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73年前の小説「ペスト」が新型コロナで大売れ。現在の社会情勢とそっくり

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『ペスト』が教えてくれること

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 マスク、トイレットペーパー、除菌製品などは「すぐに足りなくなる」という予言自体が社会を動かして実現を後押ししてしまう。その結果、必要な人に物資が行き渡らなかったり、混乱の結果として人が殺到しそこで余計に感染症が広がったりする。

 ミクロなウイルスの世界がマクロな人体に影響し、ミクロな個人の動きがマクロな社会の動きに影響し、マクロな社会の動きがミクロなウイルスの世界に影響するのである。

 だが、『ペスト』は同時に我々に希望をもたらしてもくれる。人類はこうした感染症に打ち勝ってきたことを教えてくれる上、我々が置かれている状況が普遍的なものであることを気づかせてくれるからだ。カミュの『ペスト』を読むことで、我々は新型コロナウイルスをめぐる社会情勢を「人間社会によくあること」として俯瞰してみることができるようになる。

 このとき、ミクロとマクロのループは断たれ、ウイルスの増殖にブレーキがかかり始めるだろう。『ペスト』で描かれた主人公リウーの願い、そしておそらくはカミュの願いは、70年超の時間を経て今の我々に届いている。

<TEXT/岩尾俊兵>

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県生まれ、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、2021年より現職。第37回組織学会高宮賞著書部門、第22回日本生産管理学会賞理論書部門、第36回組織学会高宮賞論文部門受賞。近刊に『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版) Twitter:@iwaoshumpei

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