志村けん主演は叶わなかった『キネマの神様』、賛否両論呼びそうだが必見の一作 | bizSPA!フレッシュ

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志村けん主演は叶わなかった『キネマの神様』、賛否両論呼びそうだが必見の一作

 2021年8月6日より、山田洋次監督最新作にして、菅田将暉と沢田研二がW主演を務めた映画『キネマの神様』が公開されている。ご存知の通り、本作は故・志村けんが主演を務めるはずの映画だった。その後も新型コロナウイルスの影響を受けながらも、やっとの完成を迎えた「労作」と言っていいだろう

キネマの神様

©2021「キネマの神様」製作委員会

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 出来上がった作品は、映画への愛情と、人生の厳しさと喜びに溢れた、山田監督らしい人情劇を存分に堪能できる内容だった。正直に言って賛否両論を呼びそうな要素もあるのだが、それでも現代に生きる人々が観る価値が大いにあると断言する。その理由を以下に記していこう。

すぐに「志村けん主演」で撮影が始まるはずだった

 2020年2月末の撮影前の本読みに、志村けんの姿はあった。その志村けんが主演するはずの現代パートの撮影は4月から始まる予定だったのだが、入院が伝えられてまもなくの3月29日に、新型コロナウイルスでの肺炎で亡くなった。しかも、すでに菅田将暉が主演の過去パートの撮影は終了間近だったのだが、4月7日には7都府県に緊急事態宣言が出されたため、撮影そのものもできない状況となった。

 だが、コロナ禍の見通しが厳しい中でも検討が繰り返され、「作品を無事に完成させることが志村さんのいちばんの供養になる」という想いのもと、製作は再び始動することになった。その際に、山田監督は「コロナ禍のこの現在」を、新たに撮影する現代パートに反映させた。

 つまり、新型コロナウイルスによって主演予定だった俳優が亡くなり、しかも撮影の中断も余儀なくされ、「お蔵入り」になる可能性もあった作品だったのだ。だが、それでも完成させることを諦めず、現実の人々がコロナ禍の今に生きていることも作劇に反映された、作品の内外で「コロナに屈しない」映画となったのだ

沢田研二が演じたダメ人間の魅力

キネマの神様

 志村けんの代役を務めたのは、かつては同じ事務所の先輩後輩で、何度も共演していた盟友である沢田研二。「志村さんのお気持ちを抱きしめ、やり遂げる覚悟です」(公開記念舞台挨拶より)と意気込みをみせていたそうだが、そのプレッシャーは半端なものではなかっただろう。

 事実、山田監督も「沢田さんは言葉には出さないけど、この仕事を引き受けることは並大抵の決断ではなかったと思う。志村さんをイメージして描いたダメ男を、沢田さんなりに新たに表現してくれるんじゃないかと思っています」(同前)と語っていた。そして、その「新たな表現」という期待に沢田研二は存分に応えたと言っていいのではないか。

 何しろ、その沢田研二が演じる主人公のゴウは「ギャンブル依存症のダメ男でどうしようもない」という役柄。下手に演じてしまうと、共感できない不快なキャラクターになってしまっただろう。だが、実際はそのダメさに誰かが怒ってしまっても「どうしても憎めない」チャーミングさもあり、なおかつ「若い頃は菅田将暉だった」ことに存分に説得力を持たせた色気という、沢田研二らしさもしっかりある豊かなキャラクターとなっていた。

 もしも志村けんが同役を演じていたら、もっと「良い人そうだから何でも許してしまいそう」なバランスになっていただろう。もちろんそれも観てみたかったが、少なくとも沢田研二は与えられた仕事を十分にこなしており、なおかつ沢田研二というその人が持つパーソナリティーも生かした、「この人が代役で本当に良かった」と心から思える好演をしていた。前田旺志郎演じる、利発な孫との関係性もとても微笑ましい。

 山田監督にとって、『男はつらいよ』シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』などでもわかるように、「憎めないダメ人間」を描くことは十八番のようなもの。ダメだけど愛してしまう、「寅さん」のような「ダメかわいい」キャラクターを、今回の沢田研二に期待してみてもいいだろう。

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