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「自分、負けに向かってるな」髭男爵が見た“一発屋芸人”前夜

 1月4日、エッセイ本『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)を上梓したお笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世(43)。

 前作『一発屋芸人列伝』(新潮社)では、自身と同じ“一発屋芸人”たちを取材してまとめた、「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。その文才はすでに折紙つきだが、今作では山田さん個人のエピソードに笑い、驚き、共感すること請け合いの充実した作りとなっている。

髭男爵

髭男爵・山田ルイ53世

 インタビュー前編では、連載スタートのきっかけや“一発屋芸人”のユニークな視点について話を聞いた。後編では、本業である“お笑いの世界”をメインにお届けする。“一発屋芸人”前夜、山田さんはどんな心情だったのだろうか?

衝撃的だった大木こだま・ひびき師匠

――山田さんは大学を辞めた後、NSC(吉本総合芸能学院)の東京校に入学されています。当時のクラスの雰囲気はいかがでしたか?

山田ルイ53世(以下、山田):僕は3期生でトータルテンボスとかが同期なんですけど、いま思い返してもみんな野心をみなぎらせてましたね。「戦略を立ててこういうふうにやっていこう」みたいな。ただ、僕はもう流れに流れてフラ~ッと来てるだけやから(笑)。

――プレッシャーは感じなかったですか?

山田:プレッシャーというより自己嫌悪というか、コンプレックスはありました。「自分には根源的に“たぎるもの”がないんやなぁ……」って。

 たまに目をギラギラさせて、「この間、銀座7丁目劇場(吉本興業運営の劇場。1999年閉館)に見学に行ったら○○さんとお話しさせてもらった!」とか鼻息荒くアピールしてる子もいました。僕はそういうのも苦手で。結局、NSCも途中で辞めちゃいましたしね。

――芸人をはじめてから、あこがれの的となった先輩はいますか?

山田:(大木)こだまひびきさんですね。「チッチキチー(こだま師匠の持ちギャグ)」がブームになるよりも前から大好きで。おこがましいので分析めいたことは言えませんが、あの漫才のスタイルには衝撃を受けましたね。

「そら見たことか」M-1グランプリ敗者復活で感じた手応え

髭男爵

正統派では無理なのに、そこから離れられないコンビを一杯見てきた

――当時人気だった『エンタの神様』に出演するきっかけは2006年に行われた『M-1グランプリ』の準決勝進出、敗者復活戦での評判が大きかったそうですね。

山田:ただ、その1年くらい前からオーディションを受け続けてはいたんです。エンタって打ち合わせ込みでやるんですけど、自分たちの持ちネタ、貴族ネタは早々に却下されて、その後はどんなものを見せてもハマらず。作家さんが考えたネタも、正直面白くはならなくて。

 そんなとき、持ちネタの「貴族のショートコンツェルン」をM-1でやってみたらすごくウケた。当時の若手漫才界は、ほとんどが正統派。コンビ揃ってキャラを纏っているのは非常に珍しかった。そのなかで1組だけ「ルネッサーンス!」って出ていったら目立ちます(笑)。ある意味計算通りで、それから呼ばれるようになりました。

――それまで、まったく同じネタをダメ出しされていた悔しさはなかったですか?

山田:「そら見たことか」とは思いましたよ(笑)。ただ、エンタはあのパッケージで結果を出していたわけですし、番組とか作家さんが悪いとは思ってないです。

 逆に今考えると、打ち合わせで作家が出してきたネタで世に出なくてよかった。もしあれでいってたら、たぶん1、2回番組に出て終わってたと思いますから。