育てられていたそうです。さらに、キングが4歳の時に鉄道線の近くで遊んでいた親友が列車に轢かれてしまい、ショックで1日中何もしゃべらなかったこともあったのだとか。DVDのメイキングでは、(原作小説にも書かれている)ヒルに襲われるシーンは、実際に彼が子どもの頃に起こった出来事であったことも明らかにしています。

 キングの父が失踪していたのに対して、ゴーディの父親は健在(だが息子に抑圧的で理解を示さない)などの違いはありますが、キングが幼少期に体験した痛切な体験が、この『スタンド・バイ・ミー』に影響を与えていることは間違いないでしょう。

 さらに、その原作者であるキングだけでなく、クリスを演じた俳優のリヴァー・フェニックスも、劇中の役とシンクロしているのも興味深いところです。例えば、クリスが大人に裏切られてしまった痛切な胸の内をゴーディに吐露するシーンでは、演じているリヴァー・フェニックスは実際に感情を抑えきれなくなっており、その後に監督に慰めらなければならなくなったそうです。リヴァー・フェニックスは家族がカルト教団に入信していたり、妹と共に路上パフォーマーとして日銭を稼いでいたりなど、過酷な幼少期を過ごしていたため、クリスに自身の境遇を重ね合わせていたのかもしれません。

 そんなリヴァー・フェニックスは薬物の過剰摂取により、1993年に23歳の若さで亡くなってしまっています。劇中のクリスがそうだったように、(世界中の人々が)その死を悼んでいたのです。しかし、リヴァー・フェニックスはスクリーンの中で生きていて、ずっと作品としてこの世に残り続けます。その事実もまた、『スタンド・バイ・ミー』の根底にある、「大切な物語を語ることに意義がある」という精神性にシンクロしているようで、切なくも、あたたかい気持ちになれるのです。

【参考サイト】
Stand by Me」 (1986) – Trivia – IMDb

<TEXT/ヒナタカ>

雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」
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