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73年前の小説「ペスト」が新型コロナで大売れ。現在の社会情勢とそっくり

暮らし

段々と「死の感覚」が麻痺していく主人公

ネズミ

『ペスト』の始まりと終わりは一匹のネズミである。始まりは死んだネズミ、終わりは生きたネズミ。謎の熱病で1日の死者が30人に達するところから始まり、海水浴が禁止され、食料や燃料が割当制になる。外出禁止令が出されるが、人々はなんとか自分だけは例外として街の外に出られないか画策する。

 それから2か月、1日の死者がついに100人を超える。感染者と死者という大きな違いがあるが、数字だけを見ると今の東京ともダブって感じられる。そして、外出禁止の厳戒令が出され、違反者は逮捕されるようになる。

 死体の処理さえも満足にできず、頼みのワクチンも効かない。そんな段階になって人々が頼ったのは迷信や予言だった。市民に対して落ち着くよう説得する神父、必死で医療崩壊を防ぐ主人公とその仲間、だがそうした人々もやがて命を落としてしまう。主人公にとって死が当たり前になり、自分の仲間や妻の死さえも自然な気持ちで受け入れられるようになる……。

社会によって増幅される病気でもある

 そんなペストの流行もやがて収束に向かう。医師である主人公は、この物語を人間賛美のために、ペストに打ち勝った記録のために、やがてまた来る感染症の恐怖を忘れないために後世に残したことを告白し、物語は終わる。

『ペスト』が私たちに教えてくれるのは、新型コロナウイルスのような感染症は医学的な病気であるとともに、社会によって増幅される病気でもあるということだ。

 個人の身体へのダメージと社会へのダメージがフィードバックを起こしてしまう、ともいえる。これは、ロバート・マートンが定式化した「予言の自己成就」と呼ばれるメカニズムに、複雑系経済学でいうミクロ・マクロ・ループ(リンク)というメカニズムが掛け合わされた状況である。

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