「若いうちはテンポよく失敗したらいい」一発屋芸人・髭男爵が説く人生哲学
明確に“あきらめる”ことで視界は良好になる
――髭男爵と同時期にブレイクした芸人のなかには、もう中学生さん(ミュージカル『メリー・ポピンズ』に出演)やパッション屋良さん(地元沖縄県でトレーニングジムを開業)など別ジャンルでの活躍も目立ちます。
山田:"セカンドキャリア"みたいな意識の仕方をしたことはないですね。大体、これまで行き当たりばったりの“近視眼”的な生き方をしてきたので。
――山田さんと同じく、南海キャンディーズ山里亮太さん、オードリー若林正恭さんも本を出されています。共通して“何かをあきらめた”というテーマがあるように思えるのですが。
山田:いやいや、全然違う。怒られるわ(笑)、お二人は本業できっちり成功してますから。
あくまで僕個人の話でいえば、自分ができないことが明確にあったほうが視界は良好になると思っていて。仕方なしにでも、歩くべき道がはっきりすれば、天才じゃなくても機嫌よく生きていける気がしますね。
若い人に大事なのは“テンポよく失敗していくこと”
――今回の本では一発屋芸人として、一部のSNSユーザーに対する憤りみたいなものについても触れられています。SNSと言えばここ最近、ガリガリガリクソンやキートンなどSNSでお笑いコンテストを批判する芸人さんも目立ちますが。
山田:僕はコンテストにそういう存在がいても全然いいかなと思いますけど。結果的に話題を作って盛り上げているので。ただ、SNSは、使う人が「思ったよりパンチのリーチが長くなってるよ」というのを意識しないとダメです。相手に当たってないと思っていても、実際には当たっていたということが多々あるわけですから。
――芸人の立ち位置が難しい時代です。もしも娘さんの口から「お笑い芸人になりたい」と言われたらどうしますか?
山田:少なくともコスプレキャラ芸人は薦めないでしょうね(笑)。一発屋芸人はすごい発明をしてる。正直、もっとリスペクトされていい笑いの発明をしています。とは言え、世間は“皮(外見)”でしか見てくれない。もちろん、それで良いんですけど、リスペクトはされませんから。
なので、娘に「コスプレキャラ芸人だからといって舐めるような大人」にだけはなってほしくない。それってコトの本質を分かっていないということなので。そこさえ押さえてくれれば、まぁ好きにすればいいと思いますけど。
――では最後に悩める20代のビジネスパーソンにアドバイスをお願いします。
山田:先輩方"大人"は、「キミたちの可能性は無限大や」とか嘘ばっかりつくから信じないほうがいい。無限に選択肢があったら、むしろ選べないわけですし(笑)。
天才は一発目で自分に向いてることを掴めるけど、我々みたいな凡人はぜんぶツブしていかんとダメ。「俺に残るのは、この道なんだ……」っていうのがないと前に進めないと思うんです。
“あきらめる”という行為はすごく有効な手段で、消去法で自分に合った道を選択できるってこと。だから若い人は、“テンポよく失敗していくこと”が大事。若いうちに選択肢を削っておいたほうが実りある人生を送れると思います。
<取材・文/鈴木旭 撮影/山川修一>
【山田ルイ53世】
本名、山田順三。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。1975年兵庫県出まれ。地元の名門・六甲学院中学校に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学・中退。’99年、ひぐち君と髭男爵を結成。主な著書に『ヒキコモリ漂流記 完全版』 (KADOKAWA) 『一発屋芸人列伝』(新潮社)などがある